19・おっさん、???に遭遇する
今回と次回、少し短めになります。
視界と思考にもやがかかっている。
——ここはどこだ?
なんというか、地面がない場所で立っているような。
ふわふわとしたような。
そんな不思議な場所であった。
「目が覚めたわね」
後ろからそんな声が聞こえてきて、振り向く。
すると——そこにはちょっと気が強そうな印象を与える美少女が立っていた。
「君は誰だ?」
「ふふん。あんたはもう知ってるはずだけど?」
歳は十六くらいだろうか。
ここがどこなのか分からないが、さぞ男共から寵愛を受けるであろう。
「あんた、わたしになんて言ったか覚えているわよね?」
「なんのことだ」
「とぼけても無駄よ」
そう言って、美少女はいきなり俺に覆い被さってきた。
「うわっ!」
本来なら踏みとどまれるはずだったが、足下が不安定すぎるせいで、美少女と一緒に寝転がってしまう。
「ふふふ、あんた。よく見たら良い男じゃない」
美少女は俺のお腹のところくらいに乗りながら、そう愉快そうに笑った。
えーっと、これはどんな状況?
ここがどこなのか分からなくて。
目の前の美少女も誰か分からなくて。
そして、あろうことか上に乗られている。
「あんたはわたしのことを軽んじすぎだからね。ちょっとお仕置きよ」
と美少女は俺の服をたくし上げ、お腹のところを人差し指でなぞった。
ぞくぞく——。
全身に鳥肌が立ち、力がなくなっていくような。
「——まあわたしのご褒美もかねているかもしれないけどね——それ、ツンツン」
そう言いながら、お腹のへそのところを何度か突いてくる。
そのたびに変な声が出て、力がなくなってしまう。
さらにだんだん下半身のところに血が集まっていった。
「や、止めろぉ……」
「ふふふ、声に力がないわよ。さて、本番にいかせてもらおうかしら」
美少女は俺の頬に手を当てた。
そして、ゆっくりと顔が降りていき——、
「……あら、もうダメなの? やっぱり、夢の中に潜り込んだとはいえ、姿も現して直接交信するとなるとあまり時間は使えないわね」
美少女は残念そうにそう言って、俺の体から離れていった。
「運が良いわね、もう少しであんたを骨抜きに出来ていたのに」
美少女の体がだんだんかすんでいく……。
「——いや、運が悪かったわね、という方が正しいからしら」
最後に。
悪戯少女のようね笑みを浮かべ。
人差し指を口に付けて、そう言った。
◆ ◆
「ブルーノ——ブルーノさん!」
体を揺さぶられている。
「ん、んー? もしかして寝てたのか?」
ゆっくりと目を開けると、そこは喫茶店『すろーらいふ』の店内であった。
「お店が閉められたと同時に……ブルーノさん、死ぬように眠り始めて……」
リネアが心配そうに俺の顔を見る。
うむ。
どうやらかなり疲労が限界にきていたらしい。
これではスローライフから程遠い生活になってしまうな。
店内を見渡すと、すっかり薄暗くなっている——まあ夜だから当たり前かもしれないが。
ディックとマリーちゃんの姿は見えない。
どうやらもう帰ったっぽい。
「ごめん。リネア、心配させて」
「本当ですよ! ディック君とマリーちゃんには『心配しすぎ』と言われましたけど、私……私! ブルーノさんにもしものことがあったら、どうすればいいか!」
大袈裟なヤツだな。
それにしても、さっきの夢(?)はなんだったんだろう。
凄い可愛い美少女に、体を刺激され——。
「——どうしたんですか、ブルーノさん。なんだか変な顔してますよ?」
「——っ!」
気付けば、リネアの顔がすぐ近くにあった。
いかんいかん。
先ほど(夢の中とはいえ)、変に寸前で止められたものだから、そういうエロい欲求が普段より増しているのだ。
急にそんなキレイな顔を見たら、変に意識してしまって慌てる。
話題を変えるようにして、こう口を開く。
「リネア……今度から、この喫茶店は自分が開けたくなったら開ける方式でいくよ……このままじゃ体が持たない」
状態異常『洗脳』を解いたとしても、お客さんは相変わらずお店にやって来るだろう。
それは有り難いことである。
しかし!
これでは俺の考えているスローライフじゃないのだ!
やりたい時にやる。
お店を開けたとしても、人数制限をかけようか。
スローライフに関することが過度に実現する。
元からコーヒーを入れるのは好きだし得意だった。
しかしスキルのせいで、こんないらない付与価値まで付いてくるなんてな。
とんだ災難だった。
「はい。それが良いと思います」
リネアも頷いてくれている。
うん。
ちょっと回り道はしてしまったけど。
お客さんが多すぎて大変だから、お店を開けたい時に開ける。
入れたい分だけコーヒーを入れる。
状態異常にさせてしまうかもしれないから、一杯は一杯は慎重に。
これぞ、まさにスローライフだ!
「というわけでリネア。ちょっとドタバタして行けてなかったが、開店祝いに二人で行かないか?」
「開店祝いですか」
「ああ。近くにいい居酒屋を知ってるんだ。そこで軽めにお酒を飲みたいな、と思って」
我ながら自然に誘えたと思う。
「——はい! 喜んでお付き合いします」
やっぱりリネアは良い子だ。
笑顔でそう答えてくれた。