26、コンコ村
「どうなってますの.....」
踏み荒らされた畑に半壊した家屋、生き物が這いずった足跡と色濃く残る魔法の痕跡。
滑り落ちた瓦が地面に当たって砕ける。
栄えた村の面影など、どこにも無い。
吐きそうなほどの悪臭と不気味なまでの静けさだけが、コンコ村にはあった。
*********
“聖剣に魔力注いじゃおう作戦(サラ命名)“。
実行のために、ルークたちは一度教会に戻った。
聖女長をおど.....お話し、魔力を注がせる。彼女の指示のもと魔力を求めたが、やはり手を貸すものは少ない。一般聖女など、忍者のように消えてしまった。
試しに枢機卿に注がせたが、予想通り。聖女長の3分の1も注げずにダウンした。
「少なすぎますわぁ」
これじゃあ、ビームの一つも打てませんの。
肩を落とすサラを励ます。
やはり、聖遺物から取るしかない。
アルトに目配せすると、ため息を吐かれた。
「コンコ村ではもう少し、集まるでしょうか」
「うーん、田舎だからね」
コンコ村は、ゴウトーから北西に5キロ先にある。
村は森に囲まれているが、観光地化されたこともあり、道中はそれなりに整備されている。
「この辺り一体が森だったから、よく魔物が飛び出してきて戦闘になったもんだよ」
「そんな時代もありましたね」
「今はちゃんと、目を合わせてくれる」
感慨深いね、とルーク。
それは値踏みしてるだけですよ、とアルト。
弱そうな相手には問答無用で突撃するらしい。
魔物の知能上がったのかな。怖いな。
「道も獣道しかないのに、毒草が多くて困ったよね」
「毒草?!」
「触るだけで手が溶けるやつとか、傷口から侵入して洗脳するやつとか、鼻血が止まらなくなったりとか」
「なんか匂いません?」
「甘い匂いするな」
「甘い毒草......悪魔的ですわ」
ひぇっ、とサラが両手を脇の下に入れる。
反応が可愛いが、転びそうで怖いな。
「国から除草依頼があって、冒険者総出で焼いたよ。特に厄介だったのはドライヤードってやつ」
「これ、ミルクか?」
「それにしては果物ぽいというか.....」
ドライヤードは、白い小さな花を付ける木だ。周りに強い幻覚作用をもたらす樹液を出し、魔物を凶暴化させる厄介な植物だ。
「ココナッツに似た甘い匂いが特徴なんだけど、それを魔物が好むから寄ってきちゃって」
「そうそう、ココナッツみたいな」
「確かに近いかもな」
「美味しそうですわね」
匂いだけはね。
多過ぎると甘ったるくて酔うよ。
「木の周りに魔物が寄って来ちゃうから、討伐と伐採の繰り返し」
「それはまた過酷な......」
「でもね、特別な除草剤が開発されてね!それを撒いておけば、生えなくなるって聞いた時は涙出たよ」
「まあ!それは素晴らしいですわね!」
「ココナッツに似た」
「甘い、匂い.......」
「グルルルルルル」
「ちなみに、散布は......」
「もちろん!」
サラが杖をキュッと握り締める。
ルークはゆっくりと剣を抜いた。
「ところで、勇者様」
「なぁに、サラ」
「そのお薬が不良品だったときは、どなたにご連絡すればよろしいのかしら?」
「うーん、開発者かな」
「ガウッ!!」
狼型の魔物がサラに飛びかかる。
振りかぶった杖でそれの腹に、見事なスイングを決めると短い悲鳴をあげて消滅した。
サラは笑顔だった。
「開発者のジョソウスール教授を担ぎ上げたのは、第一王子であるお兄様でしたわね。つまり、お兄様を締め上げれば万事解決と」
「それは、まずくない?」
「無問題ですわ。自分の尻も拭けないような無能を王座につかせるほど、我が国は甘くありませんのよ」
「ひぇー、さすが脳筋聖女」
「なにかいいまして?」
「なんでもないです」
魔物は怯まない。
ドライヤードを囲むように陣形を組むと、前衛が飛びかかってきた。動きに合わせて剣を一閃。
どしゃりと骸が地面に落ちる。
切り損ねた魔物がルークに襲いかかるが、獣の牙が届く前に弓が急所を撃たれて地に転がる。アルトだ。
奥でサラが杖をフルスイングしている。
テックがその後ろを守っていた。
着実に数は減っているが、森の奥から魔物の気配がする。おそらく、ドライヤードに誘われたのだろう。
これではキリが無い。先に元を断たねば。
ルークは魔物を切り伏せると、声を上げた。
「サラ、防御壁をお願い。テックはそのままサラを守って、アルトは援護を!」
「はい!」
「了解」
「あいよ!」
「光よ、我が祈りに答え鉄壁の守りをここに『守護神の絶壁』」
光が灯った杖を頭上から横に滑らせる。
まるでカーテンが下りるようにルークたちを包み込む。鉄壁の守りが、魔物たちの攻撃を跳ね返す。
「今です!」
「火の精霊よ、悪を滅する浄化の光をここに!『焼き尽くす業火』」
ルークの右手に火球が灯る。
それは詠唱と共に大きくなり、やがてバレーボールほどの大きさへ成長した。
思い描くのは世界最高の二刀流!
