選ばれるために
久しぶりの戦闘回です!
レイシオン学園は巨大な私有地、学園都市を抱えている。
正門から校舎にかけては果てし無く長い大通りがあり、その通りを中心としているのが居住エリア。
様々な店が立ち並び、生徒と商人たちが賑わう。
大通りから少し逸れると生徒が住まう幾多もの学生寮が。
一学年は一つの寮にまとめられるが、二学年からは専門科目や希望の進路によって寮が変更可能になる。
学園都市の中心に鎮座するはレイシオン学園の校舎。
これまた居住エリアに負けず劣らずの広大な敷地を使って、大講堂、数々の闘技場、各学部学科の専門棟などなど、生徒にとって十分なほどの学びの場が用意されている。
そして、校舎から先の森林エリアはレイシオン学園の半分の敷地面積を所有する。
校舎側はよく訪れる者も多いので、管理されている。しかし、森の奥は植物、生き物たちが自由に暮らしていて、人の手が入っていない。そのためある程度の危険もつきまとう。
森林エリア以外にも、居住区など自然に触れる場所はあるが、所詮は造られた自然だ。
現在、ルティ達は校舎と森林エリアの間の中庭にいた。
いや、正確に言えば、中庭にある小さな闘技場だろう。
レイシオン学園には訓練、実戦用と様々な用途に合わせた競技場が大小それぞれ点在しており、ルティとレアンはその内の一つを使って、戦うことになったのだ。
「勝利条件は、相手が戦闘不能にした側の勝ちとする。使っていいのは魔法のみ。両者準備はいいか?」
「大丈夫です」
「準備万端であります」
ルティとレアンはお互いに向かい合い、開始の合図を待つ。
ジョシュを含め、他の生徒たちは戦闘フィールド外の安全な場所で二人を見つめていた。
空は晴天。太陽は暖かな光を放ち、心地よいそよ風が吹いている。
しかし、そんなのどかな時間は一瞬にして破れ去る。
「始めっ!」
風は強く、激しいものへと形を変える。
緑色の光がルティの周りにいくつか現れ、風が暴れ狂う。
ルティの無詠唱の風魔法が発動された。
「いきなりでありますかっ!?」
先手必勝なのだろう。
魔法を使用するためには通常は詠唱しなければならない。その言葉を発する分、僅かではあるが時間が生まれる。
しかし、ルティは違う。無詠唱魔法が使える。
相手の魔法が分からない。手の内を知らない。だから、リスクにもなる。
そのリスクを理解した上でルティはこの方法を取った。
形成を崩し、相手が詠唱できる余裕を与えないように、攻撃できないように、畳み掛ける。
レアンはされるがままにルティの暴風に吹き飛ばされ、砂埃の中に消える。
そのままルティは自身の風に乗り、レアンに急接近、そして詠う。
「鋭く、疾く、まるで風の刃のよう。でも、それは闇雲なステップ。もっと美しい剣舞をーーー風の切っ先」
風がいくつものブーメランのように形を成し、レアンに襲いかかろうとする。
トドメのつもりだった。
だが、その攻撃はレアンが消えていった砂埃にすら届くことはない。
一筋の風がルティの風魔法を分散させる。見事に的を射た。
「扇を射る風、矢の如く。この矢はずさせたまふな」
危険だ。
ルティの本能が警告した。
すぐにルティはレアンに向かっていた風に身を預けるのをやめ、軌道から逸れる。
その直後だ。
「ーーー矢風」
先ほどまでルティがいた場所に何十もの矢の風が放たれた。
「あっぶな…!」
間一髪のところを逃れて胸をなでおろす。
しかし、まだ油断はできない。
「残念だったでありますね、ルティ殿。でも、最初の一手、無詠唱魔法は驚いたであります」
「驚いたくせに、何でその後、魔法使えたのさ?」
「あれくらいの風は、ぼくにとって何でもないであります」
「化け物かよっ!」
また襲ってくる矢を避けながら、ルティは軽口を叩く。
「確かに…化け物と言われても仕方がないであります」
レアンの周りにある魔法陣は残り数個。
もう、矢は数本しかこないだろう。
最初に大きな魔法を使ってしまったため、ルティに残された魔力は残りわずか。
残りは攻撃に使うしかない。
多少、リスクを受ける覚悟でルティはレアンに接近する。
一本、二本。迫り来る矢を身体能力でぎりぎりに避ける。
「夜風に桜ちらちら舞い落ちる。其の幹の下、眠る、こは、誰そ?ーーー夜半の嵐」
矢を構成していた魔法陣の前に重なるようにして、別の魔法陣ができる。
「早いっ!」
残り数本の矢が全て放たれる。その上、先ほどの新しい魔法陣の影響か、加速している。
「このままじゃ……!」
無意識的にルティは手を腰に伸ばしていた。いつもならそこにある剣をとって、この状況を打破していただろう。
だが、剣はない。
「くっ!」
暖かい風と鋭い風が横切り、ルティの腕や頰を切りつける。
風のほのかな甘い匂いと同時に血の匂いが混ざる。
下手に逃げるより、最小限の痛みになるようにわざとルティは矢を受けることにした。
大丈夫。まだいける。
傷口は痛むが、ルティはレアンに突き進む。
今、レアンには魔法陣もない。
距離はもう目の前、詠唱しようにもルティの無詠唱魔法の方が早い。
「僕の勝ちだね、レアン」
ニヤリとルティは笑みを浮かべる。
だけど、レアンの返事は予想とは異なるものだった。
「それはこちらの台詞であります、ルティ殿」
「え?」
その時だ。
強烈な眠気がルティを襲いかかり、まどろみの中へと誘ってきた。
急激に意識が遠のく。
「夜半の嵐は、ただの補助魔法だと思ったでありますか?」
ルティはどうにか倒れそうになる体を足で支える。
レアンは矢風の魔法陣と重ね合わせ、より早い攻撃に仕上げていた。
でも、それは違ったのであろうか?
「答えは否、であります。夜半の嵐は、人を惑わす類の魔法であります。甘い香り、と言えば分かるでありますか?」
身に覚えは、あった。
矢風と一緒に暖かい風を受け止めた時、甘い香りがした。
気づかなかった。矢風は意識をそらすため、同時並行で使ったのだろう。
「数時間は夢の中であります。それでは、お休みなさい、ルティ殿」
レアンが耳元で囁いた。普段は何も感じなかったレアンの声は子守唄のようで。
そして、ルティの意識が途切れ、レアンにもたれかかるように倒れた。
「勝者、レアン。よって、魔術技芸代表者はレアンとする!」
ジョシュの声が響き渡った。
その日、魔術技芸代表者はダチュラ・ランプスキーと、レアンであることが正式に決まった。
ご精読ありがとうございました!
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