呪われた青年アメシスと潜入使用人 ⑥金庫室潜入と宝石
⑥金庫室潜入と宝石
金庫室内の財宝は、本当に素晴らしかった。
アメシス様が、いろいろ説明しながら、宝物を見せてくれる。
経済的価値だけではなく、歴史的価値も高い品々。博物館のようだった。
アメシス様が、小さな箱を棚から取り出す。
「ああ、これは、たいした価値はなさそうだ」
ハッとした。私が探していたブローチだ。金の十字の形であまり大きくはない。
中央と四方に宝石がはまっている。
たいした価値はあると思うのだが、確かにこの部屋にあれば霞んでしまう。
だからと言って、罪が軽くなるわけじゃないけれど。
「あ、アメシス様!それ、よく見せてください!」
片付けようとしているアメシス様にお願いする。
「はい」
受け取って、手が震えた。
貴金属店で販売された絵の通り。
「これ、どうされたのですか?」
「記憶にないな。新しいもののようだし、兄上のものかな。どうかした?」
「いえ……綺麗だなと思いまして……」
本当は買い戻せるお金があればそうしてる。
でも何年働いても難しいだろう。
そして、現王様の体調不良が噂になる中、次の即位式までに時間がない。
(何とか、手に入れなきゃ……)
棚には他にも大小様々な宝飾箱が並んでいた。
私は似た大きさの箱を一つ取り、アメシス様に差し出す。
アメシス様がそちらに目を向けた隙に、
ブローチの箱をそっと窓際の棚へ滑らせた。
部屋を出て、アメシス様が鍵を掛ける。
「見せていただいて、ありがとうございます!」
私が頭を下げると、アメシス様が、頭を撫でてくれた。
そのままそっと右手を伸ばして、私の頭を抱くように、自分の胸に近付けて、左手で私の手を取った。
ドキンと胸が鳴る。
密着するときめきと、先ほどブローチを盗まなくてよかったという安堵が、同時に頭をめぐる。
「パルが喜ぶなら、鍵番だった価値があったよ」
控えめな笑顔。
……この人の暖かい優しさを、私は利用している……。
そう思うと、もうアメシス様の綺麗な目が見られなくなった。
それでもアメシス様の視線は肌で強く感じた。
「……何か、困ったことがある……?」
アメシス様の言葉に私は慌てる。
「あ……いえ……」
やっぱり不自然に見えてるかな……。
「……指先が、冷えてる」
「え?」
「いつも薬を塗ってくれてたから、君の手の温度は覚えてるよ」
「アメシス様……」
優しく暖めるように握られる手。涙が出そう。
ここに、あなたの側にずっといられたら良いのに……。
◇
数日後、掃除の合間に埃を払うふりをして、アメシス様の部屋のバルコニーに出る。
金庫室の外へ。窓を引き上げる。
相変わらず、無理やり腕一本分差し込めるほどしか開かない。
腕を伸ばして、棚に置いた木箱に触れる。
目測して置いたはずが、わずかに遠く、手元に引き寄せられない。
仕方なく、ほうきの柄をそっと窓から中へ差し込む。
降りてこないように片手で重い窓を抑えながら、もう片方の手でほうきの柄で木箱を引き寄せるのは至難の業だった。
誰かに見られたら言い訳もつかない状況だから焦ってしまい、なおさら集中できない。
引き寄せるつもりが、逆に何度も、箱を押しやってしまう。
危うく棚から落としそうになりヒヤリとする。
少し考えて、ほうきではなく”はたき”を差し込み、先の布にひっかけながら手繰り寄せる。
少しずつ移動して、指先が届くようになった。
中指を掛けてやっと握ることができた。
(良かった……)
緊張が解け、窓から箱を引き抜こうとする。
ガコン。
箱の角が窓の桟に引っ掛かった
取り落としそうになって、冷や汗が吹き出した。
箱の向きを変えてみるけど、このままだと通らない。
見当がいろいろ間違っていたと後悔する。
落ち着いて、もう一度箱を一番近い台にひっくり返して置く。
中のブローチだけを取り出した。
(……取れた……)
ホッとする。
「パル?」
振り返ると、アメシス様が部屋から出た場所に立っていた。
見られたのかと思い、サーっと血が下がる。
「あ……アメシス様」
ブローチはエプロンのポケットに隠す。
冷や汗が背中を伝う。
「ど……どうかされました?アメシス様」
「いや……君の姿が見えないから、心配になってしまって……」
アメシス様が、ほんのり赤くなっているのを隠すように、自分の頬に手を当てている。
(ごめんなさい、ごめんなさいアメシス様……)
私は、震える手でエプロンの上からブローチをぎゅっと握りしめた。
部屋に下がり、器具を出す。
ブローチにフィルターを通した光を当てる。
中央上の宝石がオーロラ色に揺らめく。
取り外して、イミテーションの宝石と差し替えた。
はあ、っとため息をつく。
息をすることすら忘れている。
こんなこと、全く慣れない。
いっそ全て明るみになって厳罰を受けた方が気楽なのかもしれないとすら思う。
外は、アメシス様の髪のような漆黒の闇。
優しい紫の瞳や、繊細な指先、抱き寄せてくれた熱を思って、涙が浮かんだ。
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