1・おっさん、追放される
新連載始めました! よろしくお願いします!
「悪いけど、もうパーティーから抜けてくれないか?」
ジェイクにそんなことを言われて、俺は体が固まってしまう。
「……へ?」
「聞こえなかったか? 君はこのパーティーの足手まといなんだ。このパーティーから抜けてくれないか?」
疑問系で聞いてはいるものの、それは半ば強制のものであろう。
「おいおい、なにを言ってるんだ……みんなも!」
振り返って、他の二人を見やるが魔法使いのベラミは厳しい視線を向けてきて、武闘家のライオネルは首を振っている。
「そ、そんな……」
みんなの様子を見て、俺抜きで決められていた『決定事項』であることを確信する。
——そうだ。分かっていたことなんだ。
俺がこのパーティーの足手まといだ、なんて。
★ ★
ジェイク、ベラミ、ライオネルは小さい頃からの幼馴染みで、いつもよく一緒に遊んでいた。
『将来はパーティーを組んで、魔王を倒してやろうぜ!』
そんな夢を語り合った。
そして十六歳の時——。
スキルの儀というものが執り行われた。
この世界では十六歳になれば、スキルというものを授かるのだ。
街の教会に行って、神父が一人一人にこう告げていく。
「ジェイク——君は【勇者の証】だ」
周囲がどよめく。
そりゃそうだ。
【勇者の証】というスキルは、万物の成長速度が人より速いため、この世界で最大の『当たりスキル』とも称されているからだ。
さらにそれだけではなかった。
女のベラミも【魔導の達人】、ライオネルも【頂の拳】という最大級の当たりスキルを得た。
みんなが最高のスキルを得て歓喜に湧いている中、俺はワクワクしながら神父の前に立った。
そこで言われたのが、
『ブルーノ——君は【スローライフ】だ」
…………。
いや、そりゃ周りも沈黙になっちゃうよ。
★ ★
ってなわけで。
一人だけ意味不明のスキルを引いたものの、その理由でジェイクは俺を仲間外れにはしなかった。
俺達四人のパーティーは人類未到の地下迷宮だったり、秘境の地に眠るドラゴンを討伐したり、と輝かしい実績を残していった。
そんな俺達のパーティーには、いつの間にか称号が授けられた。
勇者パーティー、と。
「……君一人だけなんだ。【スローライフ】という訳の分からないスキルだけで、戦闘中にも足を引っ張っているのは」
十年以上連れ添ってきた仲間達。
それなのに、今は冷たい目線を俺に向けていた。
「で、でも! みんなのために、料理を作ったりしてるし!」
「確かに君の料理は美味しい。でもそれって、料理人雇えばいいだけだからね?」
「え、宴会の時には腹踊りをして、みんなを楽しませた!」
「楽しんでいると思ってたのか? ベラミは激怒していたよ。やけに踊りが完成されてたのも、なんならマイナスポイントだった……」
「せ、戦闘中も足を引っ張らないように、隠れて応援してた——」
「分からないのか」
俺の反論を遮って。
ジェイクはより一層冷たい言葉を放つ。
「この先、魔王城に近付くにつれ、モンスターも強くなっていくだろう。それなのにその……訳の分からないスキルだけでは、僕達の足を引っ張るだけだ。だから——パーティーから抜けてくれ」
というわけで。
三十路のおっさん、俺。
この歳にして、勇者パーティーを追放されました。
◆ ◆
俺はジェイク達——勇者パーティーから追放されて、目的もなく森の中をふらふらと彷徨っていた。
「あいつ等……『装備品も高級だから、置いといてくれよ』なんて言って身ぐるみ剥がしやがって……こんな木の剣でどうすればいいんだ」
ぶつぶつと文句を言ってみるものの、それで現状が変わるわけでもない。
スキルが【スローライフ】では、まともな職に就くことも出来ないだろう。
ってかなんなんだよ、【スローライフ】って。
十年経っても、使い方分からねえぞ。
他の人に聞いても『初めて聞いた』としか言われねえし。
こんな無能なスキルを作った神様はさぞ無能に違いない——。
《放っておいたら、好き勝手に言ってくれてるわね!》
「わっ!」
突然、頭の中で女の声が響いた。
辺りをキョロキョロと見渡してみるものの、誰もいる気配がない。
「そ、空耳?」
《空耳じゃないわよ! わたしはスキルの女神! あんたに直接語りかけてるのよ!》
妙な感覚だ。
声にエコーがかかっているような。
「スキルの女神? どうして、女神が俺に語りかけてくる」
《あんたが不甲斐なさすぎて、黙っていられなくなったのよ! 普通、こうやって女神のわたしが人間と交信するなんて有り得ないことなんだからね! 十年我慢したのよっ? そのうち、何回あんたの頭を引っぱたきたくなったか……》
「不甲斐ないって……元々はお前のせいだろうが!」
ふつふつと怒りが湧いてくる。
【スローライフ】なんていうスキルじゃなかったら、俺はパーティーから追放されることもなかった。
《はあ……。良い? あんたのはとんでもないチートスキルなのよ!》
「な、なにを言ってる! 戦闘では役立たずだし——」
《あんたのチートスキル【スローライフ】はね……》
俺の言葉を聞かず、女神は少し溜めてからこう続けた。
《『スローライフに関することが過度に実現する』能力なのよ!》
「そ、そんなの聞いたことないぞ?」
《そりゃそうよ。人類——いや、全種族、古今東西を見てもあんたにしかそのスキルを授けていないんだからね!》
この女神が本物かどうか分からないが、それなら今までの不遇を説明出来る気がした。
『スローライフに関することが過度に実現する』能力。
成る程。
こんなもの、戦闘では役に立たないに決まっている。
なんせスローライフって、薬草摘んだり、釣りしたり、農業したりするんだろ?
これではモンスターと戦う要素は皆無で——。
「待てよ? スローライフ?」
それって良いじゃん。
もう人が多いとこは嫌だ。
人が少なそうなところ——あんまりモンスターも強くない『辺境の地』でスローライフを送る。
スローライフもなかなか大変らしいが、それについては心配ない。
何故なら——俺は『スローライフに関することを過度に実現する』ことが出来るんだからな!
《あんたの【スローライフ】は使い方を間違わなければ……って、あんたもしかして変なこと考えてる?》
「いや——そのスキルを使って、辺境の地にでも行ってスローライフを送ろうかなって」
《は、はあ? そういうために作ったスキルじゃないわよ! スキルの使い方次第では魔王すら——ああ! もう交信出来な……》
女神の声が遠くなっていく。
三十路のおっさん。
スキル【スローライフ】で理想のスローライフ始めます。