表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/166

144・おっさん、みんなで温泉に入ることになる

 ステーキをたらふく食べて、お腹も膨らんだ。


 俺達は思い思いにだらーっと床で横になったり、皿洗いとかしていると。



「失礼するよっ!」



 とノックしてから、家の扉から誰かが入ってきた。


「カリン様……まだなにも言われてないじゃないですか。こういう場合は『どうぞ』と声がかかってから、開けるものです」

「細かいことは気にしなくていいんだよ、イーリス!」


 外から顔を出したのは、カリンフードの店長と店員である——カリンとイーリスであった。


「おお、二人共。一体なにしにきたんだ?」

「決まってるじゃないか! これだよ!」


 そう言って、カリンは手に持っているものを掲げる。


 俺は近付いてそれを見ると、どうやらカリンは桶のようなものを持っているらしい。

 そしてその中には、石鹸やタオルといった入浴道具一式が入っていたのであった。


「なんだ。カリン達も温泉に入りにきたのか?」

「うんっ!」


 カリンが元気よく返事をした。


「まさか本当に温泉があるとは思っていませんでしたよ」


 イーリスがメガネをクイッと上げ、外の方を見ながら口にした。


 ちなみにイーリスもカリンと同じようなものを持っている。

 というかお揃いだ。


 凸凹でこぼこコンビに見えるけど、なんだかんだで二人は仲良しなのだ。


「疑っていたのか?」

「ええ。この目で見るまでは」

「疑うなんて、ひどいなあ」

「温泉がそんな簡単に湧くなんて考える方が不自然ですよ」


 とイーリスがバッサリ言う。


「それにしても……こんな夜に……しかも、俺の家で二人を見るなんて、なんだか新鮮だな」

「あれ、そうかい?」

「ああ。いつもカリンフードでしか二人を見なかったから」

「そうだっけ?」


 カリンが目を丸くした。


「なにはともあれ、二人共歓迎するよ。リネア達もいいよな?」


 家の中に視線を配ると、


「もちろんですっ!」

「みんなで入る方が気持ちいいのだー」

「あんな良いものを、我らで独り占めにする方がおかしい話であろう」


 とみんなも賛成してくれた。


 うむ。今日もみんなで温泉に入ろう。


 俺達も入浴の準備をするか……。


 そう思って、ゆっくり動こうとすると、


「来たんだな」

「お邪魔するぞ」


 カリン達の後ろから、二人の男がひょっこり顔を出した。

 一人はお腹がぼてっと出ている男で、もう一人は対照的に筋肉隆々でむさ苦しい男である。


「おっ、ギルマス。そしてアーロンさんも来てくれたのか」


 イノイック冒険者ギルドのマスターと、その中でもエース格の冒険者アーロンさんであった。


「うむ。本当に温泉が出来ているんだな。折角だから、たまたまギルドにいたアーロンも誘ったんだが、良かったか?」

「ああ、もちろんだ」


 にぎやかになってきた。

 でもにぎやかなのは良いことだ。


 みんなで入ろう入ろう。


「おっちゃん、マリーも来たの!」

「今日は人が多いんだな?」


 あらあら。

 そうこうしているうちに、マリーちゃんもディックもやって来た。


 かなりの人数になってしまった。


 だけど……。


「みんな、心配しなくていいぞ。なんせ温泉は広いんだからな。みんなで入っても問題ない」


 と声を出したら、みんなの顔が明るくなった。


 さて……と。

 ステーキを食べた後は、みんなで温泉だ。




 ……とはいっても、みんなで混浴というのも抵抗があった。

 タオルを巻いているとはいえ、リネアの肌を他の男に見せるのもしゃくに触る。


 それに他のみんなは気にしてなさそうだったが、イーリスが。


「……みんなで混浴するつもりなんですか?」

「ダメか」

「ダメに決まっているじゃないですか。だって私——男性に肌を見せたことないんですよっ?」

「タオルを巻けばいいじゃないか」

「ダメです」


 と頑なに混浴を拒絶した。


 というわけで話し合った結果、後ろ髪を引かれる気分ではあったが、男と女で入浴を別けることにした。

 やっぱりレディーファーストということで、先に女性達が温泉に入っている。


 残りの俺、ギルマス、アーロンさん——そしてディックは家の中で待機だ。


「ふう。それにしても暇だな」


 リビングのソファーに座って、俺は時が過ぎるのを待っていた。


「女達は長湯しすぎなんだな」


 天井にお腹を見せて、横になっているギルマスが不満を口にする。


「おっさん、お腹減ったんだけどなにかないかな?」


 ディックはそう問いかけてきた。


「そうだな……ちょっと待ってくれ」


 とディックに言い残し、俺は台所に向かった。


 じゃがいもがまだ残っていたはずだ。


 それを適当な形に切って、油で揚げる。

 さて……ここまでの行程だったら、いつものポテトスライスと同じだろう。


 でもポテスラばかりで、ディックも飽きたに違いない。

 最後に塩をひとつまみ、パラパラと振りかけた。


 だから今回、作ったのは……。


「お待たせ」


 お皿に盛りつけて、リビングの中央にドンと置いた。


「あっ、ポテトフライじゃん。これだったら、オレも分かるぞ」

「旨そうだ」


 おっ、ギルマスものそっと起き上がってきた。


 あんまり変わらないと思うが、今回は揚げたてのポテトフライだ。

 ディックとギルマスはポテトフライを拾い上げると、次々と口に放り込んでいった。


「美味しいんだな」

「ちょ……デブ! 食べるの早すぎだって!」

「誰がデブだってっ?」

「お前しかいないだろ!」

「心外なんだな。ボクはただのデブじゃない。これでも昔はSランク冒険者……」

「うるさい! うわあ……あっという間にポテトフライがなくなっちゃった……」


 ディックとギルマスが口喧嘩をしているうちに、皿は空になってしまった。


「ははは。大丈夫、オカワリはたくさんあるから」


 そう言って、再度台所に行ってポテトフライを作った。

 今度は山盛りだ。


「どうぞ」


 とお皿を置くと、またディックとギルマスは取り合いながらも、ポテトフライを美味しく食べてくれていた。


 喧嘩するほど仲がいい……のかな?


「…………」

「アーロンさんも食べてくださいよ」


 アーロンさんは窓の外をジッと眺めて、こちらを一瞥もしなかった。


 落ち着きのある大人って感じだ。

 ディックとギルマスとは一味違う。


『そんな騒ぎに乗るなんて、子どもがやることだ』


 と哀愁溢れる横顔が語っているようだ。


 まあ、ギルマスは大人だが……食べ物のことに関すると、途端に精神年齢が低くなる。


「なあ、おっさんよ」

「ん?」


 ゆっくりとアーロンさんの顔がこちらを向けられ、こう口にした。



「……女達の入浴を覗きにいかないか?」



 前言撤回。

 うん。この人も子どもだわ。

男をいつまでたっても男の子なのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよかったらお願いします。
二周目チートの転生魔導士 〜最強が1000年後に転生したら、人生余裕すぎました〜

10/2にKラノベブックス様より2巻が発売中です!
よろしくお願いいたします!
jf7429wsf2yc81ondxzel964128q_5qw_1d0_1xp_voxh.jpg.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