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ANASTASIA  作者: 桜依 夏樹
Afterglow Restart&Reunion.
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2-21 Shall we dance?



 朝日を浴びる船は大海原を掻き分ける。

 ここはヴァルプキス西地方が誇る広大かつ豊かな海、アトランティカ大海のど真ん中。

 かつて神話において美しき水の大都市アトランティスが存在したとされるこの輝かしい海は、今でも不可視世界に住む神々と異形が生きている神聖にして邪悪なる世界。

 善と悪が相反する境界でありながら清らかな"水"という性質が調和をもたらし、絶妙な均衡を保ち続けている。

 まぁこれはあくまで見えない世界の話。

 目に見える世界ではどの世界とも変わらず、時に食われ時に食う大小様々な魚が優雅に泳ぎ、緩やかに揺蕩う海草が揺らめき、色鮮やかな珊瑚礁が薄暗い底から顔を覗かせる。

 海の旅というのは素晴らしい。しかも天候にまで恵まれていると来ればこれ以上に優雅で贅沢な船旅は存在するものか、と航海士は昨晩の時点で大いに笑っていた。

 そう──今この海にぽつんと浮かぶのは、カエルレウム連合公国に向かうファレル一族の一隻の船舶。そこに乗り込むは護衛の魔術師、船乗り、案内人と────。


「おはよぉレオンくん」


 まず一人、日差しが照らす銀髪を潮風に乗せるタレイア・ルミエール。昨夜は無事出航記念と称し、月明かりに理性を任せてベロベロに酔っぱらっていたのだがどうやら今朝は正気らしい。

 そして、そんな彼女に呼ばれた彼は甲板で日の出を眺めていたレオン・ファレル。黒いインナー姿に加えて生まれ持った容姿を台無しにする無惨なボサ髪、しかも目が死んでいる。寝起きの様子だ。


「なんだ、タレイアか……」

「んもぅ! なんだってなぁに? しかも、タレイア"お姉ちゃん"の間違いじゃないかしらぁ?」

「この歳でお姉ちゃんはちょっと」

「えぇーっ!? いくつになっても私がお姉ちゃんなのには変わりありませんっ!」


 まだ酔っぱらってるのかと半ば呆れ、素面である事実に半ば困りつつ海の彼方に視線を戻す。


「リオンくんは寝起きが早いって聞いていたけど、お寝坊さんかしらん?」

「寝込んでるだけさ。自分の部屋は結界が張っておくから揺れは最小限だーとかなんとか聞いた」

「上手くやってるわねぇ」


 この場にいない三人目、もといリオンはとにかく船がダメだ。何度でも言うが泳げず、水を恐れ、船に乗れば船より先に撃沈する。

 だからちゃんと自衛手段として自室に強固な空間──疑似的な別世界を形成し、海の上という概念の在り方を根底から塗り替えることで冷静さと平常心を保っている。つまるところ究極に自分好みの部屋を作っているのだが、もちろんアガートラームの無駄遣いだ。

 しかしその部屋に弱点があるとすれば、開けてしまったり出てしまうと加護が薄れて効果もなくなってしまう点が挙げられる。

 故に引きこもっているのだ、昨日から。


「苦手は仕方ないけれど、ずっと籠りっぱなしは体に悪いわぁ」

「そんなことでアイツが出てきたらビックリだ。たかが二日くらいならどうってことないだろうし……」


 部屋から出てきて外の空気を吸うのが吉か、どうしようもない酔いから逃れるために引きこもるのが吉か……何事もバランスが重要だと思われる。

 ただ出てきてほしいと口で簡単に言っても、無理矢理引っ張ってこようとすればもれなく防衛システム(手動)が作動しかねないので、やはり自力で出てくるのを待つ他はない。というかお腹が空けばさすがに出てくるだろう。

 少なくとも二日弱は海上での生活になるし、正直なところ余計な地雷を踏んでギクシャクするのはなるべく避けたいのがレオンの本音だ。

 今は上手くいっている、順調に兄弟仲を取り戻しつつある。

 リオンだって相変わらず口の方は辛辣だが距離を置かなくなったところを見る限り、気を許しているのは確かな事実。

 まぁ踏み込みすぎると喧嘩になるが、そこを上手に渡っていくのが大人の基本。だからこそ心配こそしながらも部屋に入ったり引きずり出したりするのはあまりしたくない行為だ。

