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142・おっさん、若き冒険者に教える

 ビョルンとパーティーを組んで、俺達が目指した場所はイノイック近くの洞窟である。

 この洞窟では、昔ゴブリンが大量発生して、王都の女騎士アシュリーと色々あった思い出の地でもある。


 そういや、アシュリーどうしてるんだろうか……。


「おっさん神、どうしてオレとパーティーを? おっさん神とオレなんかじゃ、釣り合わないっすよ」

「そりゃそうかもしれないな」

「でしょう!」

「俺はそもそも冒険者じゃないし」


 つまり新人冒険者とただのおっさんがパーティーを組んでいるのだ。


 ……こう言うと、危険きわまりない無謀なパーティーである。


「あっ、ゴブリン」


 そうこうしていると、前方からトコトコとゴブリンがやってきた。


「オレ……ゴブリン苦手なんですよ」

「大丈夫。お前には筋力のバフがかかってるから」

「バフ?」

「とりあえず、剣を振り回してゴブリンと戦ってみろ」

「うっす……!」


 ビョルンはそう低い声を出して、ゴブリンに立ち向かっていった。


「あの変な飲み物を飲んでから、力が湧いてくる……! 今だったら、やれる気がする!」


 とゴブリンに向かって、剣を振り下ろした。

 メチャクチャな剣筋である。

 これを見ていると、勇者ジェイクがどれだけ『剣士』としても優れていたかは分かる。


 だが……。


「グギャァァアアアアアア!」


 一閃され、ゴブリンは断末魔の悲鳴を上げながら、地面に倒れ伏せてしまったのだ。


「え?」


 それを見て、ビョルンの口が開いたままになる。


「お、おっさん神! やりましたよ! たった一発でゴブリンが……!」

「それが『バフ』の効果ってヤツだよ」


 バフ……ってのはつまり『支援魔法』のことだと思ってもらってもいい。


 ただし……魔法でもなんでもなく、ただの道具でそれを可能にしたわけだが。

 あの増強剤を飲むと、一時的に筋力が上昇するのだ。

 これさえ飲めば、いくら新人冒険者のビョルンであっても、モンスターをズバズバ倒しまくることが出来る。


 そんな説明をすると、


「う、うぉおおおおおおお! さすがおっさん神だ! ありがとうございます! ホント神! 神!」


 洞窟の中で「神! 神!」と連呼しながら、ビョルンがその場でクルクル回り出した。

 相当嬉しいんだろう。


「これがあれば、どれくらいのモンスターなら勝てるんですかっ?」

「うーん……勝てるかどうか分からないが、まあポイズンベアと同じくらいの筋力にはなってるはずだ」

「ポイズンベア! メッチャ強モンスターじゃないですか! オレがそんなモンスターを……!」


 それくらいこの増強剤の効果は凄まじいものがある。


 今だったら、彼は——例えば洞窟の壁に、パンチを放ったとして——大きな穴を穿うがつことも出来るだろう。


「これがあったら、オレはどんなモンスターにすら勝てる! ありがとうございます! うぉおおおおおお! 燃えてきた!」

「待て!」


 今の説明を聞いて、気が大きくなったのだろうか。

 ビョルンは雄叫びを上げながら、駆け出してしまった。


 俺はビョルンを止めようと、急いで手を伸ばすが、もう結構先まで行ってしまっていた。

 筋力の増加によって、足も速くなってしまっているのだ。


「勝手に行っちゃ、危ないから……」


 ぜえぜえ、と息を荒くしながらビョルンが走っていた方を追いかけた。


 どれだけ先に行ったのかな?

 と思っていたけど、少しカーブになっている道を曲がったところで、ビョルンはいた。


「お、おおおおおっさん神!」


 しかも地面に尻餅を付いて。


 ビョルンの前には……。


「ビュシャァァアアアアア!」



 ——モンスターのセンチピードが立ち塞がっていたのであった!



