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「今日も、世は全てこともなしっとね。素晴らしいね」

 コロニー港を管理している管制室で、コンソールに座った中年職員が呟いた。


 ここはトルーデ王国でも超が付くほどの辺境にあるコロニー郡。

 トルーデ王国本星から離れた惑星ガデウスと、恒星アポスの間にあるラグランジュポイントに作られ、惑星ガデウスの周囲を分厚く取り巻くデブリ帯から鉱物を多く含んだ岩石を採取し、精錬する仕事をしている。

 歴史は古く、独立戦争以前から稼動し続ける由緒正しい鉱山コロニー郡だ。

 名をアボニーコロニー郡と言う。

 とはえいえ、由緒正しくとも、鉱山は鉱山でしかない。観光地でも無いので、こんな場所には定期船か、鉱物輸送の輸送船位しかくる事は無いど田舎である。

 資源はあるが、トルーデの首都がある本星から遠く、軍事的価値も無い。珍しい資源が取れるわけでも無いので海賊すら見向きもしないコロニー郡。アボニーは、そんな場所だった


 管制室と言っても今、居るのは立った二人だけだ。

 時間は、地球時間で深夜を示しており、他の職員の殆どは、帰宅している。

 彼ら当直だった。

「人それを、暇と言います」

 同じく部屋に残って、若い職員が言う。

「茶化すなよ。悪い事じゃないだろ。むしろ良い事だ」

「ですが、人間の仕事にはやりがいと言う物が必要でして…。毎日こんなに暇だと、これでいいのか?って疑問が湧いてくるんです」

「くくく、悩め若人よ。俺くらいになるとな悩む事すら億劫になる。ああ、世の中に平穏あれ」

 そういいながら中年職員は、背もたれに寄りかかり、ギシリと音が鳴った。


 管制室に、けたたましいアラートが鳴った。今まで訓練でしかなった事の無いアラートに、管制室に居る二人は、最初ソレが何の音か分からなかった。

「えっ何?」

「レーダーに感有り!所属不明の艦隊が接近して来ます!総数50隻以上!」

「50?何でそんな大艦隊が!局長に連絡しろ!エマージェンシーだ!クソッタレ!お前が暇だって言ったからだぞ!」

「私のせいにしないで!」

「こちら、鉱山コロニーアボニー3管制局。所属不明艦隊に告げる。停船し、所属と当宙域来た目的を告げよ!繰り返す!即座に停船し、所属と当宙域来た目的を告げよ!」

 すると以外にも、レーダー上に映ったその所属不明艦隊は、指示に従って停船した。

「不明艦IFF発信!IFF確認!何だこれ!?旧コード?独立戦争時代のコードだと!?古すぎだろ!トルーデ軍!?どういう事だ!」

 その頃になると、バタバタと管制局の職員達が一斉に管制室へとなだれ込んでくる。その中には、自宅に帰るのが億劫になって仮眠室で寝ていた管制局の局長の姿もあった。

「何事だ!報告しろ!」

「当宙域に所属不明艦が多数出現しました。誰何した結果、独立戦争時代のコードで、トルーデ軍所属。なお、現在はこちらの停船命令に従い停船しています!」

「パトロール隊に出撃要請!不明艦に向かわせろ!あと、トルーデ軍に問い合わせろ!何のつもりだとな!」

 その時、管制室の窓に大急ぎで出撃するパトロール隊の艦が映った。

「パトロール隊!目標艦隊に接近!映像来ます!」

「メインモニターに出せ!」

「何だよ…これは!」

 悠然と隊列を組んで停止している。見る人間が見れば、それは高度な練度によって出なければできない事だと分かっただろう。

「これ!?映ってるの本当にパトロール艦からの映像なの?フィオランド級駆逐艦にアレは、コースコン級戦艦!?全て廃艦になったはずじゃ!」

「知っているのか!」

「今じゃ博物館ですら、お目にかかる事は出来ない独立戦争時代の超旧型艦よ」

 歴史に詳しい系の女子である職員が叫ぶ。その目はキラキラと輝きモニターへと釘付けになる。どうやら彼女は歴女と呼ばれる人間らしい。

「何でそんな物がこんな所に居るんだ!」

「局長!正体不明艦隊から通信要請!これまた古い通信プロトコルだ!」

 最初からこの管制室に居た職員が報告する。

「繋げ!」

 局長は自身のデスク座る。間もなく、空間ディスプレイが立ちあがり、一人の男の姿を映した。

「通信要請にこたえてくれて、まずは、ありがとうと言っておこう」

「いえ、私達も貴方達に対して聞きたい事がありますから」

「私は、トルーデ軍所属戦艦フェルニダード艦長ブルーノ・サイオン・クロードロンだ」

 通信相手を見たとき、局長は目を丸くした。映ったのは、もはや映画やコスプレでしか見たことの無い、独立戦争時代の士官服に身を包んだ壮年の男だったからだ。だが、タダのコスプレとは違い、安っぽさなどは微塵も無く。目の前にいるのが生粋の軍人である事が映像越しでも分かる。