 別にカエルレウムに着けばいくらでも顔を合わせられるのだ、禁断症状でもあるまいし会いたい会いたいとギャーギャー喚くほどレオンはブラコンではない。

 ──と、引きこもりを正当化しては来たが、戦闘になったら出てきてもらう必要がある。海となるとどうしても遠距離戦になりがちで、護衛がいるとは言うが弓からビームをブッ放つ彼が出張った方が圧倒的に効率的で掃討も素早い。

 しかしそれもあくまでヴェルメリオ帝国の襲撃に遭ったらの話。

 今のところ敵影や巨大船舶の気配はなし。このまま何事もなく海を航りきれれば万々歳だが果たしてそこまで上手くいくのやら。

 彼らが朝の歓談を楽しみつつ海を眺めていると、内部の客室がある廊下に繋がる重い扉を押し開く音がやけに響く。

 そろそろ休憩していた船乗りたちが戻ってきたのかもしれない。

 義務的ではあるが急な迎えに対応して船を回してくれた同胞たちに労いの言葉をかけるのは礼儀だろう──と思い立ったレオンは扉に体を向けながら口を開いた。


「ご苦労さ、ま────ってリオン!?」


 扉の奥から出てきたのはなんとリオンだった。

 下手に部屋から出てきたが最後だったか、気分が優れないらしくあからさまにぐったりして青ざめ、汗で髪がくっつき鬱陶しそうだが拭うような素振りは見えない。

 なんの用もなく自分から出てくるなんてまさかありえないと思い、冗談混じりとはいえその話もしていた矢先のこの登場は意外も意外だ。

 もしか魔法の効きが悪くて三半規管がイカれたのかもしれない……というのは魔術師に対して侮辱だろうか。

 壁に手をついてフラフラしているので少なくとも目眩と吐き気、頭痛を偶発させている可能性が高い。

 いくら船酔いと判ってはいてもあまりにフラついているため、誤って海に落ちてしまいかねない。ここは兄として手伝ってやろうと慌てて近付く。


「大丈夫か? ほら、支え……ッ!!」


 咄嗟に触れた左手を思わず離してしまった。なにか汚れがついてたとか、振り払われる気配があったからとかではない。

 ──────()()()()。その左手は、まるで直火で熱した鉄板のように熱かったのだ。

 瞬間──初めから意識などなかったのだろう彼はその場に崩れ落ち、正面で肩を抱いてなんとか支えた体は熱いはずなのにとても冷たい。

 ただ汗をかいているのに死体のように冷え、銀の腕が宿る左腕だけは酷く滾っているリオンの様子はとてもじゃないが船酔いとは言い難かった。


「どうしたの!?」

「分からない。……部屋に運ぼう、治癒系の魔術師を呼んでくれ」

「ええ、分かったわ」


 タレイアに魔術師の応援を任せ、言葉数少なではなくほぼ皆無に等しい焼きつくような凍えるような身体を抱えて、走って部屋に戻る。

 そうだ……思えば昨日も彼はおかしな症状をいくつか見せていた。

 なにもないところで転んだり、顔が青かったり、なによりも凄まじい量の血を吐き出していたり──あの時は大丈夫だと言われてついそれを信じきってしまった。

 やはりただ事ではなかったのだ。

 リオンはヴェルメリオ帝国艦から脱出した時……いいや、更に前からなにかを患っている。拐われる前は特におかしい点は見られなかったので、間違いなく原因は赤の国によるものだろう。

 しかしその原因が次なる問題だ。

 毒薬を食らったとは聞いているが、その効果は本人のみぞ知るところ。尚且つシキ曰く「アガートラームで治癒されている」らしいし、ならばと考えるも他の理由がイマイチ浮かんでこない。

