第84話 転移者との謁見
レイスは、かつては立派な警察署だった瓦礫の山の上で、そこの責任者だった男の首根っこを掴んで地面に押し付けていた。
「ヒィィッ!すみません!ホントすみません!ごめんなさい!許してください!勘弁して!!殺さないで!」
身体中を傷だらけにした署長は、戦闘前の威厳はどこへやら、レイスの圧倒的な暴力に打ちのめされて意気消沈し、もはや命乞いをすることしかできなくなっていた。
「俺をここに連れて行くんだ!早く!」
レイス自身は、別に署長の命を奪うつもりはない。彼は、仲間の元に行くことで頭がいっぱいであった。
「む、無理だ!こんな街に王都まで行けるような乗り物なんてあるわけがない!」
「本当か!?嘘を言ってるんじゃないのか!?」
「嘘じゃない!頼むから許して!」
「、、、、、、クソッ!」
署長が嘘を言っている様子はない。警察署に来ればグレッグたちの元へ行くための移動手段が手に入るだろうというレイスのアテは外れてしまった。
「よし、なら質問を変える。ここに行くにはどうすればいい?」
「こ、この町から首都に向かうには、、、「竜王」様のところに行くしかない。」
「竜王?なんだソレ?」
レイスが聞きなれない言葉に疑問を浮かべていると、署長はさらに驚いた顔になる。
「ま、まさか、「竜王ファフニール」様のことも知らないのか!?そんなことまで知らないとは、、、「天魔王ルル・ルーン」様の側近だぞ!?」
(ルル・ルーン、、、)
レイスは、その名前に聞き覚えがあった。彼は念のため心の中でフレイヤに確認をする。
(フレイヤさん。そのルルってやつ、前に言っていた転移者で間違いないですか?)
(えぇ、間違いないわ。)
「よしお兄さん。取引をしよう。そいつのところまで連れて行って。」
「、、、は?」
署長は一瞬、レイスが何を言っているのかが分からなかった。
「だから、俺をそこまで案内してって言ってるの。」
「え、、、いや、、、え、、、?」
「今まで何人も人間殺してるっぽいし、本当ならこのままぶっ飛ばしてやるところだけど、俺をそのファフニールっていうやつのところまで案内して、今後二度と人間を虐殺しないし部下にもさせないって誓うんなら、命だけは助けてあげる。」
「あ、あの、、、」
「どうするの?やるの?やらないの?」
殺気があふれ出るレイスに凄まれて、署長はついに頭が真っ白になった。
「、、、、、、、、、やります。」
「よし、取引成立。」
一方同時刻、レイスからはるか離れた「大モンスター連合国」の王都にして転移者の一角ルル・ルーンの本拠地。そのさらに中心にある豪華絢爛な城の地下牢に、グレゴリー・グラッドストンとアーノルド・ベスティリオーネは捕らえられていた。
彼らは現在、両手を強力な魔力が込められた鎖で縛られ、天井に吊り下げられている。
「どうやら敵は相当な手練れのようです。まさか私とフレイヤ様の完璧な作戦を破壊させてくるとは、、、まさに敵ながらあっぱれというやつですね。」
大真面目な態度と口調で悔しそうにしているグレッグを見て、ノルがキレた。
「あのさぁ!「完璧」ってどのへんが!?あんな「何も考えず突撃します。」のどこが完璧な作戦なわけ!?」
「何を言ってるんです?相手の不意をつけるじゃないですか。」
「つけてないからここにいるんだろが!!このアホ神父!!」
「アホ!?この私をアホですって!?自慢じゃないが神学校ではテスト50位以下を取ったことが無いんですよこの私は!!」
「ホントに大して自慢できることじゃねーじゃん!!50位!?10位とかじゃなく!?」
拘束されているとはとても思えないほど、2人は賑やかに言い争う。
そんな2人の喧嘩を中断させたのは、彼らに近づいてくる足音、そして、その足音の主が発していると思われる凄まじい威圧感であった。
「なにか来る、、、!」
「だ、誰だ!?」
「駄目じゃないか。賊は賊同士仲良くしないと。」
そう言って階段を下りてきた人物の姿を見て、2人は驚いた。
「え、、、?子供、、、?」
2人の前に現れたのは、サーカスのピエロを思わせるような赤と黄色を基調にした派手なコートと帽子を身に着けた、青みがかった緑色の長い髪をした少年とも少女とも思える人間であった。
「失敬な奴だな。こんなナリだが年齢的にはそこまでお前たちと変わらないと思うが?」
「、、、スマン。」
「まぁいいや。別に怒ってるわけじゃない。さて、」
少年がパチンと指を鳴らすと彼のすぐ近くに高級そうな椅子が現れ、2人に向かい合うように腰掛ける。
「初めまして。俺の名前はルル・ルーン。以後よろしく。」
「え、、、?ルル・ルーンって、、、」
聞き覚えのある彼の名前を耳にした2人は目を見開いた。特にかつて政府に所属する神父だったグレッグは、聖典の中で何度も彼の名前を見ていた。
「まさかあなたが、、、転移者、、、?」
「その通り。サインほしいか?やらないけど。」
「え、、、?こ、こいつが、、、こいつがあの転移者?」
ノルは当然、転移者と会ったことなど無かったが、その偉大さや強さは、ソニックに仕えていた父親から何度も聞かされていた。
曰く、「神を遥かに超えた存在」、「宇宙すべての統治者」、「指先一つで世界が思うまま」。おとぎ話にしても大袈裟すぎる逸話。そんな存在が本当にいるとは、レイスに出会うまでノルは信じてはいなかった。
そんなおとぎ話のような存在が目の前にいる。それも、ノルの脳内にあったこの世のものとも思えない怪物のようなイメージとは全く異なる姿で。
ノルが目の前の人物を転移者だと認識できないのも無理のないことであった。
「い、いやいや!ハハハ、、、こんなちんちくりんが転移者なわけないだろ、、、嘘ついてるんじゃないのか?」
ノルがそう言った直後、彼は自分の喉に刃を突きつけられているのに気づいた。
「ヒッ!?」
(なんだ!?後ろにいる!?いつの間に!?)
