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125・おっさん、みんなの希望の光になる

 それから俺達はスラム街に戻った。


「バン。悪いけど、他のみんなも集めてくれないかな?」

「うん、分かった!」


 俺の頼みに、バンは笑顔になってみんなを呼びに行った。

 さっきのこともあって、さらにバンは俺に心を許してくれたみたいだった。


「ブルーノさん、良かったですね」

「ああ」


 悪徳商人に騙されるくらいに、スラム街の人達はものごとを知らないのかもしれない。

 それは悪いことではない。きちんとした教育を受けてこられなかったのだから。


 ——だったら、今から教え甲斐があるな。

 そう思いながら、俺は内心ワクワクするのであった。


 十五分くらいして。


「集めたよ!」


 スラム街の広場に三十人くらい集めてもらった。


「これだけか?」

「いや……もっとこの街には人がいるんだけど、出てきてくれなくて」

「俺のことを信頼ならない、ということか」

「…………」


 バンは申し訳なさそうに顔を俯かせる。


 仕方ない。

 いきなり俺みたいな胡散臭うさんくさそうなおっさんがやってきて、急に心を開けといっても無理な話であろう。


「なにをしにきたの……?」


 集めてもらった人の一人が声を上げた。

 バンと同じくらいの年齢の少女である。


「今日は君達に頼みがあってね」

「頼み……?」


 問いかけてきた女の子が小首をかしげる。


 しかし——俺の言葉を皮切りにして、


「頼みだとっ? これ以上、俺達からなにかを奪い取るつもりかっ!」

「そんなの聞けねえに決まっている。俺達のことは放っておいてくれ」

「そこのお嬢さんキレイな服を着てる……私もああいう服着てみたいな」


 周囲から罵詈雑言が投げつけられた。


「お、落ち着いてくれ」


 俺は冷静を装って、みんなをなだめた。


「なにも悪いことはしない」

「嘘を吐け!」

「本当だ」

「そう言って、何度も俺達を騙そうとしてきたヤツはいた。とあるヤツは『ちょとした頼み事』を聞くために、金持ちのお屋敷に呼ばれ、そこで奴隷のように働かされた……無給でな。お前の頼みなんて聞けるわけないだろうが!」


 周囲は殺気立っていた。


「ブルーノさん……」

「リネア、大丈夫だ」


 リネアが俺の背中に隠れる。


 ——まあこうなることは予想していたことだ。

 ここで気圧されていたら、話が進まない。


 俺は咳を一つしてから、


「話だけでも聞いてくれ。実は……」


 それから俺はスラム街の人達に説明をした。


 俺は秘密の超絶美味しい料理のレシピを持っている。

 これを使えば、街中から……いや、世界中から人が押し寄せてくる超人気店を立ち上げることが出来る。

 そこで君達を雇いたい。

 ——というようなことだ。


 初めは「喜んでくれるかな?」と浅はかに考えていた。


 だが。


「そんなの信じられるわけないだろうが!」


 小石が飛んできた。


「信じてくれないか……」


 困った。

 どうすれば、信じてもらえるだろうか?


「ブルーノさん。その料理をみんなに食べてもらえば、いいんじゃないでしょうか? そうすれば、きっと分かってくれるはずです」

「おっ、リネア。ナイスアイディア」


 と指を鳴らす。


「なあ、バン。ここらへんで料理が出来る場所はないか?」

「火を起こす場所ならあるよ? でもフライパンもお皿も汚くて安物だけど……?」

「大丈夫。それで十分だ」


 俺はバンの頭を撫でる。


「みんな、ちょっと待ってくれ。今から美味しい料理を振る舞うから、それを食べてから判断してくれないか?」


 最初は「もしかしたら断られるかもしれない」と思っていた。


 だが、俺の言葉を聞いてみんなはコソコソと、


「ま、まあ……タダでご飯を食べさせてもらえるなら、それでいっか」


 とお腹を押さえながら、言っていた。


 ろくにご飯も食べていないんだろう。

 背に腹は代えられないということか。


 材料はどうしようか?

 そうだ。スラム街からちょっと出ると、たくさん食材は売ってるんだ。

 早速買ってこよう。


「よし——三十分。三十分後に、もう一度この広場に集まってくれ」




「お待たせ」


 俺はそれから急いでポテトスライス(=ポテスラ)を山盛り作った。


「これは……?」


 スラム街の人達が興味津々に覗き込んでくる。


「これはポテトスライスっていう料理だ。こういうのを出そうと思ってるんだ」

「へ、へっ! 良い匂いじゃねえか!」


 おやおや。

 人達の中には、口からヨダレが漏れている人もいた。


「おいおい、ソルト。騙されるんじゃねえぞ!」

「でもすごく美味しそう……」

「バ、バカ野郎! 毒でも入ってるに違いねえんだ!」


 みんながポテスラを前に混乱する。

 ふむ、毒か。


「えい」


 リネアがパクッとポテスラを口に入れた。


「う〜〜〜〜ん、美味しいですっ!」

「「「「「!」」」」」


 リネアがほっぺを手で押さえ、幸せそうな顔をして、ポテスラを噛みしめる光景を見て——みんなの目の色が変わった。


「どうだ。毒なんて入ってないだろう?」

「た、確かに……」

「食べるだけなら問題なさそうだな……」


 みんながおそるおそるポテスラを手に取る。


 そしてゆっくりと口に入れ——、



「「「「「う、旨ぁぁぁああああい!」」」」」



 と空に向かって叫んだのだ。


「な、なんだ、これは! こんな美味しいもの……食べたことがねえぞ!」

「なあなあ、これは材料はなんていう高級食材……えっ? じゃがいも?」

「わあ……美味しすぎて、目から涙が出てきたよ」


 一度ポテスラが「旨い」と分かってからは早いもの。

 みんなは次々と奪い合うようにして、ポテスラを口に放り込んでいく。


「そんなに慌てるな。オカワリならいくらでも作ってやるから」


 そうは言ってやるが。

 山盛りに積まれたポテスラは、あっという間になくなってしまったのだ。


「お、美味しすぎる……」

「これを俺達も作ることが出来るのか……?」


 あれだけのポテスラでも、やっぱり三十人を前にしたら足りなかったんだろう。

 みんなが指をくわえて、ポテスラを名残惜しそうにしていた。


「大丈夫。教えてやるから。これを作ることが出来れば、みんなは一気にまともな生活を送ることが出来る」

「「「「「…………」」」」」

「どうだ? 俺に人生賭けてみるつもりはないか?」


 そこでニヤッと笑う。

 我ながらカッコ良い台詞を言えたものだ。


 みんなは少し離れ、話し合っていたようだが……。


「ポ、ポテスラに俺達……人生賭ける!」

「ポテスラのためなら、私達は死ねるわ!」


 と承諾してくれたのであった。


 うん。目がキラキラと輝いている。

 ポテスラはこうして、みんなの希望の光になったのだ。


「どうした、どうした?」

「なんか面白そうなことやってるじゃねえか」

「俺達も混ぜてくれ……いや、混ぜてくださいっ!」


 そうこうしている間に、近くの建物の影から続々と人が出てきた。

 最初は俺のことを警戒していた人達も「どうやら、いつもと違うみたいだぞ?」と思って、顔を現したのだろう。

 人手が多くなることは良いことだ。


「とりあえず……スタートは順調かな?」


 俺は腰に手を当て、続々と集まってくる人々を眺めるのであった。

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