表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/16

 月が照らす夜

その村には古くから奇妙な言い伝えがあった。


『月が照らす夜、狼の遠吠えを聞いた者は朝を迎えられない。』


子供を怖がらせるための昔話。


誰も本気では信じていなかった。


半年前までは。



山々に囲まれた人口150人の小さな村。


外部との交流は少なく、住民同士は家族のような関係だった。


誰がどこに住み、何をしているのか。


全員がお互いを知っている。


そんな平和な村だった。



最初に消えたのはアーサー・サリバンという老人だった。


山菜採りに出かけたきり、帰っては来なかった。


村中の人々が彼を捜索した。


熊に襲われたのだろう。


誰もがそう思っていた。



次に若い夫婦が消えた。


その次は十五にも満たない子供。


その次は農家の男だった。


そして見つかった。


死体が。


喉は裂かれ、腕は千切られ、肉は何者かに食い荒らされていた。


見るだけで目を背けたくなるほど痛々しい姿だった。


村のある者は言った。


「獣害だ。」


「熊だ。」


しかし、村人たちは違和感を覚えていた。


熊なら昼でも襲う。


だが犠牲者は全員、夜に姿を消していた。


そして何よりも、死体の周囲には巨大な何かの足跡が残されていた。


オスカー・コリンズは足跡を見つめ、小さく呟いた。


「どう見ても、これが熊の足跡には見えない……。」


その頃からだった。


夜になると家に籠る者が増えたのは。


子供たちが外で遊ばなくなったのは。



そして、ある夜。


村中が聞いた。


遠くの山から響く獣の咆哮。


狼の遠吠え。


その翌朝。


また一人死んだ。


それからは早かった。


一人。


また一人。


また一人。


誰かが死ぬ。


夜になる。


誰かが消える。


朝になる。


食い荒らされた死体が見つかる。



警察も、自衛隊も来た。


捜査も行われた。


罠も仕掛けた。


監視カメラも設置した。


だが何も映らなかった。


何も変わらなかった。


そしてある日、外部との連絡が途絶えた。


電話線は切られ、道路には土砂崩れ。


携帯も繋がらない。


まるで知性を持った何かが、この村に閉じ込めているようだった。


半年後。


150人いた平和な村は、12人になっていた。


生き残った者たちは毎日同じ夢を見る。


夜道。


月の明かり。


血の匂い。


そして――


闇の中で光る赤い目。


もう誰も信じてはいない。


警察も。


自衛隊も。


神様も。


信じられるのは、自分自身だけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