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141・おっさん、若き冒険者に出会う

 次に俺が向かった場所は、イノイックの冒険者ギルドだ。


「こんにちは」


 と挨拶をしながら、ギルドの門扉もんぴを潜る。


「おお! おっさん神!」

「神! 神! 神!」

「神が久しぶりに降臨なさったぞ」


 入るなり、中にいた冒険者や職員達が「神!」と声を上げながら、俺を囲ってきた。


「ちょ、ちょっと! 別に俺は神でもなんでもないから!」

「なにを言いますか! 神の今までの功績は、みなすべからく神」

「神は神だ」

「息をするだけでも神」


 ……まあいっか。

 俺がギルドから「神」と言われるのは、今に始まったことじゃないしな。


「誰かと思えば、おっさんじゃないか」


 その騒ぎを聞きつけたのか。

 カウンターの奥の方から、ギルドマスター(通称ギルマス)がひょっこりと顔を出した。


「おお、久しぶり」

「久しぶりなんだな」


 そう言って、ギルマスはお腹をポンと叩いた。

 相変わらず立派な腹をしている。

 ここまで太っていると、病気にならないか心配になってくるな。


「おっさん、最近見なかったようだが、どこかに行ってたのか?」

「ゼニリオンの方にな」

「買い物にでも行ってきたのか?」

「んー、まあそんなことかな。ギルマスの方はどうだ?」

「ボクか? ボクは体重が増えたんだな」


 そんな感じで、緩く近況を報告し合う。


「ギルドの方もなにか困っていることとかないのか?」

「困っていることか……いや、特に最近はイノイックも平和だし、大きい事件というものはない」

「それは良かった」

「それもこれも、おっさんが魔族を追い払ってくれたおかげなんだな」


 少し振り返ると——、一時期イノイックには強力なモンスターが頻繁に出現する時期があった。

 それは魔族のせいだったわけだが……イノイック防衛戦と称し、攻めてくる魔族を降伏させたので、現在の状況があるわけだ。


「平和がなによりだ」

「そうなんだ。平和にするため、冒険者達も日夜頑張っているんだな」

「おう」


 ポン。

 ギルマスがお腹を叩いた。


 さて……ギルドに挨拶も終わったところだし、そろそろ他のところでも回ろうか。


 そんなことを思っていた矢先であった。



「お、おっさん神! オレを強くしてください!」



 いきなり俺とギルマスの間に割って入る若者が現れたのだ。


「ビョルン。なにをしているんだ。今は僕とおっさんが喋っているんだな」

「す、すいませんっ!」


 ビョルンという若者は、ギルマスにたしなめられて、恐縮し一歩下がった。

 だけどこの場からいなくなる様子もない。


 ビョルンという若者は、冒険者らしい装備に身を包んだ男である。

 だが、装備品を見るに安物が多く、いかにも『駆け出し中の冒険者』といった出で立ちである。


 勇者パーティーで贅沢な装備品を見てきた俺からしては、『劣悪な装備品』といっても過言ではないくらい。


「し、しかし! どうしてもおっさん神に話を聞いて欲しくて!」


 ビョルンは引き下がらず、拳を握って俺達にそう直訴してきた。


「いきなり失礼なんだな。おっさんも忙しいんだ。下がれ」

「ちょっと待ってくれよ、ギルマス。話くらいは聞いてやろうぜ」

「しかし……」

「俺は良いから」


 俺がそう言うと、ギルマスは溜息を吐いて、ビョルンに「良いぞ」といった視線を送った。


「あ、ありがとうございます!」


 ビョルンの表情がパッと明るくなる。


 そのままビョルンは、緊張したような声音でありながらも、こう話を始めた。


「じ、実は……オレ……まだ冒険者になって日が浅いんです」

「うん。装備品を見れば大体分かるよ。どれくらいだ?」

「まだ半年です」


 半年か。やはり駆け出し中の冒険者といっても間違いなさそうだ。


「パーティーとかは組んでないのか?」

「いえ、まだ組んでいません。短期的なクエストで、臨時として組んだことはあるのですが……」