「ひ、ひぇええええええ! とんでもないモンスターが現れやがった!」


 完全に腰が抜けたみたいなビョルン。

 センチピードを前にして、怖じ気づいている。

 戦意はゼロだ。


「まあ仕方ないか……」


 センチピードの外見は、簡単に説明すると巨大なムカデである。

 ただでさえ、外見がくねくねして苦手な人も多いムカデだ。

 それが人の身長くらいになっているのだから——生理的嫌悪と合わさって、戦う気など失せてしまうだろう。


 だが。


「ビュシャァァアアアアア!」


 センチピードは鳴き声を発しながら、ビョルンに襲いかかった。


 そのタイミングで俺は——。


「薬草生えてこい!」


 スキル【スローライフ】を発動させる。



 にょき。

 にょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきっ!



 なんのへんてつもない地面から、瞬く間に薬草が生えてきた。


 薬草はそのまま成長を続け、センチピードの体を拘束し、強く締め付けた。


「ビュシャアアアアアァァァァ……」


 センチピードの声がだんだんと弱々しいものになっていく。

 やがて、薬草に締め付けられたセンチピードは事切れてしまったのであった。


「大丈夫か、ビョルン?」

「お、おっさぁぁぁあああ〜ん」


 情けない声を出しながら、ビョルンが抱きついてきた。


「こ、怖かった……ここで死ぬかと思った……」

「怪我がなかったらいいんだ。でもな——」


 俺はビョルンの肩を持って体を離し、しっかりと目を見てこう告げる。


「センチピードは大したモンスターじゃない」

「えっ?」

「さっき、お前が一発で倒したゴブリンと同じくらいのモンスターだ。増強剤で強化されたお前なら、センチピードなんて敵じゃないはずだよ」


 そうなのだ。

 センチピードは見た目こそ怖いものはあるが、かな〜り弱い部類であり、ビョルンがビビるような相手じゃないのだ。


「ビョルン。冒険者にとって一番大切なものってなんだと思う?」


 と俺は真剣な声音で、ビョルンに尋ねる。


「大切なもの……そりゃあ強さじゃないですか?」

「違う。それも大切なんだが、一番は——勇気だよ」

「勇気……」


 勇気がなければ、いくら強くてもクエストをこなすことが出来ないだろう。

 ちょっとなにかあれば、逃げ出してしまうかもしれない。


「じゃあ……どんなモンスターにでも立ち向かえ、とおっさん神は言うんですか?」

「うーん……だが、勇気と無謀ははき違えたらダメだぞ? 相手の戦力をしっかりと見極めるんだ。そのために『知識』っていうのは必要になる」


 相手の力を正確に計って、最後は勇気を振り絞って立ち向かう。

 それこそが、冒険者にとって大切なことだと思うのだ。


 それが出来ている冒険者は——いつの間にか勇気あるものとして『勇者』なんて呼ばれることもあるんだろう。


「いくら強くなっても無駄なんだ。しっかりと段階を踏まないといけない」

「段階……ですか?」

「ああ。増強剤を使って、一気に強くなっても無駄なんだ。強くなるのに近道なんてない。そこに勇気と知識が付いていかないと、な」

「じゃあおっさん神……それをオレに伝えるために、パーティーを……?」


 俺は黙って首を縦に動かす。


 俺は冒険者としては大したことがなかった。勇者パーティーのお荷物的存在だった。


 それでも——十年以上は冒険者をやっていたのだ。

 ビョルンみたいに若さを武器に、突っ走っていて、無謀にも死んでしまう冒険者も何人も見てきた。

 だからこそ、ビョルンにどうしても伝えたかったのだ。


「分かりました……! 安易に強くなろうとしたオレが間違っていたんですね!」

「分かってくれたら、良いんだ」


 ほっと胸を撫で下ろす。


「よし……そうと分かれば、折角だし、もう少しモンスターを倒してから洞窟を出ようか」

「はいっ!」


 元気よくビョルンは返事をした。

 その表情は清々しいものであった。


 もう増強剤に頼ることもないだろう。


 おっさんのたわむれ事だけど——若い人の心に響いたなら、俺もおっさんやってきて無駄じゃなかった。

 そう思う出来事であった。

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