ルークはドライヤードの群生地を見据えると、それを振りかぶって、投げた。火球は大きく半円を描いて落下し、一気に燃え上がる。
「いまだ!畳み掛ける!」
サラが防御壁を解除する。
合図に次々と魔物に攻撃を加えると、魔物は呆気なく倒れていった。ドライヤードの洗脳が突然解けて、放心していたのだろう。
ドライヤードを守っていた中型魔物も含めて、手早く狩ることができた。
「ふぅ、終わりっと」
剣を鞘に収める。
急いでポーチから小さな小瓶を取り出すと、テックたちに手渡した。自分の分を煽る。口内に独特な苦味が広がり、眉に皺が寄った。
「これは?」
「ドライヤードの解毒剤。結構吸っちゃったから、効果が出ないうちに飲んでおいて」
すごい苦いよ、と忠告するが効果は遅かったようだ。
テックが歯を食いしばっている。
残念だけど口直しはサラの分しか無い。酷い顔をしているであろう彼女に声をかけた。
ほぉら、はちみつの飴だよぉ(夢の国のネズミ様のお声)。
だが振り向いた彼女は、平常だ。
おやっ。
「もしかして、薬慣れてる?」
「はい、普段から性がつくようにと」
「それはそれは....」
ポケットに飴をしまう。
王族も大変だな、とルークはそれ以上は言及しなかった。森の中にズカズカと足を踏み入れると、残りのドライヤードに着火することに専念する。
それにしても、
「なぁんでこんな生えてるのかなぁー?」
俺燃やしたよね?みんなで泣きながら燃やしたよね?とアルトを見ると、渋い顔をしていた。そうだよね。お前もいたもんね。
「開花時期もズレてますわね。たしか5月〜6月のはずですけど」
「めちゃくちゃ満開だが?」
「去年の猛暑が原因でしょうか?」
「やっぱりクレーム(物理)入れよう。あいつを今の地位から引き摺り落としてやる」
「国の優秀な研究者を陥れようとするな」
コラっと頭をこづかれる。
痛いよテック。
「違うよ。正当な権利だよ。たぶん、俺が声をかければあの時のメンバーが喜んでクレーム入れてくれる」
「まぁ、そうなんですけど」
「自分の名前を忘れても、あの日のことは忘れない。絶対に」
「過酷でしたのね。やはり、あとでお父様に報告を.......あら?」
サラがしゃがむ。視線の先には緑色のアンプルが落ちていた。ひとつ、ふたつと辿ると、次は木の根本に刺さっていた。
「あ、これ栄養剤ですわね」
栄養剤ですわね......ですわね.....わね.....。
サラの言葉が脳で反復する。
もはや己を抑えることはできなかった。ルークはアンプルを引っこ抜くと、手で粉砕した。
ぼたぼたと栄養剤が地面に落ちる。
握りしめた拳から、炎が燃え上がる。
「火の精霊よ、怒りを吸え。己が怒りを糧に熱く燃えろ。己が敵を焼き尽くす粛清の炎をここに!
『怒りの爆発!』」
木の根本で圧縮された火が一気に空へと昇る。小ぶりな白い花が灰となって消える。次々と炎に包まれるドライヤードに、驚いた動物が森の奥へと逃げていく。
ルークに気にかける素振りは無い。
あるのは滲むような怒りだけ。
「あんなに、あんなに一生懸命に夜通しで作業して....燃やしてやったのに....アンプル?冗談じゃないよ......これ一本あるだけで芽がどれだけ出ると」
ダンッ。近くのドライヤードをルークが殴ると、また火柱が上がった。みきゃみきゃとおかしな音を立てて、木が根本から崩れて倒れた。
「ぜったいにゆるさねぇからな」
地獄のような声が地を這う。
聴き取ったサラたちが怯えて縮こまった。
「生捕りな」
「はいよ」
「お、おう!」
「ひゃい!」
犯人を見つけたら殺すなよ。
短く指示を飛ばしたルーク。顎で付いてくるように指示すると、速足でコンコ村に向かった。アルトに背中を叩かれて、ふたりは慌ててその後を追った。
続きは午後に投稿予定です!
※魔法の力で山火事にはなりません!




