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146・おっさん、久しぶりに森の精に会う

 あれから、夜には温泉に入ったり、たまにはハンモックで寝たり、カリン達のお店を手伝ったり——と忙しいながらも、まったりとした日々を過ごしていた。


 忙しさとまったりは両立するのだ。


「リネア。ちょっと付き合ってくれないか?」


 ドラコとドラママが市街に遊びに行ったのを見てから、俺は洗濯物を干しているリネアに声をかけた。


「はい。もちろんですよ」

「なにに付き合うかは聞かないのか?」

「ふふふ。ブルーノさんですもん。ブルーノさんがなにをしようと付き合いますよ?」


 パンパン、と洗濯物を伸ばしながらリネアは笑顔で言った。

 従順すぎるリネア、マジ最高。


「いや……さ。森まで行こうと思って」

「森ですか……どうして、そんな改まって? 薬草でも摘むんですか?」

「いや——久しぶりにミドリちゃんとポイズンに会いに行こうと思ってるんだ」


 ミドリちゃんとはイノイックの森に住む精霊のことで、ポイズンとはモンスターのポイズンベアのことである。

 二人共、家を建てる時に知り合った友達なのだ。


「いいですね! 最近、忙しくって会えてませんもんね」

「うんうん」

「きっとミドリちゃんとポイズンも喜びますよ」

「そうだったら嬉しいんだけどな」


 ゼニリオンに行ってたこともあって、一ヵ月くらいは顔を見せていないかもしれない。


 俺のこと忘れてないかな?

