利用限度額がギリギリなのだ
第七十章~二人合計で九百万円ねの巻
「あ! そういや忘れてたよ、報酬の件。蘭子{らんこ}ちゃんに連絡しておくれぃ」
プレーンのクレープを頬張りつつミサキ氏が言うと、大道少尉も続く。
「ふごっ! もががぃ! んぐっ! 吾輩の分もどうなっておるか、少年よ、確認せよ!」
僕は恐らく多忙であろう鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏に連絡を取ってみる、と、意外にもすぐに出た。
『あら、あなた、どうかして? ちょっと立て込んでいるから手短にお願いね?』
スピーカーモードなので二人にも聞こえる。
「蘭子ちゃーん! 今回のタロン討伐の報酬! いつ頃貰えるのかなー!」
「吾輩はぁ! 二体分であるからして! 失念するなかれぇー!」
……うるさい。
『ちょっと待ってね。……二人合計で九百万円ね。急いでも月末か月明けと言ったところよ。急いで、ね?』
「ええー! あと半月も待てってか! せめて手付けくらい、どうにかなんない?」
「同じくである! 鳳よ! 吾輩、少々懐具合が寂しいが故、急ぐのである!」
『……だったら研究費から幾らか出すわ。研究所にこれる? 入れ違いになったら事務員に渡しておくから。じゃあ、切るわよ?』
よっしゃぁ! と珍しく息の合う二人のガッツポーズ。
「店員さーん! 私ら、一旦出かけるけど、また戻ってきてもいいかな?」
板倉氏がやってきて、構いませんよ、と会釈をする。
「よーし、全員、蘭子ちゃんのところにレッツゴーだぁー!」
「まて、アホの鳩羽よ。スペアリブがまだ少し残って……」
「テイクアウトにしてもらえよ。行くぜー!」
僕は慌ててペプシを飲み干し、出発の準備をする。といっても財布とスマホをポケットに入れるだけだが。
喫茶店・ビーンズの扉をくぐると、熱気が押し寄せてきた。
「くあっ! 何だこれ! 暑いというより熱いぞ! 自販機自販機!」
ビーンズ入口そばにある自販機で麦茶を購入したミサキ氏はサンバーバンへと向かう。僕と大道少尉も飲料水を購入して続く。
スマホを見ると予想通りの熱中症アラートであった。締め切った車両の内部温度は五十度を超える、だとか何だとか。
これはもうエアコンの壊れたサンバーバンでの移動は諦めてタクシーにしようと提案するが、
「蘭子ちゃんの言う手付けの金額が分からなくちゃ、無暗にタクシーなんて使えないじゃん! お金ないんだぜ? 私ら」
「吾輩のアメリカン・エキスプレスが使えればいいのだがな」
使えるだろうに、と思ったが大道少尉の返答は少し違った。
「先日、調査で海外に行った際にかなりの金額を使ったが故、利用限度額がギリギリなのだ。つまり吾輩もアホの鳩羽と同じ立場ということぞ、ははは!」
笑い処ではないだろうが、それはともかく、結局僕らは灼熱のサンバーバンで鳳氏の研究所に向かうことにした。
役に立つのか立たないのか不明な大道少尉だな、とは内緒である。




