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第20話 攻城戦

 籠城戦は長いものだと数年かかる。

 戦場で聴いたことによれば、今のリズ王国軍の総大将はマルス・レーエイらしいので、本当に洒落にならない。

 しかし、言うまでもなく、俺はこの戦争を何年も続けるつもりはない。

 

 敵将が誰であろうと関係ない。

 敵の兵力を削ぐ段階で大誤算があったが、これからが本来の筋書きだ。


 まず、俺はわざと長期戦を演出した。

 二日間、戦闘を長引かせる。

 必要な時間だ。


「敵の全戦力を城の南側に集中させます!行きますよ!」

「おおおお!」


 攻城を始めた。


「くっ、やはり我が一族は夜中の戦いが得意なのか、思ったように力が出ないな」


 日が登ったことにより父の武力は下がってしまったが、それでも十分心強い。

 なぜならば、力が出ないと言いながら敵をめっぽう多く斬り倒しているからだ。


「リスト様のお父様強すぎねえか!?」

「それはさっきからわかっていたことだろう!剣を動かせ、ゼダック!」

「いや、分かってるけどよオ‥‥‥明るくなって一層目立つんだよ!?」


 勢いに乗った我が軍は、数の差などお構いなしに南門を猛攻していた。

 開門させることはできないが、敵の注意を引きつけるだけでいい。


「攻撃が止まらない!なんだあの化け物集団は!」

「確実に数は減らしている!耐えるんだ!」


 我が軍は総力を挙げて城壁にハシゴを掛け、敵側はそれを必死に阻止し続ける。

 父たちのように敵陣へ到達した兵も数十人ほどいたが、大半が阻止されていた。


 そして、夜になったら少し引き上げ、適度な緊張状態を保った。

 

 

 当然かもしれないが、2日目の終わりまでには、我が軍1万人に対して敵軍5万5000人という危機的状況になっていた。

 このまま戦いが続けば、絶対に俺らが負ける。だから、俺らの善戦に驚きながらも、敵の心のどこかには余裕があるだろう。

 しかし、その余裕も今日までだ。


◇◇◇◇


 翌日。 


「‥‥‥この門に兵力を集中させ、直ちに敵を殲滅しろとの命令だ!」


 相変わらずのように南門へ猛攻していると、防衛に従事していた指揮官がそう言った。

 狙い通りだ。

 

 マルスは俺らが航路を使ったことを知らない。

 つまり、彼はこの1万人がグロリアの全軍だと想定している。

 背後から挟み撃ちが来るなどとは、思いもしないのだ。


「急報!背後から敵です!」

「な、何!?」


 この時、俺の計略が発動した。

 

 北のラスク城方面から、グロリア王国軍3万人が現れ、少なくなっていた北門のリズの兵たちを倒し、開門させる。

 リスク城内にグロリアの兵が流入した。

 背後を突かれる形となったリズ王国軍は困惑し、統率が大いに乱れる部隊もあった。


「うわー!?なんで敵がここに!?」

 

