表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/166

138・おっさん、温泉に入る②

「——っ!」


 振り返ると、思わず言葉を失ってしまった。


 そこには——タオルを体に巻いているリネアの姿があったからだ。


「あら、ブルーノさん。そんなジロジロ見ないでくださいよ」

「ご、ごめんっ!」

「恥ずかしいですから」


 すぐにリネアから顔を背けるが、まるで重力魔法を使われているかのように、自然と視線がそっちに向いてしまう。


 キレイな金色の髪を上げていて、うなじがとても色っぽかった。

 体はタオルで隠れてはいるものの、すらっと長い手足や、胸の膨らみが分かって……これはこれで良いものだ。


 リネアはすっと温泉に入り、すっと俺の隣に座った。


「…………」

「ブルーノさん、どうして黙るんですか?」


 リネアの息づかい一つ一つが聞こえる。

 この温泉……しかも露天風呂という野外のシチュエーションがそうさせるのだろうか。

 彼女の裸すら俺は見たことがあるというのに、緊張して口を開くことが出来なかった。


「おっ。皆の衆、入っているな」


 そう言って、次に登場したのはドラママである。


 ドラママも髪を上げていて、色っぽい。

 もちろん、体はタオルで隠してはいるが、リネアみたいに巻いていない。前だけを隠しているのだ。

 そのせいで大事な部分も見えてしまいそうで、目のやりどころに困った。


「一度やってみたことがある」


 とドラママは誰に言われることもなく、そう一言宣言した。


「……うりゃあ!」


 ドラママは駆け出し、バッシャーンと音を立てて、温泉に飛び込んだのだ。

 ドラコの時よりも大きなお湯しぶきが立つ。


「ド、ドラママっ? なにをするんだ!」

「わっはは。この体で一度こういうことをしてみたかったのだ」


 ドラママはお湯から顔を出して、快活な笑い声を上げた。


「そんなことをするなんて、おねーさんは子どもなのだー」

「わっはは。ドラコに言われてしまうとはな」


 ……そういうドラコも温泉に飛び込んだじゃないか。


 ドラコはドラママのところまですいすいーと泳いでいった。

 そしてドラママの胸のところに、すっぽりと収まってしまったのだ。

 こういうところを見ると、やっぱ親子だよな……と思ってしまう。


「星空……キレイですね。ブルーノさん」

「ああ」


 俺はリネアと一緒に空を見上げた。


 ああ、疲れが取れていく……。

 このまま寝てしまいそうだった。


「あっ、そうだ。良いものがあるんだ」

「良いもの?」


 リネアが興味津々に顔を近付ける。


「ああ……これだ」


 そう言って、俺は温泉から一度出て、予め準備していたそれを取り出す。


「それは……徳利とっくり……でしたっけ?」

「よく名前知ってるな。リネア」


 そうなのだ。

 俺が取り出したのは、温泉の湯で温めておいた徳利とっくりとおちょこだ。


「ということは……」

「もちろん、お酒が入っている」

「!」


 リネアの体がビクンッと反応する。


 リネアはお酒が大好きなのだ。

 徳利の中には清酒が入っている。


 俺はおちょこの一つをリネアに渡した。


「ほら」


 そして徳利を傾けて、おちょこにちょろちょろと入れてあげる。


「ブルーノさんも」

「ありがとう」


 今度は交代して、俺の分のおちょこにリネアが清酒をおしゃくしてくれた。


「とっとと」


 溢れそうだったので、慌てて口を付ける。


 ——あったかい。


 本来、清酒はそのままの温度で飲むのが主流ではあるが、こうやって温めて……つまりかんにして飲むこともある。

 体の熱した清酒が入っていき、ぽかぽかと芯から温まってきた。


「じゃあ改めて……」

「はい。乾杯です」


 ちょこん、とおちょこを合わせる俺達。

 そしてちびちびと清酒を飲んでいく。


「美味しい……! 清酒って温めても美味しいんですね!」

「だけど温泉にも浸かってるし、すぐに頭にお酒が回るから気をつけるんだぞ」

「ふふん。ブルーノさんは私を酒飲みだと思ってますね? それくらい、自制出来るんですから!」


 頬をピンク色に染めた、リネアは見るからに上機嫌だった。

 そうは口で言うものの、ぐいっと清酒を一気で飲み干す。


「オカワリ……いただきますね!」

「好きなだけ飲め。だが……飲み過ぎるなよ?」

「だから大丈夫ですってば!」


 パンパンとリネアが俺の肩を叩いた。


 既に酔い始めてるじゃないか……。

 まあリネアは俺とは違ってお酒が強いし、これくらい大丈夫だと思うが。


 そう思っていたら、ぐいっとまた一気に飲み干したぞ。

 大丈夫かな……。


 俺は温めた清酒なんて、そんなぐびぐび飲めないので、ちょろちょろと頂きながら他の人達を観察していた。



「マリー……顔赤くなってるけど、大丈夫か?」


 ディックがマリーちゃんを心配している。


「は、はいじょうぶはの! おにいあん!」

「ほらほら、舌が回ってない」

「ちょっとのぼせたかもしれないの……」

「ほら、言わんこっちゃない」


 温泉は気持ちいいものだ。

 だからついつい長湯してしまう。


 ディックはマリーちゃんの手を取って、一度温泉から出て、近くの岩に腰掛けた。

 こういうところを見ると「お兄ちゃんしてるな」と思えてくる。



 次はドラゴン親子。なにしてるんだろう?


「おねーさん、私の泳ぎをとくと見るがいいなのだー」


 ばしゃばしゃ。

 ドラコがバタ足で泳いでいる。


「ふふふ。なかなかやるではないか」


 ドラコの手を取りながら、ニヤリと笑うドラママ。


「だが……我の方が上手いぞ!」


 ドラママはドラコの手を離して、今度は自分から泳いだ。

 体全身を使うかなりダイナミックな泳法だ。


「おおー! すごいのだー!」


 ドラコが目を輝かせる。


 だが……ドラママよ。

 凄いことは凄いのだが、ここはプールじゃないのだ。

 お湯しぶきがここまで飛んできたではないか。



「ふう……みんな楽しそうにしてなによりだな」


 やっとのこさ、一杯目の清酒を飲み終わった。

 それだけでも頭がクラクラしてきた。


 ちょこん……肩になにか当たる感触。


「リネア?」


 隣を見ると、リネアは頭を俺に預けていた。


「うう〜、ちょっと飲み過ぎたかもしれません」

「ほら、言わんこっちゃない」


 リネアは俺に頭を預けたまま、目を瞑ってしまった。

 俺もそれを拒否せずに、リネアの好きな通りにやらせてあげる。


 満天の星空。染み渡る温泉。

 みんなで初めての温泉は、大好評のままに終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよかったらお願いします。
二周目チートの転生魔導士 〜最強が1000年後に転生したら、人生余裕すぎました〜

10/2にKラノベブックス様より2巻が発売中です!
よろしくお願いいたします!
jf7429wsf2yc81ondxzel964128q_5qw_1d0_1xp_voxh.jpg.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