 ただ、横たえた弟の病気の時とはまた違う苦しげな表情と異様に跳ね上がった体温を放つ左腕が状況がどれほど悪いのかを物語っている。そこに関しては考察や推理の余地はない。


 リオンがついさっきまで籠っていたであろう自室まで辿り着いた時、レオンは部屋の陰になっている箇所に赤い水溜まりを発見した。間違いなく昨日と同じ症状が出ている。

 寝かせたところで走ってきたタレイアとファレルが抱えている医療系の治癒魔術師が到着。

 そのまま魔術師は体内の異常を視る魔法を行使し、時々違う魔法に切り替えながら首を捻り、頭を悩ませ、どことなく感じる違和感に唸りつつ数分間身体を診続けた。

 そして大した確証を掴めぬまま、最後に最大の謎である左腕に触れる。────すると魔術師は熱さではないなにかに驚き、レオンとタレイアにこう言った。


「失礼ながら、私はリオン様の義手……アガートラームについてよく知らない。お二方はなにか、この腕の特別な能力を知りませんか」


 聞かれたのは銀腕・アガートラームに宿る力についてだ。

 別名「ヌアザの聖腕(せいわん)」とも呼ばれるこの神造(デミウルギア)遺装(アーティファクト)は、二つの限定開花を有していると何度か紹介した。その中でも治癒に該当するのは医療神ディアン・ケヒトによって造られたという側面から「治癒神の祈り」の方だろう。

 致命傷でも治すその力は、例えば腕を皮膚を引き裂かれ命を終えようとする身体にも延命程度には作用するとんでもない大魔法だ。

 シキからの話を鑑みるに注入された毒薬の効力をも平気で斥けると言うのなら、体内に発生した異常なんて許すはずが────。


「そうか、アガートラームが原因か!」

「えっ? どういうこと? お姉ちゃんさっぱりだわ」

「銀の腕は限定開花が常に発動し、リオンの身体を守っている。でも今回はそれが逆に異常を起こしてしまった、ということだな?」

「は、はい。その通りです、レオン様……実は────」


 魔術師曰く、リオンは体内で精製される魔力が逆流を始めてしまったらしい。現在エルシオン・ファレルを蝕んでいるのと同様の症状だ。

 では魔力の逆流現象が体にとってどのような悪影響なのかを簡単に説明しよう。

 生命力で構成された人間の魔力は体内の不可視の状態で循環しており、あらゆる方向に分散しているのではなく()()()()だとされている。ところがその決められたルーチンが突如ひっくり返され逆に回り始めれば、本来と違う状態に身体が順応しきれず魔法が使えなくなるのだ。

 次に魔力は生命力という点で身体を蝕み始め、「疲れやすくなる」もしくは「風邪などといった病にかかりやすくなる」等の過程を経て身体機能が徐々に低下していく。

 最終的には衰弱が進み、自律神経が身体の異常を感知してようやく魔力の流れが戻るのだが……そうなると今度は逆流し始めた時と同じ現象が起きて死に至る。

 この現象の問題として挙げられるのが、病ではないこと──つまり、脳や免疫力には身体的異常と見なされない点だ。

 確かにおかしいし違和感なのは変わりない。なのに体は全く問題なしと断じて手遅れになるまでほったらかし、まさに悪循環といった様相じゃないか。

 じゃあ次に話に挙がるべきはリオンにはなにが起きたかについて。

 銀腕・アガートラームは神造遺装、人間の怠けた感知性能とは比べ物にならないしそもそも神の王の持ち物という時点で比較対象が間違っている。

 銀の腕はリオンが異変を捉えるより先に魔力の逆流現象という名のそれを察知した。

 そこでアガートラームが起こしたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんていったとんでもないごり押し療法だ。

 リオンの天才的とも言える魔法適応力が精製する膨大な魔力は流れに逆らいながら銀腕に集中。さすがに彼も違和感でその事実に気付いていただろうが、どうしようもないためこれまた馬鹿みたいな方法で発散を始めた。

