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クレハの着替えは終え、サスケの向きは元に戻された。
クレハは、ジュリア中尉が持ってきたトルーデ宇宙軍の女性士官用の制服だった。白いシャツに白いズボンと言ういでたちだった。ただ、サイズがクレハの普段着ているものより大きかった為、少々ぶかぶかしていた。本来階級章が無ければならない場所に何も無いのは、その服が予備として用意されていたものだからだろう。
クレハはベットに座り、ジュリア中尉は、部屋においてあった椅子に座っていた。
「落ち着いた所で、貴方の話を聞きたいわ。貴方達が何処から来て、どうしてこんな所に居たのか」
「その前に、いくつか聞きたい事があるのだが良いだろうか?」
「それは重要な事なの?」
「私達にとってそれはとても重要で、君たちにとっては当たり前な事だろう」
「哲学的ね。それで何が知りたいの?」
「年号からの今日の日付だ」
ピクリと笑顔をジュリア中尉の眉毛が動く。
「今日は…よ」
ジュリア中尉が告げた日付は、既に地球にプラネットインテェリウムが発射された日時より後だった。
(戦争はもう終わっているのね。それは、ありがたいけど…サスケ?)
それを聞いたクレハは安心したが、一方サスケは、何かホッとしたような、それでいて悔やんでいるような複雑な思いを感じていた。
「…ああ…ああ、そうか…そうなのか…」
サスケは、少しの間沈黙を続け、かみ締めるように呟いた。
「すまない。もう一つ教えてくれ。どうやら損傷している艦が多いようだが、何という艦隊なんだ?」
「艦隊名ですか?今この艦隊には名前はありません。もし名乗るなら落伍艦隊ですね。この宙域を占領していた地球連邦軍に対し艦隊突撃をした結果、攻撃を受け、戦闘不能又は、推進機関を損傷して速度の出せなくなって艦隊から脱落した艦が集まったのが、この落伍艦隊です」
そういいながらジュリア中尉は窓の外を見た。そこには幾つ物損傷を受けた艦艇が、浮いている。時折修理していると思われる発光が、どの艦からも見受けられた。
「落伍艦隊…そうか…」
(あれ?なんだろう。何か聞いた事のある様な)
「さぁ。貴方達の質問には答えたわ。今度は貴方達のお話を聞かせてくれるかしら?」
クレハは、その問いに頷くと、付け加えるように言った。
「でも、ハッキリ言って信じてもらえないと思いますよ?」
「それは、こちらで判断するわ。話して」
それから、クレハは、ゆっくりと自分の事を話し始めた。最初時自分の生年月日を話した時、何か言いたげになったが、黙って聞いていた。最後まで、話しきるとジュリア中尉は頭が痛そうな様子だった。
「嘘だと思いますか?だったらよかったんですけどね…」
「まぁね。信じられないっていうのが正直なところよ。証拠はある?」
「証拠なら幾らでもあるわ。特にサスケの中や、デア・ルーラーにはたくさんあるでしょうね。プロフェッサーが色々積み込んでたみたいだし」
デア・ルーラーの中には、肝心のタイムマシンはもちろん、この時代に存在するはずの無い機器が大量に積み込まれている。これは、脱出する事を考え、持っていける物は全部持っていくの精神で積み込まれたものだった。
「でも、一番肝心な所を聞いてないわ」
「えっ?」
「あなたは、陛下と何か関係あるの?」
「陛下?」
その問い答えたのは、今までずっと黙っていたサスケだった。
「決まっている。トルーデ王国の女王たるモミジ陛下だ」
クレハにとって陛下とは、トルーデ王国国王ヴィルヘルムの事だ。そしてモミジと呼ばれる王族は、クレハは聞いた事が無かった。歴史の授業では、歴代のトルーデ王国国王の名前を初代から丸暗記する問題もあり、その殆どをクレハは覚えていたがモミジと言う名は記憶に無い。
そこで彼女はピンと来た。
「それって、もしかして悪逆女王の名前なの?」
そういった瞬間、ジュリア中尉の目が鋭くなる。
「何だその悪逆女王とは?もしかしてモミジ陛下の事では無いだろうな?漂流者としても不敬罪で銃殺されても文句は言えませんよ。訂正を」
ジュリア中尉の声は静かな物だったが、軍人特有の凄みが出ており、それを叩き付けられたクレハはヒッと声を上げた。
「ジュリア中尉。そうクレハを怖がらせないでくれ。彼女がそう言ってしまったのは、残念ながら仕方が無い事なのだ」
「仕方が無い事ですか?」
「未来では、モミジ陛下の名は罪人として名を奪われ、処刑されたとなっているのだ。地球に向けてプラネットインテェリウムの発射を命じた悪女として…。その為、トルーデ王国の歴史から陛下の名が消され、代わりに"悪逆女王"などという不遜きわまりない名が広められた。それゆえに彼女は陛下の名を知らないのだ」
その話を聞いたジュリア中尉の顔が歪む。この時、トルーデ軍は、戦争に勝利したものの、何の通達も無く発射されたプラネットインテェリウムと、旗艦にある総司令部との連絡が途絶えていた。この落伍艦隊も、落伍した艦の修理に、負傷者の救出治療、それらが落ち着いた後の艦の取りまとめに奔走して大忙しだというのに、それを報告すべき総司令部から一切の連絡が無い事に当惑していた。それに突然現れたデア・ルーラーに臨時司令部は混乱の極みに達していた。
