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番外編 真っ白なドレスと誓いの指輪 5

式はなだれ込むように宴会になり、広場ではマアサ達が用意したバイキングのようなご馳走の並んだテーブルと、お祭りの時のように屋台とがズラリと並んだ。

皆、グラスとお皿を持って飲んで食べて笑って歌って楽しそうだ。

ステージから下りると、わっとみんなに囲まれ、また「おめでとう」コールをされた。

女の子がキラキラした憧れの目で見てくるのが照れ臭い。




キース師匠も今日はビシッと決まった服を着ている。

お酒のグラスをアルに渡して私にも小さなジュースのグラスをくれた。三人で乾杯してぐいっと仰ぐ。


「アルファ、キラちゃん、おめでとう!

ようやく二人が夫婦になって嬉しいけど、人妻になったらキラちゃんにうかつに触れられないしなあ。残念だよ」

「師匠、実験できる機会が減ってザンネンってだけでしょ!」

「まあ。これからも研究はさせてもらおうかなー。二人のベイビーにも興味あるし。

戦闘能力の高い子になるだろうなあ。精霊魔法も使えるのかな。

あ、もしかしたらまた精霊がやってきたりして! そしたらどうしようかな。風と水だから次はなんだろう。炎だったらすごいな。炎ならどんな姿形なんだろうね。風の精霊も水の精霊もすごく可愛いけど、他の精霊達にも会いたいよ。

ああ、考えただけでもゾクゾクする!

キラちゃん、やっぱり君がいれば、僕の探究心は尽きることなく燃え上がるよ」

「・・・」

「俺らの子に許可なく触れるなよ、キース」


コドモとか気が早い。普通にこんなこと言われたら殴りたくなるけど、結婚式とかだとこんな会話も普通なのってなんでだろう。

そして、精霊に関してはハンパない想像力。妄想力。変質者レベルだ。

さすがは師匠。




「アルファ王、キラ様、おめでとうございます」

ラビさんは今日はいつもよりちょっとレベルアップしたような神官服だ。ホント、この人だけじゃないけど、ゲームの中に出てきそうなキャラだなあ。


「キラさん、おめでとう!」

横から大志もひょっこり顔を出した。

「お。大志、よく似合ってるじゃん、それ」

大志は神官服を着ていた。

見習い期間が終わって、今日が初めてなんだろう。なんだか新しい学生服を来た中学一年生みたいに初々しくてカワイイ。

ぐりぐり頭を撫でてアルもからかってる。


「・・・キラ様。今宵はそのようなお美しい姿をしておられますので、淑女の嗜みを・・・」

ラビさんが静かにお説教を始める。

しまった。

いつもはラビさんの前でこんな砕けた話し方してなかった。

慌てて姿勢から立て直す。


「失礼しました」

急に慎ましやかになった私にラビさんはおやっと赤い目を開き、ふうと呆れたような顔をした。


「まったく、あなたは。さっきまでお転婆な女の子のようだったのに、急にどうやってそんな風に切り替えてるんですか?」

「あら。ラビさん。そんな大層なものじゃないわ。ただの猫かぶりですのよ」

ふふふ、と軽やかに笑ってやる。


「あなたには驚かされてばかりですね。

初めてアルファ王との手合わせを見せて頂いた時も驚きましたが。

まあ、私の前でもそんなに堅くならなくても結構ですよ。

正装して、大勢の方の前に出る時だけは気をつけた方が良いでしょうが」

「ホント? だったらそうするー! あー、疲れた!」


「せ、先生、僕も! 僕も、そのもうちょっとラフな喋りがいいんですけど・・」

すかさず大志が挙手して発言した。学校か。

それに対してラビさんはくわっと赤い目を光らせた。


「タイシ。何を言ってるんですか、あなたは。

あなたはこの神殿の、いえ私の後継者なのですよ。粗雑な物言いをしてあなたの品位を落とすことは私の名を貶めること。許しませんよ」

「は、はい! 失礼しました!」

ビシッと肩を震え上がらせて敬礼する大志。先生に叱られた生徒か。

あーあ。神官さんも大変なのねえ。


「適した職業につけてヨカッタじゃない。大志」説教は私はゴメンだけど。

「はは! ずいぶんイルトに気に入られてるな、タイシ」俺も説教は勘弁だな。

「うう、ヒトゴトだと思ってますよね、二人とも・・」

私達の心の声を聞き取ったように大志はうらやめしそうな顔をした。それがおかしくて大笑いしてしまった。つられて笑った大志がふっと表情を緩める。

「・・・本当に、よかったです。キラさん。ずっとずっとお幸せに」

大志が優しく微笑むから照れ臭くて、べしっとチョップしてやった。







宴会は終わることなく夜更けまで続いてる。

ドレスは疲れるからって、マアサが簡単なワンピースに着替えさせてくれた。

みんな、げらげら笑って、飲みまくり。


久しぶりに私もちょっとお酒を飲んで、ほろ酔いのいい気分でいっぱい笑っていっぱいおしゃべりした。


アルは私を離すことなく、手を繋いでるか肩か腰に手を回してるか、膝に乗ってるか抱きしめてるか・・なんかもうわけ分からなくなったけど、そんな状況だった。

やっぱりアルの体温はホッとする。

はしゃいでも、ぐでんぐでんに酔っ払っちゃってもきっとアルがいれば何とかしてくれるだろうなあって思えるし。

きっと私も、今日の雰囲気に飲まれてノロけちゃってるのかな。

もう楽しいからイイや。




気分良く甘い果実酒を飲んでいたら、アルの手に私のグラスを奪われた。

「おい、リン。これ以上飲むな」

「えー、いいじゃん。お祝いなんだし」

「だーめーだ。ホロ酔いのお前は可愛いが、それ以上飲むと寝てしまうだろう? 眠ってるお前を抱いてもちっとも面白くない」

「なっ」

「宴会は明け方まで延々と続く。花嫁と花婿は途中で抜けてもいいんだ。

もう部屋に戻るぞ。めいっぱい愛し合わなくちゃな」

「ええ!? なにそれ」

私が驚くより早く、アルの腕に抱き上げられる。


私達が出て行こうとするのに気づいたおっちゃんやおばさん達が「がんばれよー」「しっかりね」とか、満面の笑みで声を掛けてくるもんだからめちゃくちゃ恥ずかしかった。

だって、今からヤります!って皆にバレてんだよ。

どんな羞恥プレイだ。

皆の声援に応えてアルは手を振ってるし。

ああ、もういいや。恥ずかしがってんのも馬鹿らしくなってきたじゃん。


私はアルの首に手を回し、キスをしてやった。

「早く、シよ」

「・・・ああ」

アルは、これ以上ないってくらいにんまりと笑い、私を抱え直して走り出した。背後でピューピューひゅーひゅーと冷やかす声があっという間に遠ざかる。

揺れながら運ばれるのはジェットコースターみたいでおかしくて、私は笑いが止まらない。

ああ、なんて楽しいんだろう。

人生ってサイコー!








ちなみに。

この日から、この国での婚礼の儀にいくつかの習慣が加わったそうだ。

花嫁は白いドレス。対の指輪を嵌め合い、花を撒き散らす。お姫様抱っこで、キス。

メイドさん達がうっとりしながら私のことを話し、自分もいつかは・・なんてきゃっきゃと笑ってそう話すのを聞いて、私が羞恥に悶えたのは想像の通りだ。



これで完結です!

最後までお読み下さり、どうもありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ


明日は、『心の傷は目に見えなくても』の番外編を投稿します。

よろしければ、そちらもどうぞ!

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