唾でもつけとき
第五十一章~カウンセリング的なことの巻
露草氏の保健室に戻った僕ら。相変わらずけむたい。露草氏が何事もなかったかのようにラッキーストライクを灰にしていた。
僕が「おつかれさまでした」と言うと、露草氏は首を傾げた。
「何がや?」
いや、だから、二十名強もの負傷者への応急処置です、と付け加える。
「ああ。それがうちのお仕事やからな。あんなん疲れたうちに入らんわ」
ふう、と天井めがけて煙を吹く露草氏。多少は僕らに気を使ってくれているらしい。
「露草先生は――」
「センセ言うんは止めようや。そないな偉いもんちゃうから」
「え? ああ、じゃあ、露草さん、は、その治療なんかも出来るんですね? スクールカウンセラーって精神関連ですよね?」
「心療内科な? そこのセンセはカウンセリング的なことはやれるで。専門でカウンセリングだけやっとる人もおるけどな。んで、心療内科やろうが監察医やろうが、医大で基礎は教わるから、応急処置やったらお医者さんは全員やれるいうことや。蘭子{らんこ}がほら監察医やろ? あいつでも応急処置くらい朝飯前やわ」
僕はへぇ、と頷いてばかりだった。医学の知識が殆どないので尚更だった。
と、まだ口に海鮮丼を含んだままの大道少尉がずいと両拳を突き出した。
「もがっ……んぐ、露草よ。吾輩、真・カイザーの使用で拳を少々痛めたが故、治療を頼もう」
吸いかけのラッキーストライクを灰皿に置き、メタルフレームをくいと上げて露草氏はその拳を観察する。
「なんや、皮がちょいめくれとるだけやんか。唾でもつけとき」
「ふおっ!」
事務椅子に座りなおし、煙草を咥えた露草氏が言い放ち、大道少尉はのけぞった。
「そういえば、天海真実{あまみ・まなみ}さんの様子はどうなんでしょうか?」
「知らん……ああ、メール来とるわ。ちょい待ってな」
タロンもだが、二十名以上が学園内で負傷となればニュース速報ものだ。きっと天海理事長は忙殺されているだろう。
「負傷者の治療と保証は全部、蘭子んところがやる、やて。今は保護者への謝罪周りの最中らしいわ。難儀な話やわ。学園はいちおう平常運転やて。休校にしても良さそうやけど、まあ、真実の判断やな。あっちには月詠{つきよみ}はんが付いとるから、ま、心配ないやろう」
ざっくりとメールを読み上げる露草氏。
タロンに関しては一言もなかったのが不思議だったが、それは夜、帰宅してネットでも見れば上がっているだろう。
いや、鳳氏らの隠蔽工作で既に片っ端から削除されているだろうか。
その場合は、自分のスマホ動画を見るだけなのだけど。




