表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/166

149・おっさん、ミレーヌと話をする

「ミレーヌ……もう少し話を聞かせてもらえるかな?」

 腹も満たしたところで、落ち着いてミレーヌに質問を投げかけた。

「うん!」

「あっ、ドラママ。ちょっと席を外してもらっていいかな。俺とリネア、ミレーヌの三人で話したいんだ」

「心得た」


 とドラママもドラコ達の方へ向かっていった。


 ちなみにドラコ達は、チョコドーナッツを食べ終わった後——床で横になって昼寝を始めた。

 みんな仲良く、ポイズンのお腹を枕にしていて可愛い。


「ミレーヌ、どうやって私を見つけ出したんですか?」

「お姉ちゃんは私に会うの嫌だった?」

「なにを言うんですか。とっても嬉しいですよ」


 ニコッとリネアが微笑みかける。


 それを見て、ミレーヌの顔がより一層明るくなり、


「良かった……! 近くの街に聞き込みまくって、お姉ちゃんを捜してたんだよ! そうしたら、ゼニリオンでエルフを見たような……って情報があってね!」

「ああ、あそこでバレたのか」


 特にリネアのことは隠していなかったし。

 リネアみたいなエルフの美女が街中を普通に歩いてるんだ。さぞ騒がれただろう。


「それで心優しい商人にお金をもらって、馬車でこの近くまで来た……ってわけさ!」

「なんか食べ物とかじゃなくて、普通にお金になってるな……」

「お願い! って言ったら『お嬢ちゃん可愛いから、あげるよ』って!」


 確かにミレーヌもかなり可愛い。

 リネアの妹ということもあって、彼女の横を通り過ぎた者はみな振り返るだろう。

 美人ってのは、どこに行っても得だなあ。


「それで……ここらへんを歩いていたら、スライムに襲われた……ってことなのか」

「うん! そうだよ!」

「他に危険な目はなかったのですか?」


 リネアは心配そうな声を出す。


 スライムにあれだけなすすべがなかったんだ。

 普通、ここまででスライム以外のモンスターに襲われない……ということは考えられにくい。

 もしかして……スライムの時は調子を出せなかっただけで、本当は強いんだろうか?


「うーん、心優しい冒険者パーティーの人と一緒にいたりしたのもあったけど……私、一つだけ得意なことがあるんだ!」

「それはなんだ?」

「逃げ足!」


 ——ただ逃げてただけだった!


 それでなんとかなってたというのが恐ろしい。

 幸運だったんだろう。


「はあ」


 リネアが呆れたように溜息を吐いた。


「でもミレーヌが無事でなによりですよ。会えるのは嬉しいけど、あまり無茶はいけませんよ?」

「分かった!」


 あっ、これは返事だけは元気だけど、あんまり分かっていないパターンだ。


 コホン、と俺は一つ咳払いをして、再度ミレーヌに尋ねた。


「ミレーヌがリネアを捜してた理由は『会いたかったから』ということなのか?」

「それは……」

「もしかして、言いたいことがあるんじゃないか?」


 それは俺の危惧でもあった。


 ミレーヌはその問いかけに、グッと拳に力を込めて——、



「リネアお姉ちゃん! 村に帰ってきてよ!」



 と立ち上がった。


「えっ」

「やっぱりか……」


 リネアは目を丸くしているが、俺は大体想像付いていた。

 普通、会えるだけで満足して、そのエルフの村に帰っていくことは考えにくいだろう。


 リネアとミレーヌは姉妹なのだ。

 もう一度、同じ村で暮らしたいと考えるのが道理だ。


「だって! 私、リネアお姉ちゃんがいないと寂しいじゃん!」

「そ、それは……」

「お姉ちゃんがいなくなってから、私がどんな気持ちで暮らしていたか知ってるっ? お姉ちゃんがいなくって、私……とっても寂しかった! リネアお姉ちゃんどこかで死んでいないかな? ってずっっっっと考えてた。だからゼニリオンでリネアお姉ちゃんらしき人の目撃情報があって、すっっっっっごく嬉しかった!」

