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107・おっさん、リネアとポテトスライス作り

「あれから結局ポテトスライスは全部食べられちゃったな……」


 でも、みんなに美味しく食べてもらえたので、ただただ嬉しい。

 やはり料理を作る人にとって、みんなの笑顔がなによりの幸せだった。


「でも——おかげでカリンんとこに卸す商品がなくなっちまった」


 仕方ない。

 これから、その分のポテトスライスを作るとするか。

 幸い、まだじゃがいもなら山ほどあった。

 もう外はすっかり暗くなっていった。ディックもマリーちゃんもドラコも寝てしまっただろう。


 ——今なら、ポテトスライスを食べられる危険性がない!


 そう思い、俺は台所に行こうとすると。


「ブルーノさん」


 後ろから声をかけられた。


 振り向くと……、


「おっ、リネアじゃないか。まだ寝ないのか?」

「はい。それよりもブルーノさん、今からなにをなさるつもりですか?」

「俺か? ポテトスライスを作ろうと思って。カリンんとこに卸すヤツがなくなっただろ?」

「それだったら、私も手伝わせてください。ブルーノさんのお役に立ちたいのです」

「ふうん? そういうことだったら大歓迎さ。嬉しいよ」

「ありがとうございます!」


 それに一人で作るのも寂しいと感じていたのだ。


 改めて、俺はエプロンを着け台所へと移動した。


「じゃあリネアはじゃがいもを薄くスライスしてくれるかな?」

「はいっ!」


 とリネアがギュッと握り拳を作った。


 そして包丁を持ち、じゃがいもへと——。


「おいおい、ちょっと待て」

「どうかされましたか?」

「どうもこうも、まずはじゃがいもの皮からかないと」

「あっ、そうでしたね。忘れてました」


 小さく舌を出すリネア。


 う、うむ……。

 心配しすぎか。

 というわけで、リネアはじゃがいもに包丁を通した——。



 十分後。



「ブルーノさぁ〜ん。じゃがいもが、じゃがいもがこんなにちっちゃくなってしまいました!」


 リネアが瞳に涙を浮かべ、俺にじゃがいもを差し出す。


 だが、それは最早原型を留めていなかった。

 普通サイズのじゃがいもが、今や米粒サイズくらいになっているのである。


「……どうやったらそうなる」


 嘆息たんそくした。


「分かりませんっ。普通に皮をいてたら、こうなっちゃいました」


 ……いや、隣で見てたからそれは分かる。

 そして、どんどんちっちゃくなっていくじゃがいもを見ても、途中で止めさせなかった俺にも責任がある。

 しかし「うんしょっ、うんしょっ」と言いながら、可愛くじゃがいもの皮を剥くリネアを見てると、止めさせることなんて出来なかったのだ!


 とはいっても、このままではポテトスライスを作ることも出来ない。

 このちっちゃくなったじゃがいもを、薄くスライス出来るとするならば、それはそれでかなり器用だ。


「仕方ないな……」


 忘れそうになるが、リネアは料理がかなり苦手だ。

 というか家事全般が苦手なのだ。

 最近では少しずつマシにはなってきてはいるものの、お皿を何枚割ったか覚えていない。


「リネア。こうするんだ」

「ひゃっ!」


 後ろから、リネアの手を握ると小さく肩が震えていた。

 構わず、俺はリネアの手を取って丁寧に皮のき方を教えてあげる。


「力はいらない。もっと肩の力を抜くんだ」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 そうは言ってるものの、リネアの肩は強ばったままである。


「おいおい。そんなに力を入れてたら、また同じ目になっちゃうぞ」

「そ、それは分かっていますが……」


 リネアの手を取って、彼女を操縦しているような形だ。

 料理は得意だが、さすがの俺でも包丁でリネアを傷つけてしまうか心配になってしまう。

 ゆえに、あまり細かい作業も出来るわけがない。


 慎重にじゃがいもの皮を剥いていく。


「リネア。だから肩の力を抜くんだ。身を任せてくれればいいから」

「身を任せる? 私の体はブルーノさんと一体になるんですね!」


 また変なことを言い出したよ、この子。


「まあそういうことだ。俺に体を預けてくれればいいよ。そうしながら教える」

「分かりました!」


 おっ。

 良い感じにリネアの力が抜けてきた。


 というかリネアが俺に体重を預けている。


「ブルーノさんの体……あったかくて、安心出来ますぅ……」


 リネアの髪から良い香りが匂ってきた。

 そのおかげで、俺も良い具合にリラックスすることが出来た。


「よし、これで完成だ」


 そう言って、リネアから体を離す。


 まな板の上には、キレイに皮をかれたじゃがいもがあった。


「えっ……これを私が?」

「そういうことだ。もっと自信を持って、体の力を抜いてやってみて」


 まあ正しくはほとんど俺がやったことなんだが、変に自信をなくされても困る。


「は、はいっ! やってみます!」


 リネアが包丁を握り、再度じゃがいもの皮剥きにチャレンジした。


 うん。今度は順調に皮を剥いていっている。


「ブルーノさん、出来ました!」


 笑顔で彼女がじゃがいもを見せてきた。


「うん。上出来だ。グーだ」

「やったです!」


 彼女がより一層笑顔になった。

 リネアの手によって皮を剥かれたじゃがいもは、形もそれほど良くないし、普通よりもかなりちっちゃくなっている。


 しかしこれくらいだったら合格点だ。

 そしてなによりも、リネアの嬉しそうな表情を見られることが、俺にとってなによりの幸せなのだ。




 それから、じゃがいもを薄くスライスして、それを油で揚げるところまで、紆余曲折うよきょくせつありながらなんとか辿り着くことが出来た。


「……よし。そろそろじゃがいもを取り上げようか」

「はい……!」


 緊張した面持ちで、油からじゃがいもを取り上げた。

 油をたっぷり吸収したじゃがいもを、紙の上に置く。

 バチバチと、油の音がとても美味しそうに聞こえた。


「後は塩を軽く振って……完成だ!」


 自分でやるより少し時間はかかってしまったけど、ポテトスライスの完成である。


「わあ、美味しそうです!」


 リネアが手を合わせた。


 黄金色に輝くポテトスライス。

 まだ油から揚がったばかりなので、熱いかもしれない。


 なので俺は爪でポテトスライスをつまむようにして、そのまま口を放り込んだ。


「——! やっぱり、美味しいな」


 れっきとしたポテトスライスである。

 気のせいだろうか、自分一人で作るよりも美味しく感じられた。


「私も食べてみていいですか?」

「火傷するなよ」


 リネアも同じようにして、ポテトスライスを一枚口に入れる。


「はふはふ、あふいですっ」

「ははは。だから言ったろ」

「でも、ほいひいです」


 やっぱり、どんなものでもできたてが一番美味しい。

 カリンの店に卸すポテトスライスは、もう少しあった方が良いだろうか。


「じゃあリネア。もうちょっと作ろうか」

「はいっ。任せてください。もう覚えましたから」

「おっ、頼りにしてるぞ」


 それから、俺達は夜遅くまでポテトスライス作りにいそしんだ。


 そしてリネアの料理技術もちょっとは向上した。

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