139・おっさん、外で寝る
温泉から上がって、寝間着に袖を通す。
そして家の中まで一旦戻ってきた。
「熱かったの……」
マリーちゃんが顔を真っ赤にして、すっかりのぼせてしまっている。
「マ、マリーは子どもだなー」
そう言うディックも、少しふらふらしているように見えた。
「一杯泳いだのだー」
「ふむ。やはり温泉は良いものだな」
対してドラゴン親子は元気に髪を梳かしていた。
「ブルーノさん。私! アイスクリームが食べたいですっ」
みんなの様子を眺めていると、リネアが突然声を上げた。
少し濡れている髪が、色気があって目を奪われてしまう。
「おお……アイスクリーム良いかもしれないな。マリーちゃんとディックも冷たいもの食べたいだろうし」
「我も食べたいぞ」
「私もなのだー」
ドラコとドラママの目の色が変わる。
「よし……ちょっと待っといて」
そう言って、俺は台所へと向かった。
近所の人からもらった生クリームがまだ余らしていたので、アイテムバッグの中に入れていおいたのだ。
ここに入れておけば、腐ることはない。
そして卵も取り出して、それを混ぜ合わせる。
「そうだ……ただバニラのアイスだったら、つまらないだろうから……」
えーっとこのへんに……あった。みかんだ。
俺はみかんの皮を剥いて、果汁をボウルの中に垂らす。
「ドラママー。これを冷やしてくれー」
「心得た」
ドラママがやって来て、生クリームと卵を混ぜ合わせたものに、ふうーと息を吹きかけた。
すると——あっという間にアイスクリームが出来たのだ。
「お待たせ」
人数分に取り分けて、みんなのところに持っていく。
「わあ! 橙色でとってもキレイです!」
リネアがそれを見て、嬉しそうに手を叩いた。
「みかん味になってる。お口に合えばいいんだけど」
「なにを言ってるんですか! ブルーノさんの作ったものが、不味いわけありません!」
そんなことを言いながら、みんながアイスクリーム(みかん)にスプーンを通した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
リネアがスプーンを咥えたまま、頬に手を当てた。
「冷た〜い。そして……美味しい!」
「体が冷やされていくの!」
アイスクリームを食べて少し落ち着いたのか、マリーちゃんがすっかり元気を取り戻した。
「アイスは良いものなのだー」
あらあら。
あっという間にドラコもアイスを平らげてしまった。
しかもオカワリを要求してきたので、俺は二発目のアイスをドラコに渡してやった。
それは他のみんなも同じようで、アイスクリームがなくなるまで「オカワリ!」を要求したのであった。
「お風呂上がりのアイスは最高なの!」
「人類が考えた最大の発明だよな」
マリーちゃんが声を弾ませ、俺はそう返した。
空になったお皿とスプーンを台所に持っていく。
水に浸しておいて……洗い物は……まあ、いっか。明日やればいい。今日はお酒も入って、ほろ酔い気分なのだ。なんとなく家事をやる気分ではない。
そういえば、リネアは……もう酔いが覚めてるのか? 相変わらず酒に強いな。
「ふわあ……俺は眠くなってきたよ」
「そうですね。そろそろ寝ましょうか」
欠伸をしながら、寝室に向かおうとした時であった。
「星を見るのだー」
「マリーも!」
ドラコとマリーちゃんがそう声にして、外へと飛び出してしまったのだ。
「お、おい! マリー! どこに行くんだ!」
その後をディックが追いかける。
俺達も顔を見合わせて息を吐き、三人の後を追いかけた。
「とってもキレイなのだー」
「風が気持ちいいの!」
確かに二人の言ってることは一理ある。
満天の星空。こんなにキレイな星空はなかなか拝めないだろう。
さらに夜風がとても冷たくて、温泉で火照った体を冷ましてくれた。
「今日はここで寝るのだー」
ドラコが芝生の上で寝転がり、仰向けになった。
「おいおい……ドラコ。そういうわけにはいかないだろう」
「大丈夫なのだー」
そうは言っても、地面には石とか落ちている。
ドラコが寝返りとかうって、もしも可愛い顔なんかに傷が付いてしまっては大変だ。
しかし——この星空の下、冷たい夜風に当たりながら寝たい、と言ってることは分かる。
「なんか良いものはないものか……」
と俺は辺りをキョロキョロ見渡すと、二本の木を見つけた。
その木と木の間は、俺の身長分くらいはあいている。
……そうだ。
「ここにハンモックを作ろう」
と俺は声を上げる。
「ハンモックってなんなのだー?」
「いいものだ」
俺は早速家に戻って、手頃な布を持ってきた。
「ここを……こうして……」
布を木の枝に引っかけ、もう一方も同じようにする。
すると——二本の木の間に、即席のベッドが出来たではないか。
「ちょっと乗ってみるか」
早速その上に乗ってみた。
うん。結構頑丈。上で体重をかけたりしてみたけど、解けないみたいだった。
まあ例え布が解けて、乗っている人が落下したとしても、下は柔らかい芝生だ。
怪我はしないと思うけど。
「ドラコ、今日はここで寝ていいぞ」
「わあい、楽しそうなのだー!」
ドラコがハンモックに飛び乗ってくる。
「おいおい、危ないじゃないか」
でもハンモックはびくともしない。
「わあい、わあい」
ドラコはハンモックの上ではしゃいでいた。
俺とドラコが乗って、これだけ激しい動きをしても壊れないんだ。やっぱり大丈夫だろう。
「マリーも寝てみたいの!」
「ブルーノさん、私も!」
「我もだぞ」
俺達の様子を見て、みんなも手を上げた。
「よーし、今日はみんなで星空の下、寝るとしようか」
俺はハンモックから降りて、人数分の布を取ってきた。
木は一杯ある。
王都ならともかく、イノイックは田舎だしな。
そして——みんなにも手伝ってもらって、やっとのこさ人数分のハンモックをこしらえることが出来たのだ。
「じゃあ——みんな、おやすみ!」
「「「おやすみなさい!」」」
おやおや。
ドラコはもう寝ちゃったみたいだった。相当ハンモックと夜風が気持ちよかったんだろう。
俺もハンモックの上、両手を頭の下に置いて、星空を眺めた。
星一つ一つが離れている。
だけどそれら一つ一つを線で結べば、なにか模様が浮かび上がってくるように見えた。
「ブルーノさん、見てください。あっちとあっち、結んだら羊に見えます」
近くのハンモックで寝ているリネアも同じことを思ったのだろうか。
星空を指差しながら、声を弾ませた。
「本当だな」
それらを発見していくと、時間がいくら経っても足りなかった。
だけど、だんだんと瞼が重くなっていく……。
自然と俺は眠りに落ちていった。




