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27・おっさん、マリーちゃんを心配する

 アシュリーが王都に帰っていき、やっと元通りの生活に戻った——と思ったのだが、


「ゴブリンが怖いの」


 と。

 ディックの家で朝ご飯を食べている中。

 マリーちゃんが突然そんなことを言い出した。


「ゴブリンが?」

「うん。あの女騎士さんが洞窟から戻ってきたけど、まだゴブリンは残っているんだよ? いつ洞窟から出て、襲いかかってくるか分からないの」


 ブルブル震えるマリーちゃん。


「うーん、それはないと思うけどな」


 ゴブリンは本来、臆病な性格である。

 さらにモンスターの中では利口な部類。

 なので自分の住処すみか——ダンジョン等に仲間と一緒に引きこもっている。


 基本的にはダンジョンから出てこないと思うんだが。


「街のみんなも怖がっているみたいだぜ」


 ディックがシチューを口にしながら言う。


「まあ普通の人ってモンスター怖いよな……」

「ん? おっさんは怖くないのかよ」


 俺か……。

 勇者パーティー時代に散々出会ってきたしな。

 感覚が麻痺しているというか。

 逃げ足だけは速かったので、遭遇してもなんとかなるだろうとタカをくくっている部分もある。


 だが。


「そりゃあ、俺だって怖い。怖すぎて怖すぎて夜も眠れないくらいだ」

「なんか嘘っぽく聞こえるのはオレだけかっ?」


 そう。

 スローライフにモンスターと戦闘なんていらない。


「けど、アシュリーは王都に戻ってゴブリン討伐のために準備してくるって言ってんだろ。あいつを信じて待つしかないだろ」

「そりゃそうなんだが……」

「ブルーノさん。アシュリーさんはいつ戻ってくるんでしょうか?」


 そう尋ねてきたのはリネアである。

 今日も金色の髪がとてもキレイで、肌は透き取っているようで妖精のようだ。


「——馬車を使っても、こっから王都まで一週間って言ったところか? となると——最短でも二週間くらいか」

「その二週間の間にゴブリンに襲われるかもしれないの……友達もあんまり一人で外出出来ない−、って言ってたの」


 確かに二週間はちょっと長いかもしれないな。


「ゴブリンと出会っても、倒せるくらいの力があればいいんだがな……」


 だが、それをマリーちゃんみたいな女の子に求めるのは酷な話だろう。

 せめて、剣でも持たせやれば——。


「ん? 剣?」


 そうだ。


「マリーちゃん。護身用の武器を持っておくってのはどうかな」

「ごしんよう?」

「うん。自分の身を守るための武器、っていう意味だ」

「マリーでも使えるかな?」

「基本的に護身用の武器ってのは、素人でも使えるようにしたものだ。マリーちゃんでも十分使えると思う」


 そう言うと、マリーちゃんは表情をパッと明るくさせて、


「マリー! 護身用の武器欲しいの!」


 と言った。


「よし……じゃあ早速、今日にでも買いに行——」

「おっさん」


 立ち上がろうとしたら、ディックに呼び止められる。


「それくらいなら、街のみんなも考えているよ。でもろくな護身用の武器が売ってないんだ。冒険者が使うような剣は重いし、マリーが使うのは危険だと思うし……」

「どうして売ってないんだ?」

「さあ? 多分、めぼしいヤツは金持ち連中が買い漁った後だと思うぜ」


 いつの時代も貴族というのは、勝手なヤツ等である。


「ろくな武器がなかったら、ゴブリンに遭遇しても意味ないよな……」


 逆に『戦う』を選んでしまったため、無用な危険に陥るかもしれない。

 それだったら、最初から『逃げる』一択いったくの方が安全だ。


「うーん……」


 頭を悩ます。



《なに悩んでいるのよ。あんたが自分で武器を作ればいいだけじゃない》



 おっ。

 都合良く、女神の声が聞こえてきた。


「(そんなこと出来るのか)」

《当たり前よ。武器の生産といったら、スローライフの醍醐味じゃない》


 生産——つまり生産職。


 成る程。

 いかにもスローライフっぽい。


《ってか神の秘薬も作れるくらいなんだから、武器くらい楽勝よ》


 それもそうだ。


 そうと分かれば……、


「マリーちゃん。俺が護身用の武器を作ってやるよ」


 そう言うと、マリーちゃんはテーブルから跳ねるようにして立ち上がり、


「ホ、ホントっ?」


 と目を輝かせた。


「ああ、ホントだ。でも『無』から武器を作り出すことは不可能だ。まずは素材を集めてこないと……」

「じゃあマリー! 素材集めてくるの!」


 マリーちゃんがダッシュで家から出て行こうとする。


「ちょ、ちょっと待てマリー! お前一人だけじゃ危険だ!」


 その後をディックが慌てて追いかける。


「やれやれ……ゴブリン怖いって言ってたところなのに、一人で出掛けてどうするつもりなのか」

「ブルーノさん、私達も行きましょう。ディック君とマリーちゃんだけじゃ心配です」


 俺は肩をすくめ、リネアと一緒にマリーちゃん達に付いていった。


 ◆ ◆


 俺達が行ったのは毎度お馴染みイノイック近くの森だ。

 俺の【スローライフ】によって、弱いモンスターですら一体も出なかった。

 俺とリネアは、ディックとマリーちゃんが楽しそうに素材を集めている姿を後ろから見ていた。


 気分としてはピクニックだ。

 そして昼前くらいにディックの家へと帰り、



「さて……素材は集まったが」


 テーブルの上に集まった素材を並べる。


「本当にこんなので武器なんか作れるのか?」

「おっちゃん! メッチャ強い武器作ってなの!」


 疑わしそうな目線を向けるディックに、はしゃでいるマリーちゃん。

 集まった素材は、森で拾った石とか草とかキノコとかだ。


 ただ——もしかしたら、超貴重な素材かもしれない。


 そうだったらいいな。そうじゃないと思うが、そうだったら凄い武器作れそうなんだけどな。


「ブルーノさん、これをどうすつもりですか?」


 とリネアが質問。


「どうするって?」

「武器を作るには道具や施設が揃った鍛冶場が必要です。市街に行って、鍛冶場を借りますか」


 そうか。

 その考えには至らなかった。


《なに言ってんのよ》


 お、女神。


《【スローライフ】があれば、そんなの必要ないわ》


 うむ、そういえば。

 神の秘薬とやらを作った時も、ディック家の二階でやったし。


 だから俺はリネアを見て、


「それなら心配ない」

「はい?」

「俺のいるところが鍛冶場だからだ!」


 胸を叩いて、そう力強く宣言する。


「…………」


 ん?

 我ながらカッコ良い台詞だと思ったが、リネアはジト目を向けてきている。


「と、とにかく! また二階の部屋を借りていいかな」

「当たり前だ」

「そうそう、集中力が乱れるかもしれないから、部屋には入らないでくれよ」


 リネアの視線から逃げるようにして、二階へと向かった。

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二周目チートの転生魔導士 〜最強が1000年後に転生したら、人生余裕すぎました〜

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