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115・おっさん、デザートを作る

 グルメな公爵の舌を満足させるような料理を作らなければならない。

 いやいや、そんなのはコックに頼めよ。


 ……と言いたいところだが、頼まれたものは仕方ない。

 自宅まで帰って、ゆっくりとリネアに相談することにした。


「ブルーノさん。公爵さんになにを出されるつもりですか?」


 とリネアが興味津々に聞いてきた。


「そうだな……」


 それから従者と伯爵に話を聞いていくと、どうやら公爵には『フルコース』の料理を出したいらしい。

 無難なところだ。


 フルコースというと、前菜オードブル。その次にスープ。主菜メインに、後はデザート。そしてドリンクを用意しておけばいいだろうか。


 前菜はポテスラで決まっている。

 となると、残り四つの料理を考えなければならないだろう。


「まあなんとかなるだろ」


 かなりプレッシャーのかかる任務であるが、俺は不思議とワクワクしていた。


 料理は昔から好きだった。

 無心になれるから。


 そして人一倍自信があった。

 それを試し、さらに人助けも出来るのだ。

 ワクワクするな、と言われる方に無理がある。


「そうですね……! ブルーノさんの料理の腕は世界一ですもん! そんなグルメな公爵さんなんてノックアウトしてやってください」

「ああ」


 前向きに考えよう。


「ごめんくださーい」


 リネアと喋っていると、玄関がそんな声と共にノックされた。


「はい?」


 俺は立ち上がり、玄関の扉を開けた。


 そこには……。


「あっ、メイヤさん」


 メイヤさんが扉の前に立っていた。

 メイヤさん……というのは、カリンフード二号店目の所有者でもあり、ドラコの友達になってもらっている子ども達の母親だ。


「今回の件ではお世話になりました!」


 とメイヤさんが頭を下げる。


「英雄おっさん様のおかげで、祖母から受け継いだ建物に店子さんが入ってくれて……しかも繁盛していると言うではないですか! もう、私……どれだけおっさん様に感謝してもしきれなくて……」

「止めてくださいよ」


 ただ俺は——目の前に困っている人がいたから、ちょっと助けただけなのだから。

 そこまで感謝されると、俺だってむず痒いのだ。


「それで……これはほんの気持ちなんですが……」


 そう言って、メイヤさんは四角形の箱を差し出してきた。


「いやいや! そういうの良いですから!」

「いえいえ! こちらこそ、大したものじゃないんですが……」

「報酬とか期待してたわけじゃないんだ」

「いくらおっさん様がそう言っても、私の気が収まりません! これくらい、受け取ってください!」


 グイグイと箱を押しつけてくるメイヤさん。

 参ったな……。


「……分かりました」


 どうやら断れそうもないし、このまま受け取っちゃおう。


「でもお金だったら受け取れませんよ?」

「いえいえ、お金ではありません。どうか箱を開けてみてください」

「じゃあ遠慮なく……」


 俺はパカッとその箱を開ける。


「ブルーノさん、それはなんですか?」


 気になったのか、後ろからリネアも覗き込んできた。


「こ、これは……!」


 箱の中に入っていた真っ白な()()を見て、頭の内に自然とレシピが浮かんできたのであった。




 それからキッチンに移り、生クリームと卵を泡立つまでかき混ぜた。

 これで素材は完成だ。


 しかし……。


「後はこれをどうやって凍らせるかだな」


 腕を組んで考える。


 氷室なんてものは、こんな辺境の地には存在しない。

 王都や商業都市のように、大きい街じゃないとダメなのだ。


 氷属性魔法を使う手もあるが……。

 ご存じの通り、俺は魔法なんて使えない。


「むむむ? どうしたのだ?」


 どうしたものかと考えていると、ドラママが後ろから覗き込んできた。


「これはなんだ?」

「デザートにしようと思ってるんだ」

「ふうん? そういえば、公爵とかいう野郎に料理を振る舞うらしいな。なあに、お前の腕ならなんとかなるだろう」

「ありがとう」

「それで……なにに困っているのだ?」


 俺はドラママに、このボウルに入っているものを凍らせたいんだけど、と相談した。


「ほう。そんなことで困っていたのか」


 とドラママはきょとんとした顔で答えた。


「ドラママ。凍らせること、出来るか?」

「我を誰だと思っている。我は神竜だぞ。こうやって一息かければ——」


 ドラママが唇を突き出して、ふうーと息を吹きかけた。

 すると口から小さな氷晶ひょうしょうが飛び出し、ボウルの中で踊り出したではないか。


 そして。


「ふむ。これで良いのか?」


 立派に——ボウルの中のものは凍っていた。


「ああ……これで完璧だ! ありがとう、ドラママ!」

「これくらいならお安いご用だ。それで……これは一体?」


 ドラママに問われ、俺はこう答えた。


「これは……アイスクリームだ!」




 折角なので、リネアとドラコも集めアイスクリームを試食してもらうことにした。


「冷たくて美味しいです!」


 リネアがほっぺを押さえ、笑みを作る。


「甘いのだー。いくらでも食べられるのだー」


 ドラコがキャッキャッとはしゃいでいた。


「うむ……人間にはこのような美味しい食べ物もあるのか。これまた面妖な……」


 ドラママがスプーンですくい上げたアイスを見て、興味深そうに呟いた。


「ふう。気に入ってもらえて、嬉しいよ」


 俺も自分で作ったアイスクリームを食べてみる。


 冷たっ……! 

 やはり作りたてのアイスクリームは、ひんやりしていて美味しいな!


 メイヤさんからもらった生クリームが新鮮だったんだろう。

 そもそも生クリームというのは貴重なものである。

 作ることはそれほど難しくないのだが、保存が利かないからである。

 そういう意味では、メイヤさんには良いものをもらった。


「よし……決めた。俺はアイスクリームをフルコースのデザートにするぞ!」


 生クリームは伯爵なりカリンに頼めば、用意してくれるだろう。

 きっとアイスクリームをグルメな公爵も気に入ってくれるはずだ。


「ああ、とろけちゃいそうですぅ……」

「さすが、おとーさんなのだー。こんなに美味しいものをいっぱい作れるなんて」

「全く。ブルーノの料理の腕には感服だ」


 みんなが俺を褒めてくれる。


 生クリームと卵をかき混ぜる時、無心だったのが良かったのかな?


 無心になれた……つまりスキル【スローライフ】が十分に発動したんだろう。


「よし……みんな、オカワリならまだあるから食べてくれ。溶けないうちにな」

「「「はい!」」」


 と三人が声を揃えた。

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