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偽りの無い君へ

俺は屋上で浩介と愛に復讐した後、教室へと向かっていた。


…奴らに何をしたかは…あえて言わない。


ただ、浩介が屋上から飛び下りようとして、愛が泣きながら止めることになった…とだけ言っておこう。






教室に帰ると既にホームルームも終わっており、クラスメートはちらほらと散り始めていた。


俺は鞄に荷物を積めている岬を見つけたが、先に友人と談笑している高橋の方へ向かった。


昼の暴言を謝らなければならいい。




「高橋。」


高橋は会話を止めて俺の方を振り向いた。


「おう、裕一!午後の授業どうしたんだよ?岬ちゃんもいなかったけど…二人で何処か行ってたとか?」


高橋は笑いながら言う。


本当に笑顔が似合う男だ。


俺も彼に習い、小さく笑顔を浮かべる。


「あぁ、その通りだ。二人で保健室でイチャついていた。」













教室全体が固まった。


人も、空気も、一斉に動くのを止め、視線が俺に注がれる。


ただ一人、鞄を落としている岬を除いて。












「高橋、今日の昼は悪かったな。気分が悪くてな、八つ当たりをしてしまった。」


「お、おう…別にいいけどよ…。」


「言いたかったのはそれだけだ。」


硬直している高橋を放置して、俺は鞄を拾ってあたふたしている岬の手を掴む。


「岬、帰るぞ。」


「う、うん。でも…。」


岬は凍結した教室を見渡す。


「どうした?忘れ物か?」


「いや、違うんだけど…。」


「なら行くぞ。」


俺は手を繋いだまま教室を後にした。
















『………なんじゃ今のは!!!???』


二人の去った後の教室は10分経った、爆発的な喧騒と共に動き出す…。









――――――――――――













私は裕ちゃんの漕ぐ自転車の後ろに乗っていた。


「わざわざ送ってくれなくても良いのに…。」


「いや、俺も寄りたい所があったんだ。気にするな。」


裕ちゃんの家は、駅を挟んで反対方向だ。


往復すれば結構な距離になる。


私は純粋に彼の優しさが嬉しかった。




まだ素直に信じられない…、私は裕ちゃんと両想いになったんだ…。


保健室でのことを思い出すと、今にも頭が溶けそうだった。


「………。」


…キスをした…2回も。


それに2回目は私から…。


私は裕ちゃんのYシャツのはじを、さっきよりずっと強く握った。


そうでもしないと恥ずかしさで逃げ出してしまいそうだったから。




「あっ。」


小さな二人の小学生とすれちがった。


早足で歩く男の子の後ろを女の子が一所懸命について歩いている。



…昔の私達みたいだ…。裕ちゃんはいつも一人になりたがっていて、私はそんな彼にいつもついて行こうとしていた。


裕ちゃんはそんな私を見て、『ついてくるなよ…。』と言いながらも少しゆっくり歩いてくれていた…。


やはりいくら毒を吐いても、根は優しいのだ…。


「昔の、あたし達みたいだったね。」


「ああ、そうだな。女が金魚の糞みたいについて来る所などそっくりだ。」


「………。」


前言撤回。


この男には優しさの欠片もない。




「もうすぐ着くぞ。」


裕ちゃんの声に私は顔をあげた。


周りは既に見慣れた景色だ。


確かに私の家の近所まで来たようだ。


「裕ちゃん、そこ右に曲がって?」


「何故だ?お前の家は真っ直ぐだろ?」


「いいから、ね?」


裕ちゃんは渋々右に曲がった。




「この道。見覚えない?」


「…そういえば。随分前に通ったことがあったような…。」


「ふふふ…もうちょっと進めばわかるよ。」


私は不思議そうに辺りを見渡す彼を見て、小さく笑った。










―――――――――――













俺は自転車を止めた。


「ここは…。」


そこは…俺が家出したとき、辿り着いた公園だった。






「あそこのベンチだよ。裕ちゃんが座ってたの。」


岬は目の前のベンチを指差す。


俺はゆっくりとベンチに座った。


「ああ…確かにここだ。」


「それで、あたしはここ。」


岬は俺の右に座り、あの日と同じように、俺をじっと見つめていた。




それから10分程、俺達はボーっとベンチに座っていた。


顔を上げると、遠くから夕焼けが公園を照らしている。


「見ろ岬、地球が化粧を落としているぞ。」


俺は沈み行く夕日をじっと見つめた。


「……?」


「太陽光のファンデーション。落とそうとしてるだろ?」


岬は怪訝そうな顔で俺を見た。。


「裕ちゃん…ロマンチストすぎてキモイよ…?」


「………。」


言わなきゃ良かった…。


「…キモイ…。」


「嘘嘘、ごめんね!」


「もういい…二度あんな事言わん。」


「すねないでよー、いいじゃん。可愛いらしくてさ。」


彼女は無邪気に笑う。


「そういえばお前も化粧、落としたんだな。」


「裕ちゃんがブサイクって言うからじゃない。バカ。」


「…本当の事を言って何が悪い?」


「ちょっと…酷すぎない?」


「さっきの仕返しだ。」
















俺は恐れていたんだ。

偽られる事を…。













「岬。」


「何?」











何を恐れていたんだろう。


彼女に嘘はない。


いつも心の底から泣き、笑い、照れ、怒っている。






だからこそ俺は…救われたんだ。







「愛してる。」






数時間前、保健室で散々伝え合った筈なのだが…、言わないと気持ちがおさまらなかった。






「…あたしもだよ。」


岬はそう言って頬を染める。


俺はその答えに満足し、岬と唇を重ねた。



数日前は考えもしなかった…まさか自分がこんな馬鹿なカップルのような真似をすることになるとは…。


浩介も愛と付き合い始めた時、こんな気分だったんだろうか?


しかし確かにこんな所を盗み見られたら怒りたくもなる…後で謝っておくか…。










「裕ちゃん…。」


岬は唇を離すと、目を細め俺を見つめる。


「なんだ?」


「もしかしてちゅう、気に入ったんでしょ?」


…何を言い出すんだこいつは…。


「………。」


「うわぁ〜!裕ちゃんエッチだねぇ!」


「…黙れ…!そんなんじゃない!」


「そんなんじゃないんだ?」


「む…いや…そう言われると……。」


「キャー!ここに変態がいまーす!」


「待て!ふざけるなアホ!」




俺は相手を…間違えたかもしれない…。



「なぁ。」


「ん?どうしたの?」


「言い忘れてたが…、化粧…結構似合ってたぞ。」















夕日を受け、オレンジ色に染まった街。










化粧もそんなに悪くない…。


俺はそう思えた自分に素直に驚いた。

お知らせとお詫びをさせて頂きたいと思います。

話が進んでいくにつれ、第2話『彼の朝』の文章に多大な無理が生じてしまったため、第2話の文章を大幅に改変させて頂きました。連載中に読んでくださっていた方、大変申し訳ございませんm(_)m


とりあえず無事完結させることが出来ました。

最後まで読んでくださって本当に有難うございます!


感想・意見等、心より御待ちしております!

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