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118・おっさん、フルコースを完成させる

 あれから日が経ち。

 グルメな公爵の食事会が開かれるまで、とうとう三日となってしまった。

 そんな時……。


 トントン。


「はい?」


 ノックされたので扉を開くと、エイブラム伯爵が袋を片手に立っていた。


「おお、伯爵じゃないか」

「うむ。ご無沙汰ぶさたしていたな。パリパリ」


 ああ、立派なヒゲにポテスラの欠片がからまってる。


「本当はもっと来るべきなのだがな……しかし、職務も多くてなかなか足を運ぶことが出来なかった。すまぬ」

「いやいや、気にしなくていい」


 伯爵だって暇じゃないんだ、仕方ない。

 ……今はポテスラをパリパリ食べている子どもにしか見えないが。


「フルコースの方は完成したか?」

「いや……まだ主菜メインが決まっていない」


 そうなのだ。

 ここまで、前菜オードブルにポテトスライス。スープにコーンスープ。デザートにアイスクリーム。そしてドリンクにオレンジ・ジュース(酒)を出すことまで決まっている。


 しかし——フルコースの主菜メインを、俺はまだ決めかねていた。


「ほほう。なあに、大丈夫だ。私はそなたを信頼しておる。きっと、素晴らしいフルコースが完成するだろう」

「そう言ってくれれば気が楽になるよ」

「それで……主菜以外のメニューはどうなってる?」

「当日のお楽しみってことで」

「うむ……まあそなたのことだ。きっと素晴らしいフルコースを考えているんだろうな。パリパリ」

「ポテスラ食べながら喋るの止めようか」


 あれから、使いの者が何度かポテスラを買いに来てるらしい。


 買い占めは、カリンと俺が許さなかったからだ。

 一度に買えるのは十袋まで、と決めている。

 それでも三日ごとくらいに、使いは現れているらしい。

 どんだけ食べてるんだ?


「折角来てくれたんだ。どうせだから、中に——」


 と言いかけた時であった。


 ん?

