出会い プロトとデフ
あれから3週間プロトとカーパーはそれぞれ2・3回ほど人を助けた。やはり無視はできなかった。カーパーの体調は徐々に悪くなっているようで、プロト自身も悪くなっているような気がしていた。
(やりたいこと、何も思い浮かばなかった。つまらん男だな俺は。そろそろ最後の大仕事が来るというのに。)
数日後やはり大きな事故の夢を見た。さっそく下見に行く。周りの人を観察して、同じ境遇の人はいないか探してみた。それらしい人は見当たらない。翌日も同じことをした。
(もし、いたとして俺はどうするつもりだ。他人に押しつけて生き長らえていいのか。)
カーパーに明日であることをメールで送った。が返信が来ない。少し時間をおいて再度メールを送る。やはり返信がないので電話をしてみる。でない。嫌な予感しかしなかったが家を知らないので他に手段がなかった。
(まさか連れてかれたんじゃ…結局どうすることも出来なかった。)
自分も残りわずかだと理解して人生を振り返る。
(打ち込むものは見つけられなかったな。だらけてばかりで、楽しかったことも思い出せないや。やらされていたとは言え、人助けをしたことは誇れるよな。だれも感謝もほめてもくれなかったけど。)
次の日、事故が起こる場所に行くと、そこにカーパーの姿があった。プロトは急いで駆け寄った。
『カーパーさん、返信がないからもう連れてかれたかと思いましたよ。』
カーパーはプロトを見て驚くが様子がおかしかった。壁に寄りかかり肩で息をしている。
『プロト、もしかして今からここで起こる事故の夢を?』
『はい、またいっしょの夢だったんですね。もう体が…。ここは僕に任せて休んでてください。』
『ダメだ。もう限界だからこそ俺がやる。いいな。』
その目を見て一瞬言葉が出なかった。
『でも、これじゃあ見殺しになりますよ。』
『違う。俺がおまえを生かすんだ。わずかな時間かもしれないけど…。そこから動くなよ。』
カーパーは交差点に行き対向して左折して来る自動車に気づかれやすいように横断歩道を渡る。自動車と並走していた自転車を巻き込まなせない為に。
うまくいった。本来ならその自転車だけでなくさらに弾みで他の横断者に接触し自動車に衝突して、複数の死傷者をだすところだった。無事やり過ごしたのを確認したカーパーは歩道をすこし歩いたところで、よろけて膝をついた。事故の大きさが代償の大きさに比例するなら相当な負担のはずだ。プロトが駆け寄った。
『プロト、ダメだ体に力が入らない。』
『今救急車呼びます。』
居合わせた歩行者が1人寄ってきた。
『どうしました?大丈夫ですか?ちょっと見せてもらってもいいですか。』
『お医者さんですか。いや、ちょっと気分が悪くなっただけです。』
『見習いです(ウソ)。』
そう言って体に手をあてた。デフだ。病院の件から少しだが積極的になっていた。
(悪いところが何処か見える力はこういう時こそ役立つはずだ。)
デフは予想していなかったものが見えて固まってしまった。
(なんだこれは、胸…心臓か。真っ黒だ。赤だけじゃなく黒があるのか。意味は心臓だし危険てことになるんじゃ。急性心なんたらとか。…やるか。)
『あの、いきなりおかしな事言いますけど僕悪いところを治す力があるんです。軽いものならですけど。だから胸に手を置かせてもらってもいいですか。』
『ちから?』
プロトとカーパーは顔を見合わせた。
『その力は手を置くだけで治せるんですか?』
プロトは不思議そうに聞いた。
『はい。今までに、おじいさんの腰痛、おばあさんの肩コリ、あと子どものぜんそくは少しずつ良くなっています。』
『…』
プロトには救急車が到着するまで、できる事はなかった。しかしデフは真剣だった。
(1分1秒を争う病気なら、わずかでも食い止めることが大事なはず。)
手に意識を集中させて強く念じた。
『やめておけ。』
若い男が近づいてきた。3人とも振り向く。
『あ〜迎えが来ちゃったか。』
パーカーがつぶやいた。
(あれが監視してた人、俺たちに夢を見させている集団の仲間。)
乱暴なことをした事がないプロトだが身構えた。
『あんた何も知らないんだろう?なら無理があるよ。』
3人は若い男の言ったことの意味が分からなかった。男は続けた
『カーパーさん限界だね。いっしょに来てもらうよ。』
『なあ、頼みがある。俺はどこに連れて行かれようと、どうされようと構わない。その代わりこのプロトは解放してやってくれ。』
カーパーは男の胸ぐらをつかんで必死にうったえた。プロトは思わぬ言葉に何も言えずにいた。
『…それは俺が決めることじゃない。』
『それじゃあ誰が決めるんだ?その人に会わせてくれ。お願いだ。』
『最初からその人に会わせるつもりだよ。だからいっしょに来てもらう。』
カーパーは男の肩を借りて立ちあがった。しかし、プロトはカーパーの腕をつかんで止めた。
『頼みなんて聞いてもくれないですよ。このまま連れて行かれるのは危険すぎます。僕のことは気にする必要なんて無いですから。』
『プロト、メール返さなくてゴメンな。そうする気力さえもなかったんだ。でも最後に役立つことができるなら、可能性が少しでもあるならやらせてくれ。』
それでもプロトはカーパーの腕を離せないでいた。
『本人がこう言っているだろう。』
しびれを切らした男は強引に引っ張ろうとした。
『大丈夫。彼に任せればいい。』
後ろから別の声が聞こえた。40前後の男性が近寄ってきた。病院でデフを治した人だがデフは知らない。
『デフくんとプロトくんだっけ、この2人は僕に任せてもらおう。』
そう言うとプロトの手をそっと引き離した。
『ああ、そっち側の人ですか。それじゃあ、お願いします。』
男は面識は無くとも何か知っているようだった。カーパーは男の仲間の車に乗せられ行ってしまった。
『大丈夫って本当ですか?』
『本当だとも。カーパーくんは治してもらいに行くのだから。君たちは僕といっしょに来てくれるかな。』
プロトはうなずいて後についた。デフは自分が活躍する場面だと思ってたが、訳が分からず声のする方へ顔を向けるのみだった。
『あっ待って。』