 それが昨日の吐血の正体。銀弓操作と同じ要領で魔力を血液に逆転換し、大量でも吐き出すことで体外に放出した。

 要はアガートラームの機能を最大限に利用した無茶苦茶だ。

 ……と言うが、これはもうひとつの限定開花「神域(しんいき)の加護」を利用している。例の船酔い対策部屋にも同じ魔法が使われるのだが、神域の加護は普段リオンを守っている強化状態の他に()()()()()()()()()()()()()()()()。よって魔力発散か空間再構築か、どちらかしか行えないはずなのだ。

 無論、リオンは決して馬鹿ではない。

 死ぬよりは船酔いを我慢する方向で進めていただろう。部屋の片隅に隠された血飛沫の痕がなによりの証拠だ。

 だがしかし寝ている間はそう上手くはいかない。吐きすぎて血が不足した結果、貧血になったか、あるいは船酔いで気絶するように寝てしまったのかは知らないが、油断ならない彼が隙を作るならそれは睡眠時に限られる。

 神域の加護の定義付与は自律発動ではないため、彼が眠った段階で魔法が解けてしまう。そのせいで銀腕は再び魔力を溜め込み始め、ついにはオーバーヒート、発散しようにもリオンの方がアガートラームをコントロールできなくなってしまった。

 これらの大半は実際に見たり聞いたりしたわけではないため憶測の域は出ていない。

 だが魔術師は医者。体の内部魔力量を視るくらいは造作もなく、アガートラームが接続状態で体組織をトレースしている今なら中身を明かすのは造作もない。だから推測でありながら確信に近い答えを出せた。


「症状がエルシオン様と同様であるならば、残念ながら特効薬の類いを用意する方法は……」

「しかもアガートラームを停止させるにも腕を切り落とすしかない。だけど、そんなマネをすればあの森に立ち入るまでの日々が全て無駄になってしまう……なんて面倒な」


 ただ無断で腕を落としたとして、詰まりは解消されるのでその後一時的には快復するだろうが、近い将来同じことが起きるだけだ。

 その前にヴェルメリオ帝国と奇跡的な確率でも接触できれば、血清のようなものを手に入れるチャンスになるかもしれない。……ただあの赤き国の連中がそんなものを作っていた場合に限るが。


「如何しますか、お二方」

「引き返すなら今しかないわねぇ……」

「…………」


 一旦ヴァルプキス大陸に引き返し、今度は緑の国ヴェールの扉を開いてもらう。

 精霊を統べる力を備える女王アルメリアならこんな状態でも解決策を用意してくれるかもしれない。なにせリオンは彼女のお気に入りだ。

 もし完全快復に至らずとも、悪化だけを止めることができるなら効果は一時的で構わない。ヴェルメリオからこの異常な症状を治す手立てを奪うでも聞き出すでもとにかくなんでも講じる時間がほしい。

 それでもダメなら────とある手段に行き着くのだが、それは奨めたくない。


「──……この、まま……だ」


 悩み、頭を抱えたレオンの思考を醒ますようにその声は細く響いた。


「リオン……だけど、それはお前が……!!」

「進めば、連中は現れる……それが狙い、だからな」

「狙い────ふぅん? そういうコトか」

「まさか交渉か!?」

「そのまさか、だ」


 あちらは魔光の宝玉の在処を知るために、こちらは逆流現象を正常化するために──違いはあれどそれぞれの目的は互いの利益を得るにはちょうどよく天秤にかけられている。

 ヴェルメリオ帝国は領海外にいる内に必ず仕掛けてくるだろう。いや、仕掛けてこないはずがない。

 前回のアトランティカ大海進軍で護りに阻まれた反省を生かしていると言うとおかしいが、正式な取引をしてなら妨害されることも兵力を失うこともなくカエルレウム国内に出入りできるのだから、使わない手はない。

