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25・おっさん、ダンジョンに潜る

 イノイック近くの薬草が()()()()生えている森は、それ程モンスターは出ない(突然現れたキングベヒモスは特殊だと見なすが)。

 だが——洞窟にはモンスターが蔓延り、一種の『ダンジョン』と化してしまっている。

 ろくな装備品も持たず、洞窟に潜るのは愚かだ——。


 と……ここまでがダンジョンに関する一般人の考え。


「……まさか、またダンジョンに潜ることになるとはな」


 それなのに一般人に戻った俺が、どうしてまたこんなことしてるのか。


「ん? なんか言ったか?」

「早くアシュリ−様を助け出しに行かなければ!」


 そうこうしている内に洞窟の前へと到着。

 文句がありながらも、俺は騎士(男)二人を連れて、洞窟へと入った。

 奥に進むにつれ、内部は暗くなっていったが、騎士の一人が光を放つ魔法石を使ってくれたので、快適に進むことが出来る。


「むっ! もう少し、警戒しろ! どっからモンスターが出てくるか分からないんだぞ!」

「そうだ! そもそもイノイックの冒険者共は怠けている。だからこそ、ゴブリンがあれ程増殖したのだ!」


 緊張しているのか。

 二人の騎士の口調も荒々しくなる。


「ああ−、大丈夫だから大丈夫だから」


 二人が後方で騒いでいる中、俺は胸を張って堂々と歩く。


 ちなみに洞窟に入って、十分以上は経過しているが。

 モンスターに遭遇するどころか、気配さえも感じない。

 普通これだけ歩いていれば、モンスターの一体や二体と遭遇してもおかしくないはず。


「(どうやらスキルの効果は本当みたいだな)」

《わたしが嘘を吐くと思ったわけっ? わたし、そんな性格悪くないわよ!》

「(一体どの口が言うんだが)」


 俺が女神と(頭の中で)そんな会話をしていると、


「お、お前はどうしてそんなに余裕なのだ!」

「やはりかなりの実力者なのか……」


 後方で二人の騎士が勝手に勘違いしている。


 うむ。

 余裕に見えるのだろうか。


 内心は、


(モンスター出ないでください出ないでください出ないでください出ないでください!)


 とビビりまくってるんだが。


 まあ強く願うことがスキルの発動条件なので、仕方がない。


「(それにしても、スローライフをするにはかなり便利なスキルだと思うけど……)」


 何故なら。

 激しい戦闘だとか、ピンチだとか、ダンジョン攻略だとかはスローライフとは程遠いものに思えるからだ。

 

 スローライフに関することが()()に実現する。


 これさえあれば、モンスターに出会わず、必然的に戦闘になることもない。

 これぞまさにスローライフ!


「(一体どういう仕組みなんだ?)」

《ふうん? あんたもそんな細かいこと気にするのね》

「(まあ……ちょっとは……なんか不自然というか……)」

《良い? 絶対敵わないと思った相手にはモンスターっていうのは襲いかからないものなのよ》

「(ふんふん?)」

《その原理を利用して、あんたの体から『強者』のフェロモンがスキルによって分泌される。モンスターに出会わないのではない。モンスターから寄ってこないのよ。まあ実際【スローライフ】があれば魔王にすら勝てるんだけども——》



「アシュリー様だ!」



 女神からそんな講義を受けている途中。

 一人の騎士が指を差して、叫ぶ。


「(悪いけど、この話はまた後で!)」

《わたしは戦いを避けることよりも、ガンガンバトルを仕掛けていってくれた方が嬉しいんだけどね……見てて飽きないから)》


 女神の言葉に反応せず、指差した方向へと駆け寄る。


「に、逃げろと言っただろう……戻ってくるなと言っただろう……」


 ——そこには。

 壁にもたれかかり、地面に腰を付けているアシュリーがいた。


 だが、アシュリーだけではない。


「お姉ちゃんがお姉ちゃんが……私を助けるために……全部わたちのせいだよぉ」


 アシュリーの両腕には、小さな子どもが抱えられていた。


「その子は?」

「洞窟で迷い込んだ子どもだ。ゴブリンから逃げている途中、たまたま発見したのだが——戻れる手段がなくてな」


 そう言って、アシュリーは視線を下に落とす。


「怪我してるじゃないか……!」


 アシュリーの右足から血が出ている。

 見ていて痛々しい。


「愚かなものだ。あんなゴブリンとの戦闘中に傷を負ってしまってな……この足さえ治れば、ダンジョンから脱出出来ると思うんだが」


 そう気丈に振る舞っているものの、アシュリーは相当痛そう。

 洞窟はどちらかというと肌寒いのに、べっしょりと汗を掻いている。

 普通の女の子なら、泣き叫んでいるだろう。


「アシュリー様ぁぁぁあああああああ!」

「おおおおおおおお! アシュリー様が死んでしまうぅぅぅうううう!」

「抱きついてこようとするな!」


 二人の騎士が目から涙を流し近付くが、アシュリーに拳をくらわされてしまう。

 どんだけアシュリーのこと好きなんだよ。


「立てそうか?」

「——クッ、それは少し厳しいかもしれぬな」


 アシュリーの手を取って立ち上がらせようとするが、すぐに座り込んでしまう。


「うーん、おんぶして帰ろうかな……」


 鎧は重そうだが、脱がせば問題ないだろう。

 男が三人もいるし、順番におんぶすれば十分帰れるはずだ。


 だが。


「なっ——! まだ百体をも超えるゴブリンは全滅していないんだぞ! それなのに、私が戦えずそれどころかただの重い荷物に成り下がった今、動くのはあまりにも危険だっ!」

「ああ、それは大丈夫。モンスターなら遭遇しないから」

「なにを意味の分からないことを言っている!」


 アシュリーが一喝してくる。


「そうだそうだ! アシュリー様をおんぶするなんて、なんて恐れ多い!」

「背中にアシュリー様の胸が当たって、喜ぶつもりだな? 服の上から推測するに、アシュリー様のお胸は確かに小さいが、それでも僅かに膨らんでおり……」

「貴様等はなんと言っているのだっ?」


 バチン!

 ゴオン!


 二人の頬にアシュリーの鉄拳が炸裂。


「こんな緊急事態になにを言ってるんだが……」


 頭を掻く。

 このままじゃ、話が進まないし無理矢理おんぶしようか。


 ——まあここで、足の怪我を癒す『ハイポーション』でもあったら、話は別だが。


 もちろん、そんな用意はしていない。

 あー、ハイポーションでも湧いてこないかなー。


 そんな訳ないし、諦めてアシュリーをおんぶしようか。


 そう思っていた時であった。


 ゴボ。

 ゴボゴボッ。

 ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ!


 なんと。

 足下の地面から、ハイポーションが湧いてきた。

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