「私は、このコロニーの管制局の局長をしている。ジャック・マーです。随分骨董品の艦でのいらした物ですね?」

「何分貴方達が独立戦争と呼んでいる戦争の時から使用している物でね。自慢の艦ですよ」

「…はっきり言いましょう。一体貴方方は何処のどなたですか?何の目的でこちらにいらしたのですか?」

「名乗ったとおりです。我々は、トルーデ軍に所属する者。それだけです」

「待ってください!フェルニダード?今フェルニダードっておっしゃいましたか?あの消失艦隊旗艦のフェルニダードですか?」

 その時、横で聞いていた歴女の職員が叫んだ。

「我々の事は、そう言われているらしいね」

 その声に反応したブルーノ艦長が言う。

「消失艦隊とは何だ?」

 会話についていけなかった局長が歴女職員に聞く。

「独立戦争終結後に突如として消えた艦隊の事です!」

「それが何でこんな所に!」

「決まっている。我々は帰って来たのだよ。1000年かけて、母国へとね」

 ブルーノ艦長は、真っ直ぐに通信相手の目を見て答えた。


 所属不明の艦隊の襲来。最初にその情報を聞いた時、海賊か何かの襲撃かと怯えていた住人だったが、相手が攻めて来ない事が分かると一気に興味の対象に変わった。

 アボニーコロニー郡の住人は、その殆どが、デブリの採掘従事者とその家族が多く住む。保育園、学校、病院、役所など人々の暮らしに必要な施設は揃っている。

 だが、娯楽施設が少ない。採掘従事者が多いせいか、居酒屋や、飲み屋が多く。子供や主婦が楽しめる施設はプールやスーパー銭湯などの入浴施設程度。遊園地もあるにはあるが、それも何年か住めば、みな飽きてしまう。住人は娯楽に飢えていた。

 そこに飛び込んできたのは、正体不明の艦隊だ。

 こんな面白い事は、逃すわけは無い。

 住人達は、資源採取用の小型艇に乗り込み、旧型の軍艦に向かってカメラを向けて画像を撮る。そしてその画像を自身の、ブログや、SNSに貼り付けた。画像はあっという間にネット上を駆け回る。

 当然そうなれば、マスコミと呼ばれる人種が食いつかない筈は無い。特にアボニーコロニーに本社を持つ地方紙は、自社の宇宙艇を使って、パトロール隊の静止を振り切り艦隊の間近まで、近づき動画を撮影。その記事を有料配信した。

 通信技術が発達しているこの世界では、ほぼ一瞬でトルーデ王国内の情報が共有できる。

 そこからはあっという間に中央まで情報が飛んだ。


 独立戦争戦勝1000年が間近と言う事もあり、これほどセンセーショナルな事実は無い。

 1000と言う年月は、戦争の記憶を薄れさせるのには、十分だ。これだけの年月が過ぎれば、戦争のイベントを開いたとしても過去のイベントの焼き直しに過ぎず、何の面白みの無い行事でしかない。

 そこに当時に生きていた悪逆女王その人を知っている人間が現れたのだ。盛り上がらないはずが無い。

 マスコミは、こぞって彼らを取材しようと、辺境であるアボニーコロニー郡へと殺到した。


 艦隊帰還のニュースはトルーデ王国本星でも、大々的に報道された。そして、トルーデ王国現国王であるヴィルヘルムの耳にも入る事になる。

 そのニュースをヴィルヘルムが聞いたのは、何時もの執務室だった。

「ヴィルヘルム陛下!大変でございます!」

「どうしたのだ。デバスそんなに慌てて」

 デバスは、独立戦争終結してから代々トルーデ王家に仕えている貴族の男だ。ヴィルヘルムの幼少の頃からの友人で、現在は、侍従長をしている。

「ニュニュースを御覧くださいませ!」

 デバス侍従長の様子からただ事では無いと思ったヴィルヘルムが、仕事を中断して端末からネットに繋ぎ、適当なニュースサイトを表示させる。

 ヴィルヘルムがデバス侍従長が驚いていた意味を知った。

 そこには "独立戦争末期に消失したと思われた艦隊の帰還!約1000年の旅!"と言うセンセーショナルな見出しと、独立戦争時に使われていた旧型の艦で構成された艦隊の姿が写真と共に掲載されていた。

「これはっ!何故、こうなるまで情報が上がってこなかった!」

「申し訳ありません。アボニーコロニー郡は、鉱山以外何も無く、軍事的価値の低い場所でしたので、そのせいで情報が上がってくるのに時間が掛かったものと…」

「防衛網はどうなっている!これだけの艦隊が我が制宙圏に侵入したというのに気付かなかったのか!クソッ!大臣達を集めよ!対策を練る!」

「はっ!」

 ヴィルヘルムは、椅子から立ち上がり、洋服掛けにかけていた上着を着る。

(まったく、あの小娘の件といい、今回の件といい。何故私の代に過去の厄介事が来るのだ!)


 それは、コズリック少佐がクレハを取り逃がした日から、約一ヵ月後の出来事だった。


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