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111・おっさん、お店の手伝いをする②

「ブルーノさん、大変ですっ!」


 落ち着いてきたところに、リネアが慌てて駆け寄ってきた


「どうしたんだ、リネア。人の流れも落ち着いてきたところだし、ここらで一杯コーヒーを飲まないか?」

「あ、いただきます」


 淹れてあげたコーヒーをリネアに渡す。

 我ながら上手く出来たと思ったのだ。


「ふう、落ち着きます……」

「だろ?」

「はい……って! それはそれでいいんですが!」


 ティーカップをガンとテーブルに勢いよく置いて、リネアはこう続けた。



「ポテトスライスが売り残っています!」



 そうなのだ。

 カリンフード二号店目の目玉メニューとして用意したポテトスライスが、大量に売れ残っていたのだ。

 お店の一角に山のように積まれているポテトスライス。

 その袋の束を見ていたら、ちょっと悲しくなった。



「うーん、まあ良いんじゃないか? カリンフードは繁盛してるし」

「良くありません! 私とブルーノさんの愛の結晶を、誰にも食べてもらえないなんて間違っています!」


 愛の結晶なんて、言い過ぎだなあ。


「でも……どうしてポテトスライスがこんなに売れ残っているんだ?」


 自分で言うのもなんだが、結構な自信作なのだ。

 三時のおやつとかに、子どもと一緒に食べたら、家の中がパッと明るくなるに違いない。


「それは私が説明しましょう」


 と——思っていたら、イーリスがレジの方からやって来て、メガネを光らせた。


「味が想像出来ないんでしょう」

「どういうことだ?」

「ポテトスライス、という料理はイノイックにおいては珍しいものなのです。それにポテトスライスは袋の中に入っているし……得たいの知れないもの、なかなか手に取りにくいんだろう」


 あっ。

 イーリスに言われて、初めて気が付いた。


 確かにそうだ。

 袋の中に入れているのは湿気ないようにするためだが、それによって匂いも密封されてしまっている。

 さらにはポテトスライスという商品名。

 どんな味がするのか分からないもの……そもそも食べ物なのかもよく分からないものにお金を払ってくれるほど、お客さんは優しくないということか。


「気付かなかったな」


 頭を掻く。


「私としても、売れ残りがこれだけ出るのは良くありません。この大量の在庫をどこに保存しておくのか、といった問題もありますし……」


 困ったな。


 しかし——。


「要はポテトスライスがどんな味がするものか、っていうのをお客さんに知ってもらえればいいんだろ?」

「その通りです」


 ニヤリ、とイーリスが口角を上げた。


「お店の前、少し借りられるかな」

「もちろんです」


 イーリスは俺の考えを読んでいるのか、提案を簡単に受け入れてくれた。


「よし。リネア、行こう。俺達の商品でみんなの目を丸くしてやるんだ」

「はいっ!」


 とリネアを連れて、ポテトスライスの袋を何個か取って、店の外へと出るのであった。




「はーい。みなさーん、すいませーん。ちょっとこちらに来てもらっていいですか−?」


 カリンフードに入ろうとする人達。出ようとする人達。

 そうではなく、ただ近くを通りがかった人達。


 俺はそんな人達に向けて、声を張り上げた。


「今日オープンのカリンフードには、ポテトスライスという商品が置かれています。みなさん、お一ついかがですかー?」


 袋を掲げながら、そう続けると。


「ポテトスライス?」

「初めて聞くものだな。カリンフードの商品……ってことは、食べ物なんだよな?」

「ポテトって名前が付くから、じゃがいもで出来てるんじゃないのか?」

「わたし、じゃがいも苦手だから……」


 うんうん。

 お客さんは怪しみながらも、ポテトスライスに興味を釣られ寄ってきてくれた。


「そうです。この食べ物はじゃがいもで出来ているのです」


 そう言って、俺は袋を開封した。


「でも、じゃがいもが苦手な人も食べられると思います。どっちかというと、気軽に食べられるおやつみたいなものですから」


 あっという間に、俺達の前には人だかりが出来ていた。


「ちょっと怖いね……どんな味がするか分からないし」


 おっ、狙い通りの言葉を言ってくれたな。

 見逃さず、それに答えるようにして言う。


「どんな味がするか分からない? それはごもっともな話です。なので、お一つご試食いかがですか? もし気に入っていただければ、買ってもらえるととても嬉しいです」


 と——頬に手を当て、悩んでいる様子の貴婦人にそっとポテトスライスを一枚差し出した。


 そうなのである。

 俺が考えた方法は『試食会』なのである。


 誰でも思いつくようなものだろう。

 しかし——ポテトスライスに絶大なる自信があるからこそ、こういう会を開けるのである。


「だったら一枚だけ……」


 貴婦人は人差し指と親指でポテトスライスをつまんだ。


 そして、ゆっくりとした動きで口に入れて——。



「お、美味しいぃぃぃぃいいいいい!」



 と空に向かって叫んだのだ。


「こ、これは一体……? 今まで食べたことのない不思議な味。これは本当にじゃがいもなの?」

「はい。正真正銘、じゃがいもです。じゃがいもを油で揚げて、塩をまぶしたものなんですよ」

「じゃがいもを油で……それをするだけで、こんなに美味しくなるのかしら」

「美味しいと思っていただいてて、光栄です」


 微笑みかける。


 それを聞いて、周囲の人達もさらに興味がそそられたのか、


「見た目はあまり美味しそうじゃなかったけど……そんなに美味しいっていうなら、わたしにも一枚!」

「ボクも!」

「一枚食べさせてくれ!」


 雪崩れ込むようにして、俺に押しかけてきた。


「はい、はーい! たくさんありますから! 押さないでください!」

「並んでくださいねー。まだまだなくならないですから!」


 俺とリネアが一袋ずつ持って、二列に並ばせる。

 そして順番にポテトスライスを食べてもらった。


「お、美味しい……!」

「こんなに美味しいものが世の中にあったのか」

「一袋……いや、三袋買わせてくれ!」

「オレは十袋だ!」


 どうやら大盛況のようで、人々は目の色を変えポテトスライスを求めた。


「ふう。どうやら大成功みたいだな」


 腕で額の汗を拭う。


「ポテトスライスはお店の中にまだまだ残っています。売り切れないと思いますから、ゆっくり順番に……って!」


 言い終わらないうちに、ポテトスライスを試食した人々が一斉にお店の中に急いでいった。


『な、なんだい! 落ち着いてきたと思ったら、一気にお客さんが増えてきたね!』

『だ、誰か早く会計を手伝いにきてください! そうしないとパンクしそうです!』


 店内からカリンとイーリスの嬉しい悲鳴も聞こえてきた。


「リ、リネア行こう! カリン達が助けを求めている!」

「はい! 私とブルーノさんの愛の結晶がみなさんに祝福されているようで……私、とっても嬉しいです!」

感傷かんしょうに浸るのは後だ!」


 さっきまで落ち着いていたのに、店内はピーク時を超えるくらいの人々で溢れかえっていた。


 ……ちょっとやりすぎたかな?

 いや、ポテトスライスが美味しすぎたせいなのだ!


『結果良し』ということなので、今は仕事に集中しよう。

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