「…………」

「お姉ちゃん、早く村に帰ろうよ。リネアお姉ちゃんのいるところはここじゃないよ!」


 とミレーヌからテーブルから身を乗り出して、リネアの両手を取った。


 対して、リネアは戸惑いの表情だ。


「ブルーノさん……」


 困ったようにして、リネアが俺の顔を見た。


 だが、俺は答えなかった。


 俺から答えが得られない、と思ったのかリネアはミレーヌの顔をもう一度見据え——。



「すみませんが、ミレーヌ。私、まだしばらくここにいます」



 と力強い言葉で言った。


「え、ええええええーっ! なんでーっ?」


 断られると思っていなかったのか、ミレーヌが目を大きくして驚く。


「私、この街が大好きなんです」

「じゃああの村は嫌いだったの?」

「そんなことありません。ミレーヌもみんなも——ここに負けないくらいに大好きですよ」

「だったら……」

「でも——今はまだ帰ることは考えられません。だからミレーヌ……ここまで来てくれて嬉しいんですが……」


 だが、どんどんリネアの声が弱々しくなっていった。

 ミレーヌの表情を見て、臆してるのかもしれない。


 この時の俺、表情こそ変えていなかったが内心——、



(良かったぁぁぁあああああ!)



 とほっとしていたのであった。


 そりゃそうだよ!

 リネアがいなくなるんだぞ?


 そんなの俺には耐えられない。


 でも——そういうのはリネアが決めることだと思った。

 だから、あえてなにも喋らなかったのだ。


「リ、リ、リネアお姉ちゃん……」

「ミレーヌ?」


 ミレーヌの顔がだんだん丸めた紙のように歪んでいく。


 そして川が決壊したように、



「うわぁぁああああああん! リネアお姉ちゃん、私のこと嫌いなんだぁぁあああああ!」



 と目から大粒の涙を流したのであった。


「え、え? そ、そんなこと言ってませんよ! 話、聞いてました?」

「嘘だぁぁああああ! リネアお姉ちゃんは私のことが嫌いになったから、村から出たんだ!」


 聞く耳を持たない。

 あまりにも大きな声で泣くものだから、ドラコ達が昼寝から起きてしまった。


「どうしたのだー?」

「ぐぎゃ、ぐぎゃ」

「……とても……耳に響く……」


 しかし意に介せず、ミレーヌは泣き続ける。


「ミレーヌ——ひとまず一旦泣き止んで——」

「触らないで!」


 リネアがあやそうと手を伸ばすが、ミレーヌが払いのけた。

 ミレーヌは勢いよく椅子から立ち上がり、そのまま家の二階へと消え去ってしまった。


「「「…………」」」


 急に静かになる家の中。


「ぐぎゃ、ぐぎゃ」


 ポイズンの鳴き声で、空気がちょっと弛緩しかんした。


「……ミレーヌはどこに行ったんだ?」

「きっと二階でしょうね……あの子、泣き始めたら寝ちゃう癖があって……」


 リネアが呆れたような戸惑っているような——複雑な表情を見せた。


「そうなのか……まあ心配だから、一応見に行こう」


 二階で暴れていたら大変だ。

 暴れるだけならまだしも——現世を悲しんで、そのまま地面へ飛び降り、命を絶つなんてことがあったら洒落にならん。


 俺は二階へとのぼって、ミレーヌを捜した。


「おっ、いたいた」


 すぐに見つけることは出来た。

 俺がいつも寝ているベッドでミレーヌは丸くなっていた。


「リネアお姉ちゃん……」


 赤く腫れぼったくなった瞼。

 寝言は口にしてはいるものの、どうやら泣き疲れて寝ちゃったらしい。


「風邪引くなよ」


 と言いながら、俺はミレーヌに毛布をかけて部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよかったらお願いします。
二周目チートの転生魔導士 〜最強が1000年後に転生したら、人生余裕すぎました〜

10/2にKラノベブックス様より2巻が発売中です!
よろしくお願いいたします!
jf7429wsf2yc81ondxzel964128q_5qw_1d0_1xp_voxh.jpg.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