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 口封じを終えた第278艦隊の最後の一艦がワープした。

「行ったか?」

 生命維持などに必要最低限まで落とした、真っ暗なフェルニダードのブリッジの中で、ブルーノ艦長が聞く。

「第278艦隊、全艦ワープを確認。この周囲に、我々の艦は居ません」

 副長が答える。

「うまく行ったか…。何時ばれるんじゃないかとひやひやしたぞ。あのサスケとか言うボットも良くこんな博打を考える物だ」

 

 サスケが提案したのは、何の事は無い、潜伏と逃走だ。

 とは言え宇宙では隠れる場所は少ない。

 特に艦隊の集結場所に使用される場所などは、事故を避ける為、デブリなどが無い場所が選らばれる。だが、今回は幸運にも近くに艦隊を分ければ惑星の陰になって隠れられる場所が幾つかあった。さすがにレーダーとて物陰に隠れた先にある物体を見つける事は出来ない。

 それでも三つ問題があった。


 第一の問題に確かに隠れられそうな惑星があるが、敵が何処から来るか分からなければ、どちらに対して隠れればいいか分からないという事。

 隠れたと思ったら敵が後ろから現れたでは笑い話にもならない。


 第二の問題として隠れ場所があったとしても、敵が現れる前に、その隠れ場所へとたどり着かなければならない事


 第三の問題に隠れたはいいが、敵がこちらに到着した時に艦隊が無ければ、当然探す。どうやって探させないようにするか


 落伍艦隊は上の三つの問題をクリアしなければならない。


 幸いな事に、第一の問題については、予想が出来ていた。

 後ろ暗い事任務をさせるのだ。当然ウィリアム公の信頼できる麾下の艦隊だ。

 そしてここでまた、あのオカルト番組のデータが活躍する。

 オカルト番組では、この宙域に居るはずの艦艇がいない事を最初に報告したのがウィリアム公麾下の第278艦隊であり、何時頃この宙域に到着した時間も、航路もしっかりと図解入りで説明されていた。

 これにより、隠れる向きと、何時までに隠れなければならないかのが分かった


 第二の問題はサスケの力によって無理矢理解決した。

 この艦隊に存在するメンテナンスボットを、サスケの持っているアップデートファイルでアップデートするのだ。サスケの中には、KMB-06が数百年アップデートしてきたデータが詰まっている。その間に多少本体の仕様変更はあっても基本的な部分は変わらない。そもそも、サスケ自体がこの時代のメンテナンスボットなのだ。システムの動作確認は済んでいる。

 最初は、各艦の整備長達がえたいの知れないアップデートプログラムに難色を示したが、目を見張るような性能アップに渋々アップデートした。

 そのアップデートプログラムにより落伍艦隊のKMB-06の性能が三割増しになった。それにより、艦艇修理速度が大幅に上昇し、かなりの数の艦を隠れ場所へと運ぶ事が可能になった。

 

 第三の問題の解決が一番楽だ。

 廃棄予定の損傷艦をそれっぽく配置すればいい。だが、それっぽくすると言うのが曲者だ。ただ艦隊を並べただけではすぐに囮だと気付かれてしまう。それ故に小細工を散りばめた。

 並べた艦に、メンテナンスボットを配置し行動させ、さも修理中であるように演技させた。艦内には、損傷した宇宙服をばら撒いた。撃沈された時に死体役だ。

 なお、囮艦隊を二つに分けたのは、それらしく修理させるメンテナンスボットの数を少なくさせる為だ。

 その囮艦隊の中心にIFFを戦艦フェルニダードに偽装し、サスケお手製の通信応答AIをインストールした廃棄戦艦を配置。最後に各囮艦に自動反撃プログラムをインストール。少々お粗末なAIだが、元々壊れている艦なので、多少反撃が不自然でも、見破る事は出来ない。


 余談だが落伍艦隊が落伍した艦の集まりでなく、何処かの単一の艦隊であったら、これでも見破られる可能性は高かった。

 トルーデ王国はこの戦いに数千にも及ぶ艦艇を動員しており、クーデターによる混乱の影響もあり、落伍艦隊の総数が正確に分かっていなかった。数がはっきりしていてば、撃沈した数からまだ残りの存在がばれただろう。

 落伍艦隊であったが故に、こんな手でも騙せたのだ。


「ふぅ~。一時はどうなるかと思ったな。ジェネレーターを再起動させろ」

 ブルーノ艦長が艦長席の背もたれに寄りかかり、ため息をついた。

「了解ジェネレーターを再起動。これもあの可笑しなボットのお陰ですね。あのボットの持っていたデータでアップデートしたら作業効率が3割増しだって整備長が言ってましたよ」

 止っていたジェネレーターが動き出し、ブリッジに明かりが灯る。通信士が、通信封鎖を解き、他の艦の状況を確認し始める。

「回収した艦のクルー達の様子はどうだ?」

「大分ショックを受けている様子です。戦争が終わったって言うのに味方に攻撃されたんだから当然ですけどね」

 廃棄した艦の乗組員達は、全員他の間に移乗している。今回の異常な対応に疑問符を持っている乗組員も多い。だから、ブルーノ艦長達が何に備えていたのかを、実際に見せたのだ。味方による自分達への攻撃と言う異常事態を。