 エイブラムの後ろに小さな子どもがいることに気が付いた。


「その子は?」


 俺がその子を覗き込むと、さっとエイブラムの背中に隠れてしまった。

 そして顔を半分だけ出して、俺をじーっと見ている。


「私の息子——アドルフだ」

「ほう。息子もわざわざ来てくれたのか。はじめまして。俺のことは『おっさん』って呼んでくれればいいからね」


 そう優しく語りかけても、子ども——アドルフ君から返答はこない。


「こら、アドルフ。しっかり自己紹介しなさい」

「……やだ」

「アドルフ」

「…………」

「……すまぬ。我が息子アドルフは人見知りなのだ。そなたに不快な気持ちをさせてしまって……」

「いやいや、それも気にしなくていい。俺はなんとも思ってないから」


 子どもの中には、そういう子がいてもおかしくない。

 ディックとかマリーちゃんが特殊なのかもしれないな。

 アドルフ君にとっては、俺は知らないおっさんなんだしな。


「ん? アドルフ君。なにか持ってないかい?」


 思い切って、エイブラムの後ろに回り込んでみた。


 すると——アドルフの手にエイブラムが持っているのと同じ袋があることに気が付いた。


「もしかして……ポテスラ?」

「!」

「アドルフ君も食べてくれてるのか」


 アドルフ君はエイブラムの前に回り込んで、ポテスラを口に運んだ。


「うむ。アドルフもそなたのポテスラを気に入ってな。パリパリ」

「……パリパリ」

「親子揃ってポテスラを食べてるのか」


 一緒になってポテスラを食べている光景は、どこかおかしさを感じるものであった。


「アドルフ。この者はポテスラの作者であるぞ?」

「……! この方が神……!」


 おっ。

 エイブラムの呼びかけに、やっとアドルフ君が答えてくれた。


 それにしても……。


「伯爵。気のせいかな。アドルフ君、俺のこと神って言ったような聞こえたんだけど……」

「ああ。ポテスラの作者——つまりそなたのことを神だと教えてるからな」

「変な教え方するな!」


 まーた、変な呼び方をされてしまった。

 なんちゅうことを教え込ませてるんだ。この伯爵は。


「アドルフ君。中に入ったら、もっと美味しいものを食べさせてあげる。だから……どうぞ、中に」

「……入る」


 俺がそう言うと、アドルフ君はエイブラムの服を引っ張って、そそくさと中に入っていた。


「神の作る料理……食べたい。パリパリ」


 神だなんてまた大袈裟な。


「うむ。私も食べさせてもらっていいかな? パリパリ」

「もちろんだ。それから、いい加減ポテスラをしまえ」




 丁度、昼ご飯がてらに料理を振る舞うことになった。

 テーブルをリネア、ドラコ、ドラママ。そしてエイブラム伯爵と、アドルフ君が囲っている。


「すまん。待たせたな」


 折角エイブラムが(いくら領地とはいえ)、辺境の地まで足を運んでくれたんだ。

 知らず知らずのうちに、料理を作る手にも力が入ってしまった。


「むむむ、これは?」


 エイブラムがテーブルに置かれた()()を見て、目を大きくする。


「美味しそうなのだー! いただきます!」


 ドラコは我慢出来なかったのか、誰よりも早く料理に手を付けた。


「ああ——お子様ランチだ」


 俺は腰に手を当て、自信作の名を口にした。


 一枚のプレートの上にチキンライスやハンバーグ。エビフライやスパゲティーにオムレツといった、子どもの喜びそうなものが乗せられている。


 折角だから、一回の料理で出来る限り楽しんで欲しい。

 そしてアドルフ君の期待に応えたい。


 楽しさを一枚のプレートに詰め込んだ結果——。

 このようなお子様ランチが完成したのである。


「美味しいですっ!」

「すごいのだー! 今まで食べた中で最高なのだー!」

「うむ。人間というのは、ここまで料理を究められるものなのか」


 リネアとドラコ、ドラママが今まで以上の反応を見せた。


「うむ……このようなものを食べるのは久しぶりだな」

「美味しそう……」

「ではアドルフ。食べようか」

「……うん!」


 エイブラムとアドルフ君が揃ってお子様ランチを口にする。


 そして揃って……。



「「う、旨ぁぁぁぁああああああああい!」」



 と天井に向かって叫んだのであった。


「なんだこれは……! 本当にお子様ランチなのか!」

「ハンバーグ美味しい……」

「エビフライ、オムレツ……なにを取っても絶品だ! ワクワクが止まらない!」


 二人とももの凄い勢いでお子様ランチを食べていく。


「気に入ってもらえたか?」

「もちろんだ!」

「さすが神……! 神の料理、マジ神……」


 それだけ喜んでもらえると嬉しい。

 エイブラムにいたっては「うう……子どもの頃の記憶が甦ってくるぞぉ……」と涙を流していた。


 やがて——十分もしないうちに、テーブルにあったお子様ランチは全てなくなってしまった。


「「「「「ごちそうさま!」」」」」


 みんなが声を揃えて、手を合わせた。


「そんだけ美味しそうに食べてくれると、俺も作った甲斐があるよ」


 これは嘘じゃない。

 料理を作ること自体は楽しいが、やっぱり誰かに食べてもらってこそ、その楽しさが倍増するからだ。


「そうだ……! このお子様ランチを主菜メインにしたらどうだ?」

「はあ?」


 突然のエイブラムの提案に、つい聞き返してしまった。


「おいおい、お子様ランチだぞ? いくら美味しくても、グルメな公爵が怒り出すんじゃ……」

「大丈夫だ。味は私が保障する。それにこのお子様ランチはただのお子様ランチではない……王様ランチだ!」

「どういうことだっ?」


 ——しかし、いっそのことお子様ランチを主菜に据えるのは良いかもしれない。


 これだけ楽しさが詰まった料理は、他に考えられないからだ。

 どうせ主菜で悩んでいるなら、作りたいものを一枚のプレートに収めるのは名案かもだし。


「……よし。伯爵の言葉を信じよう。主菜は……お子様ランチで決定だ!」


 後はさらに磨きをかけていこう。

 こうして、フルコースメニューがやっとのこさ完成したのであった。


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おっさん、フルコース


前菜オードブル『ポテトスライス』

スープ『コーンスープ』

主菜メイン『お子様ランチ』

デザート『アイスクリーム』

ドリンク『オレンジ・ジュース』

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