あのさ、ここ、どこよ?
第六十二章~スマホの着信音くらいで起きれるなら睡眠導入剤なんて飲んでないの巻
日付変わって午前一時過ぎ。
露草氏は寝室で、大道少尉はソファで、ミサキ氏は来客用の布団でそれぞれ寝息を立てていた。
僕は一旦は寝たのだかどうにも寝付けず、照明の落ちたリビングでオンライン対戦ゲーム『フォートギルド』の続きをやっていた。
旦那さんのケンタ氏はあれこれと機材を持っているらしく、その中から二万円くらいしそうななかなかのヘッドフォンを借りて、それを付けてプレイしていた。
そこから三十分ほど経過した頃だったと思う。とんとん、と肩を叩かれて、ゲームに集中していた僕はびくり、と跳ねた。
「しーっ! 静かに! ……あのさ、ここ、どこよ?」
ミサキ氏だった。ショートヘアはバサバサで半袖ブラウスはしわだらけ、寝起きらしく目線も定まっていない。
「と、とりあえずシャワー借りるのがいいと思いますけど、ああ、ここは露草さんの自宅ですよ」
ミサキ氏は「ふーん」とだけ返し、水回りの方へとヨタヨタと歩いていった。と、思ったら呼ばれた。
「おーい。あたしの着替え、車に積んであるっしょ? どれでもいいから一式持ってきてくれ。んじゃ」
言い終わると今度は本当にシャワー室らしきに消えた。
ゲームは途中で止めることは出来ない仕様なので、僕ことMr.Aは車に乗って駐車場へ停めた。これでしばらくは安全だろう、と、サンバーバンに向かう。
外は気温こそ低いものの湿度がやたらと高く、空を見上げると雲で月は隠れていた。一雨来そうな気配である。
ともかく、と僕はミサキ氏の着替えが入ったバッグを取り上げ、そのズッシリとしたリュック型を背負い、快適な露草邸へと戻った。
と、丁度シャワー終わりのミサキ氏がバスローブ姿で待機していた。
「あんがとー。さてと、下着下着と……」
見慣れてはいるがさすがに、と僕は視線を別方向に飛ばす。
「……んで、Tシャツ? まあいいか。これで完成、って、これガンベルトじゃん!」
ミサキ氏が小さく声を荒げたので僕は視線を戻した。いつものホットパンツに、レイカーズのTシャツと、手には二挺用ガンベルトがあった。
「あの、別のを持ってきます?」
おずおず、といった調子で尋ねる僕だったが、
「まあいいよ。慣れとくって意味も兼ねて今日は付けとくよ」
言いつつ、ミサキ氏はずっしりと重いガンベルトをホットパンツの上から装着した。レイカーズTシャツはLサイズでミサキ氏には合わないのだが、これはガンベルトを隠す為のものなので、ブラウスの時と同じく、裾は垂らしてガンベルトの半分を隠した。
「ここで蘭子{らんこ}ちゃんからタロンアラートでも来れば、値千金のチャンスなんだけどなー」
ミサキ氏は言いつつ、勝手に露草邸の冷蔵庫を開けて、炭酸飲料を一つ、拝借していた。我が家顔負けのやりたい放題である。
「タロンなら昼間に出て、少尉が倒しまし――」
「ぶっ! 何だソレ! 昼間ってあたしもいたっしょ! なんで起こさないんだよ!」
そこからが大変だった。
私立桜桃{おうとう}学園で起きたカッターナイフ負傷者事件と、スマホ類にばっちり収まったタロン、それをカイザーナックル、真だかダブルだかのそれで倒し解決した大道少尉と、彼を取り巻いた「リカちゃん軍団」と男子三人。スマホで桜桃新聞にアクセスしてそれを見せつつ、解説する。が――
「こんな錯乱した高校生とタロンくらい、あたしなら二秒で片づけるっつーの! またバカ少尉に出し抜かれたぜ……全く、涙出そう」
負傷者の大半が軽傷だった、という朗報はしかし、慰めにはならなかった。
大道少尉が退治したタロンとそれに憑依されていた高校生、佐久間くんは、二分ほどで制圧・駆逐していたが、ミサキ氏ならば言葉通り、二秒かそこらで片付くだろう。
しかし、間の悪い人だ。その時は確か露草氏の保健室で熟睡していた筈なので。
「うわ! 蘭子{らんこ}ちゃんからのアラート履歴が五件も入ってたぁ!」
自分のスマホを見るミサキ氏は、がっくりと項垂れていた。
スマホの着信音くらいで起きれるなら睡眠導入剤なんて飲んでない、とはミサキ氏の言葉だが、まあ、間が悪かったと諦めてもらうしかなかった。




