第21話 新計画
カーシット歴328年6月23日。
おおよそ二ヶ月に渡ったグロリアとリズの戦争は終結した。
「リスト・レスタールはこの戦争において素晴らしい活躍をしてくれた。よって、彼に侯爵位を与える!」
国民から歓声が上がる。
牢屋に入れられたクロイドに代わって、俺が侯爵となったのだ。
つまり、これよりレスタール家は二つに分かれる。
父が率いる伯爵家と、俺の率いる侯爵家だ。
動きやすさは段違いに上がる。
爵位と、大領地:ヴァスク領の運営が20年行えるほどの報奨金を得て、俺はレスタール領に帰った ー いや、帰ろうとしたのだが。
「陛下、後で話したいことがあります」
「ほう‥‥‥?わかった、王宮に来てくれ」
一つ思い出したことがあった。
戦争で捕虜となった4万のリズ王国兵の処遇についてだ。
「で、話とはなんだ?」
俺らは王宮に移動した。
「捕虜についてです。彼らを私に預けてくれませんか?必ず、グロリアに忠実な兵士にしてみせます!」
「‥‥‥」
俺の予想外な言葉に、王は面食らった。
周りにいた貴族も ー まあこれはいつも通りだが ー 呆気に取られた様子だ。
しかし、これもまたいつものように、貴族の男が反対意見を言い出した。
「ふ、ふ、不可能です!陛下、やはりこの者は信用に値しません!敵兵を生かしておけばいずれ反乱を起こします。敵兵が味方になることなど殆ど聞いたことが‥‥‥!」
「ーー無いわけではないのだな」
長い間悩んでいた王が、ため息をついた。
「は?」
貴族の男は止った。
開いたままの口からは言葉が出てこない。
「敵軍が他国に寝返る例が、無いわけではないのだな」
王は再び聞いた。
若いのに、彼の威厳を感じる。
「‥‥‥はい」
男は諦めたかのように答えた。
そして王は、また黙った。
空気に圧倒されたのか、他の貴族らも静かになる。
王が動くまで、誰も喋ってはならない ー そんな共通認識が生まれていた。
この間、俺の目は王宮のほうに向いた。
玉座がある部屋だけでも、数百人が入れる広さがあり、壁や天井には壮大な金の装飾が施されている。
世界観は違うかもしれないが、元の世界でいう、ヴェルサイユ宮殿に匹敵するように見えた。
小国にしては豪勢すぎる建造物。
そして、小国には到底あるはずのない多額の報奨金。
考えてみると不可解だ。
「朕は‥‥‥」
突然、俺は現実に引き戻された。
どれほど時間が経っただろうか。
見当もつかない。
しかし、王の言い放った答えは ー
「リストを信じる。この世に奇跡を起こせる者がいるとしたら、それは間違いなく彼だろう。既に、リズ王国の者が従者になったという話も聞いているしな」
俺が願った通りのものだった。
◇◇◇◇
「リスト、おかえり!」
「ただいまです、お兄様」
先にレスタール領へ帰還していた兄に出迎えられ、俺は領主城へと向かった。
「ってリスト、歩くの早すぎ!」
早く全員で今後の話を始めたいので早歩きしていると、兄がヘトヘトになって言った。
顔をみると、疲労で歪んでいる。
前線で戦い続けていたから、疲労が溜まりに溜まってしまい、急な運動はできないのだろう。
そもそも体力は高くなかったからな、この最強の兄は。
「すいません。ゆっくり歩きましょうか」
「う、うん‥‥‥」
歩きながら、今襲撃されたら終わりだな、と感じた。
俺はもとより戦いなど出来やしないし、現状の兄は剣を構えることすら不可能だろう。
「で‥‥‥ハァ、ハァ‥‥‥王都でどんな話があったの?‥‥‥ハァ、ハァ‥‥‥凄い額のお金が荷車に積まれてたけど‥‥‥」
息が途切れ途切れになりながら兄は聞いてきた。
「お兄様、もしかして私を迎えにここまで来る時も、疲れ果てていました?」
「そりゃ、当然でしょ‥‥‥ハァ、ハァ‥‥‥リストが帰ってくるって聞いて、まだ休んでいないとなのに‥‥‥ハァ、ハァ‥‥‥ベッドから飛び起きたんだから‥‥‥」
言葉がまともに聞き取れない。
「やっぱり喋らないでください、お兄様が倒れてしまいます」
俺はそう指示すると、一方的に状況を伝えた。
侯爵になるやら、捕虜を自軍にするやら、等々。
「え、えー!?」
兄は気を失った。
マジか。
◇◇◇◇
「と、いうわけで、私はレグス家の土地を任されました」
父と兄、ゼダックとネティン、忠臣のグスタフ。彼らが全員集まったところで、俺は発表した。
反応は全て好評だった。
「さすが我が息子だ!」
「すごいね、リスト!本当にすごすぎて倒れちゃいそうだよ!‥‥‥もう倒れたけど」
「リスト様ならやれると信じていたぜ!」
「リスト様なので当然ですね」
「若様‥‥‥このグスタフ、感無量でございます!」
褒められて純粋に嬉しかったのは、ここだけの話にしておこう。
さて、本題はここからだ。
「今後、グロリアは再び狙われるでしょう。なので、私たちレスタール家も、力をつけておく必要があるのですーー捕虜を仲間にする以外でも」
場の雰囲気は真剣な物になる。
真っ先に反応したのは父だった。
「力をつけると言っても、ここ、レスタール領は弱小‥‥‥これ以上兵を増やすこともできないーーおっと、侯爵様に不敬だったか?」
「親子の絆は健在ですよ、お父様。今まで通りに接してください」
俺と父は笑い合い、他の家臣も意見を出し始めた。
新兵器の開発だったり、レグス家の領地からの徴兵だったり。
どれも現時点では難しそうだ。
特に、レグス領に関しては、クロイドが限界まで徴兵しているからな。
「そこで、私に作戦があります!」
「おお!?」
俺らが取れる最善の一手は、一つしかない。




