表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/166

157・おっさん、精霊に癒される

「精霊って、こんな普通にいるものなのか?」


 パンの欠片をむしゃむしゃ食べている精霊に癒されながら、俺はリネア達に質問する。


「はい。普通にいますよ」

「鳥とか虫よりよく見るねー」


 精霊を見ても、リネア達は全く臆した様子がない。


 グーベールに来た際、そこら中に精霊がいるっていう説明は受けた。


 でも……こうして目の当たりにすると、やっぱり驚いてしまう。

 精霊なんて滅多にお目にかかれるものじゃないからだ。


「……!」


 パンの欠片がなくなって、精霊はジーッと俺の方を見る。


「どうしたんだ。もしかして……オカワリが欲しいのか?」

「……!」


 コクコクと精霊が頷く。


 俺はチョコレートパンを千切って、精霊にやろうとした。

 すると——それを渡す前に、精霊が俺の手の平に乗っかってきたではないか。


「おお」

「可愛いです!」


 リネアが頬に手を当てて、顔をとろけさせていた。


 千切ったパンの欠片を一生懸命むしゃむしゃと食べる精霊。

 俺の手の平の上で、だ。


「パン、大好物なのかな?」

「それは聞いたことありませんが、精霊さんは甘いものが好き……というのを聞いたことがあります」

「グーベールの精霊は甘いものには目がないよー」


 そうなのか。


 手の平の上でむしゃむしゃパンを食べる精霊を見ていると、


「うおっ! 気付かないうちに、精霊が増えている!」


 ——足下を見ると、似たような小人……精霊が群がってきていたのだ。

 その数およそ二十は超えるだろう。


「ブルーノさん。この子達もパンを食べたいんじゃないでしょうか?」


 とリネアが自分も手の平に精霊を乗せて、口にした。

 よく見れば、集まってきた精霊は全て——俺達が持っているパンに視線が注がれているように見えた。


「お前等も欲しいのか……?」

「「「「……!」」」」


 問いかけると、精霊が一斉にコクコクと頷いた。


 か、可愛い……。

 癒されるなあ。

 小動物を見ているようだ。


「やれやれ」


 俺はチョコレートパンを千切って、次から次に精霊達にやっていく。


「私もあげますね!」

「ピーマン味のチョコレートパンでよかったら!」

「ミレーヌは残飯を処理したいだけじゃないのか?」

「そ、そんなことないよ!」


 慌てて否定するミレーヌの姿を見て、俺は苦笑した。


 だけど自分のチョコレートパンだけだったら、こいつ等をまかなえる程多くなかったので、リネア達の援護は助かる。

 まるでハトに餌をやっているような感覚だ。


 パンをやっていると、精霊達が手の平だけではなく、肩や頭といった部分にも乗ってきた。


「まさかこんなに多くの精霊を見る日がくるとは」


 軽く感動する。


「もっと精霊ってのは、神々しいものだと思っていたんだけどな」


 精霊というのは滅多に人前に姿を現さない。

 というか俺だって、ミドリちゃんに続いてこれが人生二回目だ。

 元勇者パーティーのメンバーとして、世界中を飛び回っていたのにだ。

 ゆえに精霊というのは、どこの地域でも神々の一端としてまつりあげられており、宗教に発展しているものもある。


「そうなんですか?」

「ああ。それなのに、ここでは……それこそ、村の外で見るハトのように普通にいる」

「私は小さい頃から、こんな感じでしたから……」

「リネア達は良いところに住んでいるんだな」


 心からそう思う。



 やがて——パンをやり終えて。



「もう残ってないぞ」


 俺達は手の平を見せて、それを示す。


「「「「……!」」」」


 残念そうに指をくわえる精霊。


 だけど気を取り直して「ありがとう」といった感じで、精霊は何度かお辞儀をした。

 ピョコピョコっていう擬音が聞こえてきそうで、癒された。


「ん? なんかやってくれるのか?」


 精霊の何人かが顔の前まで飛んできて、手の平を掲げた。

 そこからボワッという優しい光が発せられる。


 ——なんだか安心する橙色の光だ。 


 その光がなくなった頃には……。


「おっ、頭が軽いような気がするぞ」


 なんだかとっても爽快な気分になっていた。


「きっと精霊さんがお礼に治癒魔法を使ってくれたんですよ」

「魔法を?」

「はい。精霊さんもこんなにちっちゃいけど、いっぱい魔力持っていますから」


 成る程。

 だから頭が軽くなったように感じたのか。


 そのまま精霊達は俺の肩にも乗ってきた。

 そして先ほどのボワッという優しい光。


「か、肩こりが……マシになったぞ!」


 腕をグルグルと回してみる。

 うむ。肩になにか重いものが乗ったような、ダルさがなくなっているではないか!


「治癒魔法とはいえ、ここまで効き目があるものなのか?」


 基本的に治癒魔法ってのは、状態異常を治したり、傷を癒したりする効果はある。

 しかし肩こりといった慢性的な病気や痛みには、なかなか効果が発揮されにくいというのが定説だ。


「精霊さんですからね。精霊さんの使う魔法は神聖なんです。そうですよね、ミレーヌ」

「うん! 昔から、そう教えてもらっているよね。私達エルフや人間とは、似ているようで異なる魔法を使ってるって」

「人間では無理なものも精霊なら可能……ってことなのか?」

「そういうことです」


 リネアが得意気に説明してくれる。


「不思議な存在だな」

「はい!」


 それにしてもいっぱい癒された。

 治癒魔法なんて使ってくれなくても、可愛い精霊の姿が見られただけで体の疲れが吹っ飛ぶかのようだった。


「精霊さん。ありがとう」

「……!」


 俺がお礼を口にすると「ははは、なあに。礼なんていらねえよ」と精霊は言わんばかりの目をした。


「また来るよ。そろそろ行こうか。リネア、ミレーヌ」

「次はどこに行きましょう?」

「私……とっておきの場所があるから案内するよ!」


 というような会話をしながら、ベンチから立ち上がった。

 もちろん、チョコレートパンを包んでいた白い紙は、公園にあるゴミ箱の中に入れた。


「じゃあね、バイバイ」


 俺が精霊に手を振って、公園を後にする。

 すると、精霊達もそれに応えるようにブンブンと手を振っていた。


 やっぱり精霊の姿は癒されるなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよかったらお願いします。
二周目チートの転生魔導士 〜最強が1000年後に転生したら、人生余裕すぎました〜

10/2にKラノベブックス様より2巻が発売中です!
よろしくお願いいたします!
jf7429wsf2yc81ondxzel964128q_5qw_1d0_1xp_voxh.jpg.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