アユムちゃんのカーディガン
第三十八章~サンバーバンのエアコンの巻
午前十時半、繁華街へと向かう道中のサンバーバン車内。
「麦茶切れたぁ! 死ぬぅ! これ扇風機にもなってねーじゃんか! 熱風だよ!」
ミサキ氏が助手席で喚いているが、それもその筈。今日も熱中症アラートが発表されており、ニュース曰く、車内温度は五十度を超える危険があるとのこと。
ミサキ探偵事務所もだが、このサンバーバンのエアコンもさっさと修理してもらいたい。運転手である僕も頭がくらくらしてきているのだ。
「だったら口のマスク、外したらどうです?」
僕はささやかな提案をしてみた、が、
「真夏に更に感染症とかで熱出たら、本気で死ぬから嫌だね!」
ニュースでは人のいないところではマスクを外すよう言っていたのだが、ミサキ氏は一切受け付けない。
「ああ、ビーンズが見えてきました。そろそろですよ」
目的地は昨晩、露草葵{つゆくさ・あおい}氏が奢ってくれた、女性向けカフェ・ビーンズである。
「上着、用意して下さいよ? どうせエアコンばてするんですから」
「準備万端よ。アユムちゃんのカーディガン、借りてるからさ、ひひ」
すっかり「ちゃん」付け呼びである。
「折角ですから少尉さんも呼びますか?」
僕の提案にミサキ氏は、うーん、と唸る。
「バカ少尉もまだお金残ってるだろうけど、どうしようかなー……まあいいか。任せる」
お許しが出たのでサンバーバンをビーンズの駐車場に入れて、スマホを取り出す。
『なんだ少年、事件か? 事故か? タロンか?』
スピーカーモードにすると、やたらとでかい声で大道少尉の声が響いた。
「いえいえ。美咲さんと一緒にビーンズに入るところなんですけど、ご一緒にどうかと思いまして。涼しいですし――」
『――行くぞ吾輩は! 待っておれ! む! 吾輩のズボンはどこだ! Tシャツはどこだぁ!』
……うるさいのでスマホを切る。おそらくシャワー滝行とやらをしていたのであろう。
「少尉さん、来るみたいですよ、多分」
「割り勘だってきちんと伝えろよ? ここ支払ったら数千円しか残らないんだからな?」
僕は祈る。早く来い、仕事よ、と。