「彼らには、申し訳ない事をした。彼らの艦を囮にしたんだからな…」

 生き残るためとは言え、彼らの乗っていた艦を、囮にした事にブルーノ艦長は心が痛む。

「ですが、お陰で説得の手間が省けました。ウィリアム公が敵に…いや、我らがトルーデ軍が敵に回ったのは、あれを見れば一目瞭然でしょう」

「今回は、生き残ったが、問題はこれからだ。我々は、これからどうすべきなのか…」

「それは…」

「もう一度話し合わねばならんな。しかしそれも宙域から離れた後だ」

「次に別の艦隊が来るのは、少なくとも1週間後だそうです」

「その間に各艦の修理を終えて、この宙域から脱出する」」

 ブルーノ艦長は立ち上がる。

「艦長どちらへ?」

「私の子孫に会ってくるよ。安全になった事を直接伝えてあげたいんだ」

 ふっと笑いながら言った。

「はは。それ、不敬罪になりませんか?」

「さてな。私達はもう死人だ。死人に適用される法は無いよ」




 その頃、クレハは部屋のベットの上で毛布を被り膝を抱えて静かに待っていた。

「どうにか、誤魔化す事は出来たようだな」

 サスケはフヨフヨと浮きながら、呟いた。

 彼は、この艦にあるKMB-06のパーツを貰い修理を完了していた。新品のパーツを使った修理は数百年ぶり。今までは、ずっと壊れたKMB-06からの共食い整備を続けて生き延びてきていた。

「そうなの?」

「ああ、最後の艦のワープを確認した。囮の艦隊は全て撃沈された」

「あなた、この艦をハッキングしてるわね?」

 冷めた目でクレハは、サスケをみる。

「必要だからな」

 冷たい視線を受けつつも木にした様子も無く答える。

「止めなさいって言っても、やめないんでしょうね。貴方は…」

 その時、部屋の電灯が点灯した。ジェネレーターが再起動した証拠だ。

「当然だ」

「はぁ」

 そういうとクレハは、膝に顔をうずめた。

「どうした?」

「これからどうしよう?今は生き残ったけど、これから私どうしよう」

「どうしようとは?」

「だってこの時代には私のお父様も友達も居ないのよ!」

「君を追う者も居ないがな」

 そういう意味では、この時代は、クレハにとって生き延びやすい時代だといえる。それに未来の知識、特に未来の歴史を知っている。戦後の発展の事を考えると、ある程度の元手さえあれば、簡単に一攫千金を成し遂げる事すら可能だ。

「はぁ」

「帰りたいのか?」

「そりゃ帰りたいわよ。でも、もう帰れないから」

「帰る事は出来るぞ。簡単だ。冷凍睡眠で、君の時代まで寝ていれば良い。そうすれば君はその時代に帰る事が出来る。ロンドモス号の脱出艇があるだろう。アレを使えば比較的安全に君の時代に帰れるだろう。プロフェッサーの協力を得られれば、さらに安全に眠る事が出来るだろうな」

「えっ!」

 それを考えていなかったクレハは、顔を上げてサスケを見た。

「だが、帰ったとしても、君が狙われている事には変わりは無いがな。良く考えておくが良い」

 その時、クレハの部屋に来客を告げるチャイムが鳴る。

「…出るぞ」

 考えこんだクレハに変わり、サスケが出る。

「クレハ・クロードロンの部屋だ。何者だ?」

「ブルーノ・クロードロンだ。入っていいかね?」

 通信を一旦切ると、クレハに入っていいか確認を取る。クレハは慌てて身なりを整え始める。とは言っても彼女が今着ているのは、ロンドモス号を脱出した時以来使用している宇宙服だ。整えたとしてもあんまり意味は無い。

「うっうん。いいわよ」

 身なりを整えるとクレハはサスケに扉を開く許可を出した。

「やぁ。クレハさん。お邪魔するよ」

「ブルーノさん。いらっしゃい。どうぞ座って下さい」

「御先祖様でも呼んでくれてもいいんじゃよ?じゃ失礼して」

 入ってきたブルーノ艦長はおどけた様子で言い、部屋備え付けのデスクの椅子に座る。

「御先祖様にしてはお若いのでは?」

「そうだな。まだ息子の嫁の顔も見てないのに名乗るのには早いな。ああ、クーデター軍の艦隊はまんまと騙されて撤退して言ったよ」

「はい。知っています。サスケが教えてくれました。ごめんなさい。この子言っても聞かなくて…」

「何と…。では私が伝えに来る必要はありませんでしたな」

「いえ、ブルーノ艦長から直接言われた方が安心できます」

「ふふふ。そうかね。…それで、これから君はどうしたいか聞いても言いかね?」

「それが…。自分でもどうしたいか分からないんです。この時代では、私を居ってくる人達は居ないけど、親しい人達は居ないし、未来ではお父様は捕まってる…」

「ゆっくりと考えるといい。時間はまだまだある。だが気をつけたまえ?若さは永遠では無いのだから」

「ふふふ。そうですね。おばあちゃんになる前には、決めたいと思います」

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