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教師の憂鬱

今回、後半は教師視点です!


 

「魔力をどうやって増やすかだぁ!?」


 武芸の授業後、ロイドはダレンに魔力量について相談した。

 しかし、ダレンは乗り気ではない。


「お前さあ、俺が武芸の担当教師って分かって言ってんのか?魔術技芸の教師らに聞けよ」

「もちろん最初はそうしましたよ。でも、下級クラスの女教師、俺のこと怖がっててろくに話せなかったんですよ」

「ぶっ!お前も俺みたいにいつも笑っていれば、そんな扱いされずに済むのになぁ〜」


 腹を抱えて大笑いするダレンに若干怒りを覚えながら、ロイドはもう一度お願いする。


「とにかく!俺はダレン先生しか頼める大人がいないから俺に魔力量の増やし方を教えてください!」

「うーん、まあ仕方がないな。しかし、魔力量か。ロクサームもそれで悩んでたっけな……」

「父さんもですか……?」


 ロクサーム・クロス。ロイドの父であり、かつてダレンとレイシオン学園で学んだ旧友。

 自分の父と同じことをすればいいのではないか?

 そういう思いがロイドの中を駆け巡った。


「父さんはどうやって解決してたんですか!?」

 一緒にいたダレンなら知っているはずだろう。

 しかし、ダレンの返答はロイドの期待するものではなかった。


「だめだ。そう簡単に答えを教えるわけねーだろ。俺は教師だ。ロイド、お前はお前自身の力で強くなれ」


 指摘されて、ロイドは黙る。

 確かに答えをすぐに求めるのはだめだ。


「とは言っても、魔力量を上げる方法だけなら教えてやるよ。個人差はあるけどな」

「あっ、ありがとうございます!」

「んじゃ、はい、これ」


 そう言ってダレンはロイドにあるものを渡した。


「目隠しですか…?」

「ただの目隠しじゃねーぞ。とりあえず一旦つけてみろ」


 つけると見えなくなっただけでなく、音も何も聞こえなくなった。


「なんだこれ?」


 トンと後ろから肩を叩かれ、振り返り、目隠しを外す。


「どうだ、面白いだろ」

「面白いというか……。これは何のために?」

「魔力を使って他者の魔力を感じ取るためだ」


 基本、人は他者の存在を確認するのに聴覚や視覚といった情報を必要とする。

 だけど、それ以外にも存在を認知する方法がある。

 魔力だ。

 魔力は具現化していなくても、生命は無意識のうちに体内から放っている。


「相手の姿を見るためには視力を、相手の声を聞くためには聴力を、相手の魔力を感じるためには魔力を……」

「なるほど」

「何度も意識してやっていくうちに魔力が必要だと体が覚えて、自然と魔力量を増やすようになるんだ」


 魔力量が増える。その可能性があるだけ十分だった。

 ルティのようになるまで先は長いが、これでスタートラインに立てる。


「生命であるから植物とかでも大丈夫。近くの自然があるところでならいつでも修行できる。時間がかかるものだから、暇な時に少しずつやってくんだな」


 そう言って、ダレンは立ち去ろうとする。

 特にこれ以上教えることはないのだろう。


「あのっ!ダレン先生!」


 しかし、ロイドは呼び止めた。

 魔力量とは関係無しに聞きたいことがあった。


「父さんは学生時代どんな人だったんですか?」


 小さい頃の時しかロイドは父親にあっていない。正直断片的な記憶が残っているだけで、曖昧な存在だ。

 憧れであるはずなのに、ロイドは父親の事をよく知らない。


 ダレンはロイドの父を知る数少ない人物だ。

 だから、知りたかった。父親がどういう人物だったのか。


「学生時代のロクサームのことか……」


 ロイドが知るロクサームは無口で、剣の腕前が強くかっこいい父親だった。

 学生の時も孤高で頼り甲斐のある人だったのだろうか。


「ロクサームはいつも女に振り回されていて、言いたい事も素直に言えない情けない奴だった」


 ダレンが口にするのはロイドが知る憧れの父親ではなかった。


「そんなんだから、大切なもんはいつも他の奴らに持ってかれちまってたんだ」


 それは不器用なただの少年。


「でも、あいつは自分の信念を通すかっこいい奴だった」


 あの頃に思いを馳せ、ダレンは遠くを見つめる。


「ロイド、お前はロクサームに驚くほどそっくりだ。だから…だからこそ、大切なもんは誰にも渡すんじゃねーぞ」


 結局、また父親について詳しく聞くことができなかった。

 けど、何故かダレンの言葉がひどくロイドの胸に突き刺さる。

「俺の大切なものは……」

 ロイドはまだその答えを見つけ出せずにいた。













 レイシオン学園、職員室。

 基本席の配置は担当学年ごとに分けられている。


「いつも授業中、すごい形相で睨んでくる生徒がいるんですよ〜!」


 第一学年の席で、新任教師の女性が涙目になりながら先輩教師である男性に相談をしていた。

 新任教師の彼女は魔術技芸下級クラスを担当している。

 貴族がいる上級クラスとは違い、平民中心の下級クラスは高度なレベルの授業も求められず控えめな生徒が多いため新任教師が基本任される。


 しかし、今年は問題児がいた。


「ロイド・クロス君って子なんですけど、言った通りに魔法を使ってくれないし、授業後ももう一回教えろとか言っていちゃもんつけてくるから本当に怖いんですよ!!」

 思い出してなのか、また目に涙を浮かべる。

「ああ、ロイド・クロスか……。たしかそのクラスにはアレクシア家ご子息の従者もいたよな?」


 相談を受けていた眼鏡が特徴的な男教師は女教師と同じ魔術技芸を教えていて、上級クラスを担当している。


「リアンちゃんですか?でも、なんであんな風にしているんですかね?」

「俺にも分からない。貴族の考えていることは理解できない」

「えー、ひどいですよー!私も貴族出身ですよ!」

「なら、お前の方が分かるんじゃないのか?」


 レイシオン学園の教師は貴族、平民出身と様々だ。そのため階級差で教師間でも衝突がある。しかし、新任教師として今年配属された女教師は元レイシオン学園の生徒。その上、身分に対して穏健派である貴族だったため比較的他の教師とも上手くやっていた。