「陛下がそんな事をするはずが無い!陛下は、決着が付いているのに、更なる攻撃を…それもプラネットインテェリウムの発射を命じる方ではない!アレは、地球連邦にプラネットインテェリウムを使わせない為の!」
「その通りだ。だが、未来ではそういう事にされてしまっているのだ」
興奮した様子で反論するジュリア中尉にサスケは諭した。
「何?何のことを言っているのサスケ。どういう事?」
一方クレハの体は寒くないのに震え始めていた。何か気づきたく無い事に気付こうとしているのを止めるように。
「クレハ…君がトルーデ軍に暗殺されそうになったのは、君がモミジ陛下の直系の子孫である事が原因である可能性が高い」
「私が…悪逆女王の子孫。嘘でしょ!悪逆女王に子供は居ないって習ったわ!」
「嘘なものか、君はモミジ陛下とそっくりだ。あのスクラップ待機場で一目見た時にすぐに分かった。そして、それの確認の為に君の血液をDNA検査して陛下の子孫である事を確認した」
クレハは、ガラドXの中でサスケに怪我の治療を行った。その時、採取した血液をDNA検査装置に掛けていたのだ。
「じゃあサスケは最初から私が、悪…モミジ女王の子孫だって知ってたの?」
「ああ」
「お父様は、その事を知っているの?」
「君が陛下の子孫である事は、私しか知らない。トルーデ王国でのモミジ陛下の酷い扱いは知っていたからな。いや、知っていたのはもう一人居るな」
「誰なの?」
「君の母上だ」
「お母様?」
クレハの母親は、クレハを生むと産後の肥立ちが悪く、すぐに亡くなってしまった。医療技術の進んだ未来ではほとんどその様な事は、起きないのだが、クレハの母親は重度の医者嫌いで、クレハの出産もあの屋敷で、信頼の置けるメイドたちに世話をしてもらいながら行ったという。
「君の名前のクレハという名には、かつて地球に存在したある国家の文字を当てはめる事が出来るのだ。部屋のディスプレイを見てくれ」
そういうと、部屋の壁にはめ込まれていたディスプレイがひとりでに付き、"紅葉"という文字が表示される
「この二つ並んでいる文字は、左が"紅"と言う文字、もう片方は"葉"と言う文字だ。"紅"は赤い色を示し、"葉"は植物の葉っぱを意味する。そしてこの文字を並べると読み方がモミジという、秋と呼ばれる季節になると赤くなる葉を持つ木の名前になる。そしてこれは陛下の名前の由来でもある。同時にこの"紅葉"という二つの文字は別の読み方が出来る。そう"クレハ"と」
「もしかして私の名前は、モミジ女王の名前から…?」
「モミジ陛下の名前から付けた事は想像に難くは無い。という事はだ。君の母上は、モミジ陛下が無実だと知っていたのだろうな。だからこそ、君にこの名を付けた。独立戦争を勝利へと導いた偉大なる祖先の名を由来に持つ名を…」
「でも…でも…悪逆女王は悪で…。プラネットインテェリウムを発射した…」
「はっきり言おう。モミジ陛下はプラネットインテェリウムの発射を命じていない。発射を命じたのはウィリアムだ」
「でも、そんな証拠…」
無いと、続く言葉はサスケによって遮られる。
「ある。私が持っている。陛下が無実である決定的証拠を。ウィリアムが犯人である決定的証拠を」
「えっ!?」
「えっ!?」
二人とも驚いた様子でサスケを見る。
「胸を張れ。君の名は、独立戦争を勝利へと導いたモミジ陛下にちなんだもの。決して悪逆女王と呼ばれた虚構の悪女ではない」
もし、サスケがクレハに会った初期に自身が悪逆女王と呼ばれたモミジ女王の子孫だと知ったら、己の血を忌避した事だろう。そしてその事実は、クレハの精神を侵し、いずれ破綻する可能性が高かった。だが、クレハは、今までの逃走劇の中で別の視点を知った。ミドロス連邦で作られた歴史動画に登場した女王は、醜悪でも、傲慢でもなく、良くも悪くもただの政治家だった。
「そうだ。陛下はそんな事はしていない。だが、未来では陰謀により、そうなってしまっているのだ。そして、未来では陛下の姿を映した画像や動画が全て消されてしまって誰も偉大なる陛下の顔を知らないのだ。あのウィリアムによって」
「ウィリアム!陛下の弟であらせられるウィリアム公か!」
「彼女についての真偽はそれは貴方が採取した血液を調べれば分かる」
トルーデ軍の駆逐艦以上の大きさの艦艇には、DNA検査装置とDNAが記録されたデータベースを搭載する事を義務付けている。これは、戦場で見つかった身元不明のトルーデ軍兵士の身元を確認する為のほか、重要人物が艦に避難してきた時に、本人確認をする為だ。このDNA検査装置は時代に進歩により、採取したDNAから、その係累親族まで調べる事が出来る高性能なものだ。
「はぁ。まったくとんでもない話を聞かせてくれたわね。貴方達にはすぐに臨時司令部に来て話をしてもらうわ」
「私達が嘘を言っているかもしれないぞ?」
「それは無いわね。仮にこの話が嘘だった場合、せいぜい私が降格されて、一生昇進されなくなるだけだわ。けど、今の話が真実だとしたら、私達の行く末を決める重大な情報を貴方達が握っている事になるの。私の出世とこの艦隊の行く末。天秤に掛けたらどちらを取るかなんで当然じゃない?それにね。私は、最初から確信していたしね。貴方達が只者じゃないって」
「何故確信出来た?」
「私はね。デア・ルーラーに乗っていたのよ」
サスケの問いにジュリア中尉は、どこか悲しげに答えた。