「ルル様への暴言は断じて許されない。」
ノルが混乱している間にも、彼の背後をとった謎の人物は冷たい口調で少しずつノルの首に刃を入れていき、血が床に滴る。
(し、死ぬ、、、?)
「やめろベリアル。俺の楽しみを勝手に奪うな。あっちにいってろ。」
今にも首を貫かれそうになっているノルを救ったのは意外にもルル本人であった。
「ハッ」
ベリアルと呼ばれた人物は、ルルの命令を聞いて即座にノルの首から刃を抜き、牢屋から煙のように消え去った。
「ハァッ!ハァッ!」
背後の人物が消えたのを察したノルは、恐怖と助かった安堵から荒く息を吐く。横にいたグレッグも安心したようにため息を吐いた。
「すまんすまん。ベリアルは俺の悪口を言ってるヤツを見たら襲いかかってしまう困ったクセがあるんだ。それにしても、、、ふーん、、、」
ルルは顎に手を当てながら、狼狽している2人を舐めるように見る。
「お前たちみたいなのがあのタマを倒すとはねぇ、、、とてもそんな力があるようには見えないけどなぁ、、、狙いはもちろん俺たち転移者の首、、、そうだろ?」
ルルはそう言いながら得意そうな表情で自分の頭をコンコンと叩く。
「、、、それが分かっているのに、どうして我々の前に姿を現したのです?」」
グレッグの疑問を聞いた後、ルルはフゥッと息を吐いて昔を懐かしむように牢屋の天井を見た。
「力を得て、王になって、国もどんどんでっかくなって、、、そんな状態が長く続くとどうにも退屈でたまらなくなる。それこそ10年位前か、、、「ロディニア帝国」ができてすぐくらいの頃はよく俺たちに挑みに来るやつがいたもんだ。」
すっかり過去回想のモードに入ったルルは、そのまま自身の「輝かしい過去」を語りはじめる。
「正義のため」とか「国のため」とかどうたらこうたら、、、そのたびに、城をトラップだらけにして一人ずつ始末していったり、あえて俺の元までたどり着けるように誘導して、力の差を見せつけてから倒したり、軍隊を相手にした時なんかは、勢いあまってつい宇宙ごと消滅させたこともあったっけな。」
あまりにも誇らしげに凄惨な過去を披露するルルにグレッグは絶句する。
ルルの見た目は明らかに人間なのに、人間とは全く違う未知の生物と対話をしているような感覚をグレッグは覚えた。
「けど最近はそんなのもめっきり減った。たまにあったとしても大抵それぞれの地域の治安維持部隊で対処できてしまう。でも、せっかく俺を殺そうとしていたのに、俺のことを一目見ることもできず死んでしまうなんてかわいそうだろ?だから、そういうやつが現れた時は、俺のところに連れて来させるようにしているんだ。俺は優しいからな。だから安心しろ、今離れたところにいるお前たちの仲間も、殺さずにここに連れてきてやるよ。瀕死にはなってるかもしれないけどな。」
一通り喋りたいことを喋り終えたルルは立ち上がって彼らに背を向け出ていこうとする。
「そうだ、念のために言っておくけど、仲間が助けに来るなんて奇跡は期待しないほうがいい。お前の仲間が落ちた場所は俺の側近ファフニールの管轄区。単純な戦闘能力なら俺の部下の中でも一二を争う男だ。おまけにそいつの元にはさらに俺の側近を三人向かわしている。万に一つも勝てはしない。ハッハッハッ。」
ルルはそう言い残して牢屋から去っていった。
牢に残されたグレッグとノル、そしてルルにバレないようにグレッグの中で息をひそめていたパナ。三人の間には、お通夜のような空気が漂っていた。
「、、、神父さんさぁ。」
「えぇ、言いたいことは分かっていますが我々にはどうすることもできません。せめて冥福を祈りましょう。」
(うん、、、そうだね、、、)
しばしの黙とうからの沈黙。
その沈黙を最初に破ったのはまたしてもノルだった。
「本当に気の毒だな。その「ファフニール」とかいうやつとその他。つーかあのルルってやつアホだろ。」
「そんなことを言っているとまた首を刺されますよ、、、まぁ、同感ですが。」
(本当に何考えてるんだろうね?猛獣にお肉を放り込むようなものとしか思えないけど、、、)
彼らは、レイスとフレイヤが敗北するなど欠片も思ってはいない。むしろ彼らに倒されることになるルルの側近たちを哀れに思う気持ちでいっぱいだった。
「「「心からご冥福をお祈りします。」」」
読んでくださりありがとうございます。