「成る程な」


 ちなみに。

 冒険者はある程度までいくと、パーティーを組むのが一般的である。

 一人の力ではどうしてもクリア出来ないクエストも存在するからである。


 あれ程の力を持っていた勇者ジェイクですら、ベラミやライオネル——そして俺とパーティーを組んでいたからだ。


 だが、冒険者を始めてばっかとなれば、人脈もなく、単独でクエストをこなすのも珍しくはない。

 実際低ランククエストをこなすだけなら、一人で十分だからだ。


「で、でも! オレ、早く冒険者として一人前になりたいんです!」

「そりゃ、折角冒険者になったもんな。俺みたいに薬草摘みばっかしてても、仕方ないもんな」

「俺みたい?」

「独り言だ。気にするな」


 一瞬、ビョルンは首をかしげたが、気を取り直して話を続ける。


「早く一人前になって……苦労をかけたお母さんに恩返ししたくって」

「良い心がけだ」

「だから——早く強くなりたいんです! お願いです、おっさん神。オレを強くしてください!」


 とビョルンは頭を膝に当たるくらいまで、深々と下げた。


「おいおい、頭を上げてくれていいから……」


 普段なら断る頼みであろう。


 別に俺は教師でもなんでもない。

 スキルによって、人に教えることは少々上手いが、なんせ冒険者は命にかかわる仕事なんだ。

 下手に教えることは出来ない。


 しかし——この時の俺は彼の熱意に押され気味だったし、別の心配もあった。

 


 ——このままだったら、一人で暴走して、身の丈に合ってないクエストとか受けそうだ。



 ならば。


「分かった……じゃあちょっと待ってくれ」

「は、はいっ! ご教授願えるんですかっ?」

「うーん、まあそういうことになるかな? ちょっと待っておいて」


 俺はそう言い残して、ギルドを後にした。




 そして俺は旧喫茶店『すろーらいふ』まで行き、あるものを作ってからギルドに戻った。


「お待たせ」


 そう言って、俺はビョルンに()()を差し出した。


「おっさん神……これは?」

「強くなる液体だ」


 真っ白の液体である。

 なかなか癖のある臭いをしていて、人によって鼻をつまんでしまうだろう。


「強くなるためだ。飲んでみて」

「は、はいっ!」


 ビョルンは目を瞑って、一気にそれを飲み干した。


 なかなか強烈な臭いをしているのに、よくそんなこと出来るな。

 強くなるためならどんなことでもする——といった気概が見られた。


「ゴ、ゴホッゴホッ!」

「初めて飲んだら吐きそうになるかもしれないけど、我慢するんだぞ」


 咳き込むビョルンに俺はそう言う。


「……どうだ?」

「う、うぉおおおおお! すげぇぇええええ! なんか凄い力が湧いてきた気がします! これは?」

「そうだな……まあ増強剤とでも名付けようか」


 飲むだけで力が強くなりたいな−、という願いを込めて作った液体だ。

 完成した時、こんな臭いになるとは思っていなかったが、効果はちゃんと出ているようである。



 スローライフに関することを過度に実現する。



【スローライフ】さえあれば、こういった生産系のスキルもお手の物である。


「早速クエストを受けてみます! 本当にありがとうございます! うおおおおおお、今日はBランクにでも挑戦するかぁぁああああ!」


 増強剤を飲んで自信が湧いてきたのか。

 先ほどの自信なさげなビョルンの姿はなく、シャキーンと凛々しい顔立ちになった彼の姿があった。


 そして勢いのまま、受付に向かっていく。


「待て待て」


 そんなビョルンの首根っこを俺はつかんで、制止させた。


「まだ俺の『ご教授』は終わっていないぞ」

「え? それじゃあ、もっと凄い薬を作ってくれるんですか?」

「いや、増強剤はそれで終わりだ」

「じゃあ一体なにを……」


 興味津々に目を大きくするビョルンに向かって、俺はこう言い放つ。


「俺もクエストに付いていく。今回だけパーティーを組もう」

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