 ちょっとおっさん、心配になってくるよ。


「じゃあ行きましょう!」

「あっ、ちょっと待ってくれ」

「はい?」

「折角だからお土産を持っていくよ」


 と——俺は台所に向かった。


 まずはリンゴの皮を剥き切って、フライパンの上で煮ていく。

 そんなに時間はかからない。四、五分のことだ。

 それが終わった後は、予め用意していたパイシートの上に煮リンゴを載せていく。

 後はかまどに入れて、少し待ったら——アップルパイの完成だ。


「わあ、美味しそうです!」


 アップルパイを見て、リネアが目を輝かせた。


「味見してみてもいいですか?」

「おいおい、それじゃあ本末転倒だろ」

「でも……」


 リネアが指をくわえる。


 実際、アップルパイからはリンゴを煮た匂いが漂ってきて、今にでも口に入れたくなる程であった。

 我ながら上手く出来たもんだ。


「ここで食べなくてもいい。ミドリちゃんとポイズンと食べればいいじゃないか」

「そうですね!」


 パッとリネアの顔が明るくなる。

 俺はアップルパイと水筒をバスケットに入れ、出て行く準備を整えた。


「待たせてごめん。じゃあ行こっか」

「はい! ブルーノさんとピクニック……!」


 ルンルン気分のリネア。

 俺の右腕に抱きついてきた。


 俺は左手でバスケットを持って、家を出た。


 ◆ ◆


 森に入って、しばらく歩くと大きな幹の木まで辿り着いた。


「おーい、ミドリちゃーん」


 そこで立ち止まり、俺はそう名を呼びかける。


 …………。


 無反応。


「おかしいですね」

「ああ」


 大体ミドリちゃんは、この森でも一番大きい木の元にいる。

 そう教えてもらったんだ。

 もっとも、ミドリちゃんがその気になれば森全体を俯瞰することが出来る。

 森の精霊だからね。


「寝てるのかな」

「かもしれませんね」

「どうしようか……」

「今度は二人で言ってみましょう」

「だな」


 俺とリネアはすうーっと息を吸い込んで、


「ミドリちゃーん!」

「……そんな大きな声出さなくても……分かる」


 あっ。

 最初はぼんやりとした輪郭であったが、徐々に女の子の姿が現れていく。

 ミドリちゃんだ。

 森の精霊でありながら、ミドリちゃんは可愛らしい女の子の姿をしているのだ

「ミドリちゃん、ごめん。寝てた?」

「寝てない。今から出てこようと思った時に……あなた達が大きな声を出した……」

「ごめん」

「耳が……キーンとなった」


 ミドリちゃんは表情に乏しい子だ。

 だけど、そう言うミドリちゃんの顔、は僅かながら困ったような顔をしていた。


「まあまあ。あっ、そうだ。ポイズンはどこにいるんだ?」

「ポイズンは……」


 そう辺りをキョロキョロ見渡すと、


「ぐぎゃ、ぐぎゃ!」


 あっ、いた。

 ポイズンが向こうの方から嬉しそうにして、俺達の元に駆け寄ってきた。


「ストップ! ポイズン!」

「くぅん?」


 俺に抱きついてこようとするポイズンを制止させ、バスケットの中から水筒を取り出した。

 そしてコップにコクコクと音を出して、コーヒーを注ぐ。


「まずはこれを飲んでからだ」

「ぐぎゃ、ぐぎゃ」


 ポイズンは俺が手渡したコーヒーを美味しそうに飲んだ。


 当たり前だが——ポイズンはポイズンベアのことだ。

 ポイズンベアの体には毒が巡っており、触れるだけで猛毒という恐ろしい状態に陥ってしまう。

 しかし、俺が作った毒消しの効果を持つコーヒーを飲ませれば、一時的にはその体質を変化させることが出来る。


「ぐぎゃ、ぐぎゃ」


 ポイズンがコーヒーを飲み終わった。


「それじゃあ早速……」


 もふ。


 俺はポイズンのお腹に飛び込んだ。


 もふもふ。


「相変わらずポイズンのもふもふはもふもふだなあ」

「ぐぎゃ、ぐぎゃ!」


 ポイズンが嬉しそうに鳴いた。


「あー! ブルーノさん、ずるいです! 私も……!」


 もふ。


 リネアも俺と同じように、ポイズンに飛び込んだ。


 もふもふもふもふ。


 俺とリネアはポイズンのもふもふを堪能した。


「ふう……それにしても、二人共。元気そうで良かったよ」


 正しくは一人と一匹……いや、ミドリちゃんも森の精霊なので『人』とカウントするのは変かもしれないが……細かいことはなしなのだ。


「うん……あなた達も……どこに行ってたの?」

「ごめんごめん。ちょっと遠いところにな」

「遠いところ?」


 ミドリちゃんが首を傾げた。

 彼女もちっちゃくて可愛い。


「ああ。ゼニリオンという場所で——」


 とミドリちゃん達に近況報告をしようとした時であった。


「待って……森の中で……」

「ん?」

「人がモンスターに襲われている」


 ミドリちゃんが剣呑なことを言い出したのだ。


「な、なにっ? それは本当なのか?」

「本当……ああ。魔法で応戦してるけど……このままじゃ、負けちゃうかも……早く助けないと……」


 おろおろし始めるミドリちゃん。

 ふむ。なにが起こってるか分からないが、ここで見捨てるわけにはいかないだろう。


「よし。ミドリちゃん、そこまで案内していってくれ」

「分かった……」

「わ、私も行きます!」

「ぐぎゃ、ぐぎゃ!」


 みんなで助けに行くことになった。


「ぐぎゃ、ぐぎゃ」

「ん? 背中に乗れって言ってるのか?」

「ぐぎゃ、ぐぎゃ」


 俺達の前に躍り出て、四つん這いになるポイズン。

 急がなければならないんだ。有り難く乗らせてもらおう。


「じゃあ頼むよ、ポイズン」

「ぐぎゃ、ぐぎゃ」


 俺とリネアはポイズンの上にまたがる。もふもふして、乗り心地は最高だった。


 ちなみにミドリちゃんは、隣を併走する形で飛んでいた。森の精霊だから、これくらいお手の物なんだろう。


「それでミドリちゃん、その襲われている人って……」

「うん……そこの……あなたによく似ている人……」


 とミドリちゃんが指を差しだした方にいるのは、


「えっ、私ですか?」


 リネアであった。


 リネアはそれを聞き、目を丸くしていた。


「逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします」


という新連載をはじめさせていただきました。

もしよろしければ作者ページから見ていただけると、とても嬉しいです!


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