 さらに、先頭にいたのがレイだったこともあり、誰もその進軍を止めることができない。


「今です、南門も突破しますよ!」

「はい!」


 勢いに乗った我が軍 ー 主にいつものように城壁を登って戦っていた父とネティンとゼダック ー は城壁から敵城内へ飛び込み、敵だらけの中で剣を振り回し始めた。

 後方を置き去りにするなよ、とも思ったのだが‥‥‥


「な、なんだコイツ‥‥‥ぎゃあああ!」


 綺麗な少女‥‥‥じゃなかった、兄が俺らの登っていた城壁付近の兵を一掃し、後方も追いつくことができた。


 俺もハシゴを登り始める。


「ほら、リストも早く!」


 グイッ。

 兄は俺を城壁の上に持ち上げた。

 敵兵を片手で斬り倒しながら、だ。


 さすが最強。頷くしかない。


「ありがとうございます。では、敵をサクッと制圧しちゃいましょう」

「そうだね!」


 兄は微笑み、俺もなんだか笑ってしまった。

 一度死にそうになったことが遠い昔のことのように思える。

 何故だろう、戦いはまだ続いているというのに。

 この上ない安心感に包まれた。


「さーて、敵の大将の姿がさっきから見えないんだけど、心当たりはある?」


 言わずもがな、会話中も、敵兵は大量に向かってきている。

 だが、兄は悠然と剣を四方八方に振り回していた。


「えーっと、敵将はすごく優秀なようなので、城の中で兵力を整えていると思います!」

「了解!じゃあ行こう!」

「えー!?」


 兄は俺を背負い、城壁から飛び降りた。

 横から剣やら弓矢やらが俺を突き刺そうとしてくる。

 兄は空中で体を捻り、敵の剣と放たれた弓をすべて避けた。


 地面に着地すると、今度は味方と合流し、なんとか防衛線を維持していたリズの兵たちの隊列を横から崩した。


「やっと来たか、レイ!待ちくたびれたぞ」

「はい!ーーって父上えええ!?」


 兄も父の登場には驚いたらしく、口をポカンと開けていた ー 敵を斬るその手を動かしながら。

 

 兄は俺を下ろすのを忘れているのか、まだ背負ったままだ。

 よって、ちょっと視界が高くなっている。

 敵陣の中央にマルスの姿が見えた。


「お兄様、中央にいるのが敵の大将です。辿り着けそうですか?」


 兄は珍しく額に皺を寄せて言った。


「ちょっと難しそう‥‥‥陣はかなり堅いし、敵の大将に辿り着くまでに別の兵士に阻止されて逃げられる予感がするんだよね‥‥‥」


 なんとか彼を討ち取りたいところだが、やはり無理なようだ。

 では、仕方ない。ここは、敵の数を減らすのに専念するのが最善策のようだ。


 嵐の如く、我が軍の攻撃は激しかった。

 練度の差は士気の高さで埋め、敵を徐々に追い込んで行った。


「撤退せよ!」


 敵兵力が3万を下回ったとき、これ以上戦っても無駄だと察したマルスが撤退命令を下した。

 城の広場で戦っていた敵兵が、皆逃げていく。


「追撃しますよ!ラスク城まで追い込みます!」


 大勢は決した。

 あとは、兄や父、ネティンたちを先頭に残存兵力を片付けるだけだ。


◇◇◇◇


 兄たちの出航と俺らのリスク城攻撃を同時に実行することに、なんの意味があったのか。

 それは、相手の情報経路を塞ぐこと。

 敵が港町:レバンを監視することは、目に見えていたからだ。

 

 見えずらい夜に戦闘が始まれば、敵は全方面を警戒して城門を閉ざす。

 監視部隊は城内に帰還することができず、情報を伝えられなくなるのだ。

 そして一度閉ざされた門は、攻城戦の緊張が続く限り、開かれることはない。


 ラスク城攻略には、揃えられる最強メンバーを差し向けていた。

 ルフィタと俺の兄。

 彼らがいれば、敗北がありえないどころか、神速で手薄なラスク城を制圧してくれる。

 2日という時間は、彼らがラスク城を制圧し、リスク城を挟み撃ちにできるまでの必要時間だったのだ。


◇◇◇◇


 マルス率いるリズ王国軍がラスク城に到達すると、案の定、ルフィタとグロリア王国軍が待っていた。

 後ろからはリストたちも迫ってきている。


 これ以上無駄な犠牲を出さないために、戦わずしてリズ王国軍はラスク城を捨てた。


 マルスが今までの人生で最大の屈辱を味わったことは、言うまでもない。

 重要な部下であったエイレントやロラシアンを失い、大損害を被った上で、敗北。


「我は引退するべきなのかもなーーいや、しかしそれでは死んでいった仲間たちが報われない」


 そんな葛藤に狩られながら、マルスは帰路についた。

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