ダリルとベッセル
第九章~ワルサー・L・シューメイト大尉の巻
露草氏のお言葉に甘えて鳳{おおとり}研究所の食堂に移動した僕ら三人は、それぞれに注文をしてテーブルに着いた。
といってもすっかり夏バテなので食は細いのだが、大道少尉だけは大盛カツ丼と味噌汁をオーダーしていた。僕はペペロンチーノでミサキ氏はシーザーサラダとコーンスープ。
体はすっかり冷えたが体力が既に限界なのでロクに話もせず、もくもくと口にしていると、テーブルにワルサー大尉が寄ってきた。
「ハイ、ミサキ! ご無沙汰デスね!」
この方はワルサー・Ⅼ・シューメイト大尉という、鳳研究所御用達の傭兵さんで、イギリス出身で僕らとも面識がある。
通称「不死身のワルサー大尉」という通り名で、戦場で何発も撃たれたのに生きて生還したことからそう呼ばれるようになったのだとか。
「ハイ、ワルサー。随分と元気そうね。相変わらず」
若干面倒そうにミサキ氏は返し、シーザーサラダを口にぱくり、黙した。ワルサー大尉はコーヒー片手にその場に立ったまま、屈強な体に満面の笑みだった。
「ダリルとベッセルの具合はいかがデスか?」
「うん、きちんとメンテしてるから問題ないよう」
ミサキ氏のリボルバーの名称が、それぞれダリル、ベッセルというのだが二挺で違う銃を使っているのには理由がある。左手用のダリル・リボルバーはスイングが逆なのだ。
このダリル、ベッセルの入手経路はワルサー大尉からで、ハイブ相手に共闘したことも数回ある。
基本的にいい人なのだが、この夏場ではやや暑苦しい、とは内緒の話だ。
「ヘイ、ヨー。そろそろボーイもガンを持つかい?」
物騒な申し出にノンと返し、蒸せそうになりつつペペロンチーノをくるくると手繰る。
いくら相手がタロンといえども、学生の身分で銃など持ちたくない。
「オー、ミーティングタイムね。ミサキ、ボーイ、それからオオミチ、シーユー!」
笑みと共にワルサー大尉は去った。大道少尉とあまり話していないことが気になったが、少尉と大尉殿はあまり良好な仲ではないらしいので仕方がない。
「ふん、カツ丼がガンパウダ臭くなったわい」
吐き捨てるように言う大道少尉は味噌汁をずずずとすすっていた。