 ────だとしても、奴らの狙いは国の宝たる魔光の宝玉。

 たとえリオンの命がかかっていても、居場所を知らないレオンではエルシオンの言葉もなく分かったと二つ返事はできなかった。

 それに連中が約束を守るかどうかなど分からない。

 この場で最も効果のある決定権を有しているのはレオンだ。彼が決めればその場で決議は下される。

 永遠のような一瞬に思考を巡らせ、立ち尽くす彼を始め数人が在る無音の室内に突如ノック音が広がりそして、こちらからの返事も待たず扉は勢いよく開かれた。


「レオン様!! こちらに接近する(ふね)を一隻発見、ヴェルメリオ帝国の紋章を掲げております!」


 現れたのは敵艦の姿を写した硝子を抱えたファレルの護衛魔術師だった。

 旗に大きく印されている赤く忌々しい国の象徴は、その船が海賊などではなくヴェルメリオ帝国軍のものであることを裏付けている。

 話をすればなんとやらとは言うが、まさかこんなにも早く現れるとはおもわなんだ。


「早すぎるわねぇ……まるでこちらを視ているみたいに」

「やめてくれタレイア、洒落になってない」

「あら? 覗かれるのはキライだった? 私は好きよ、覗くのも覗かれるも」

「はぁ……」


 敵がどう仕掛けてくるか分からない以上、早いところ方針を固めなければならない。

 レオンは一呼吸置き、横たわったリオンの右手を強く握り締めるとまた深呼吸を繰り返し、一言告げた。


「リオン、お前はどうしたい?」

「どう……とは?」

「生き残るか、死ぬかだ」


 たったふたつの選択に詰め込んだ想いは重い。

 一人の人間の人生を歪めてしまうほど、変えてしまうほどに押し潰す。

 だがリオンとて今更この程度の選択に臆するほどの子供じゃない。むしろ、上等だと言ってやろう。


「……俺は、生きる。なにがあろうと、生きなければならない理由がある」

「………………そう、だったな」


 彼は──星になった()()が遺した命。それ故に、簡単に消えるわけにはいかぬのだ。


魔砲撃(まほうげき)部隊は全員配置に着け。帝国艦に突入し、奴らから薬を奪ってくる」

「なっ……!? 冗談は顔だけッ──!」


 薬を奪う? 交渉の余地を無くしてまで?

 本当に馬鹿になったのか……世迷い事かと頭がくらくらするリオンに対し、見守るタレイアたちやレオン本人はありえないほど自信に満ち溢れている。


「余裕があるなら魔術師数人をこちらに回せ、無闇な交戦よりは薬の入手を最優先にしろ。もしデュランダルの騎士と接触したら戦おうなんて思うな、俺に任せて全員撤退だ。分かったかッ!」

「ハッ!!」

「リオンはそこから動くんじゃないぞ。動いたら後でおしおきだ」

「なんだ、っそれは……ちょっと寒気がするだろうが」

「タレイアも協力してもらいたい。戦力が多いに越したことは……って、タレイア?」


 せっかく士気も高まってきてテンションも上がってきたのに、何故かタレイアは首をかしげああでもないこうでもないと呟いている。

 なにか悪いことを言ったつもりはない。

 というか彼女も通常戦力と比べれば一桁くらい違う強さがあるので、前線で戦ってほしいと言ったのはつまり信頼しているから言えている言葉なのだ。

 じゃあなにがダメだったのか?

 いや、ダメだったというより足りなかったが正確か。


「ウーン……頼み方がぁ」

「頼み方!? ……お願い、します?」

「そうじゃなーい! 私は!! タレイアだけど!! 違うでしょ!」

「あ? あ……あー、あぁ?!」


 思わず「あ」を四段活用してしまったが、なにを言われたいのかはなんとなくよく分かった。

 リオンの前だしあんまり口に出したくはないのだが……これを言わないと戦力がごっそり減ってしまうなら仕方がない。

 考えていても話は進みやしない、ならば──ええいままよ!!


「お願いします! タレイア──()()()()()ッ!」


 言った。言ってやった。言い切った。

 どうだ、これで満足か。満足と言ってくれ。


「────えぇ! えぇ! もちろん! 私にできることならなぁんでもしてあげるわぁ!」


 どうやらご満悦の様子だ。


「ぷっ……お姉ちゃん……っ」


 こっちはオーバーキルだ。

 本当は元気なんじゃないか、この愚弟。


「じゃあ早速始めましょうか。帝国の皆さんを、私達のダンスパーティに招待してあげましょう?」



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