「先生が羨ましいです!だって魔術の名家ランプスキー家の生徒もいるし、あのユーロン様を教えることができるなんて!!」


 魔術を使う者誰でも憧れる名家や、次期王の右腕になるであろう者、魔術だけに関わらず優秀な生徒が今年は多い。


「そうとは限らない。セレナ・レインがいるせいで、いつ問題が起きるか気になってしょうがない」


 しかし、同時に大きな問題を抱えた生徒も。

 セレナの命を狙う者がまた現れるかもしれないし、彼女が他の貴族と衝突すれば大きな問題にもなる。


「入学式の時、殺されていればこんなに悩まされずに済んだのに!」

「あー確かにそれは大変そうですね。そういえば、入学式のルーティミリアン君、かっこよかったですよね!!」


 女教師はときめいた顔でルティの名を呼ぶ。

 教師とはいえ、この前レイシオン学園を卒業し、働き始めたばかり。まだ彼女は若く、学生の名残がある。


「生徒と先生の禁断の恋……!ルーティミリアン君となら私も危険な恋をしたいかも〜!」

「この前はフィニス皇子のことを言ってなかったか?」

「も〜、それは私がまだ学生の時の話ですよ!王子様との恋はもう流石に卒業です!これからは大人の恋をします!」

「卒業も何も妄想だけで終わってただろ」

「先生の意地悪!だって昔、現王様が平民の女の子と愛し合っていた事実があるんだから、私だって憧れちゃいますよー!」

「ノリが学生時代に戻り始めてるぞ。あと、その話題は禁句だ」


 現王フィニグランが学生時代に平民出身の女子生徒に恋に落ちていたのは事実だ。しかし、既に婚約者がいたため大きな問題に繋がった。

 一応は解決したものの、学校側にとって消したい過去となっている。


「分かってますよー。だから、私は皇族との禁断の恋ではなく、生徒との禁断の恋をするんです!ていうか、なんで私の恋路を邪魔するんですかー!?」

「は?邪魔?」

「そうですよ!だって本来ルーティミリアン君は魔術技芸下級クラスで私が教えていたはずなのに!上級クラスに引き抜くならルーティミリアン君ではなくロイド君にして欲しかったです!」


 そう、ルティは魔術技芸下級クラスを受けるはずだった。しかし、上級クラスに移動となったため、現在は男性教師が教えている。


「文句は俺に言うな。言うならそこで寝ているダレンに言ってくれ」

「んおっ?今、呼んだか、ジョシュ?」

「ああ、呼んだ。それと、呼び捨てにするな一応お前の先輩だぞ」


 ダレンに呼び捨てにされ男性教師、ジョシュは目を細める。


「堅物だな〜ジョシュ先生は!俺が学生の頃はまだ先生なりたてであんなに初々しかったのに!」

「えー!そうだったんですか!?」

「ややこしくなるからお前は黙っとけ」

「お前って失礼じゃないですかジョシュ先生〜。サラってちゃんとした名前があるのに。ね〜サラちゃん」

「はい!ダレン先生!」


 これ以上放置していたらどんどん話が脱線していきそうだったので、ジョシュは軌道修正する。


「おい、サラ、ダレンに文句があるんだろ?さっさと済ませろ」

「あっ!そうです!ダレン先生!何で私の恋路を邪魔するんですか!?」

「なんで、ルーティミリアンを魔術技芸上級クラスに移動したのか聞きたいそうだ」

 ジョシュはサラの質問を訳し、ダレンに問う。


「ああ〜ルティのことか。いや、たぶん下級クラスだとサラちゃんが教えるのに限界があると思ったんだよ」

「確かにそうだな」

「分かるだろ?ジョシュ先生」


 ジョシュにとってもあのタイプの生徒は初めてだった。

 ダレンの言う通り、()()ジョシュが教えた方がマシだ。


「え?すごい魔術ができるんですかー?」

「いや、そうじゃない。確かに魔術は上手い方だが、クラス内では下の方だ」


 ジョシュが指定した魔法をルティは使いこなせてはいなかった。

 現段階では新入生には下級クラスであれ、上級クラスであれ、基礎的な魔法を知識を教えなければならない。


 成績はそれができているかどうかで決まる。

 ルティは他の生徒と比べたら知識面では勉学に励み優秀だが、技術面になると問題が起きる。


「ルーティミリアンは剣と魔術を同時に使うことを前提に動いてしまっている。けど、まだ一年生の授業はそれぞれ別として学ばなければならない。そうじゃないと評価されない」


 基礎を築いて初めて専門的に学んだり、同時並行で複数の学問を極めることができる。

 それは二年生になってからの話し。


 二つ使いこなせるなら一つずつでも普通なら上手くできるはずだ。だけど、ルティは違う。


「大抵は武芸、魔術技芸、魔術工芸の三つそれぞれが基礎となる。だが、ルーティミリアンは剣と魔術の二つが一つの基礎となってる」

「えーと、みんなは武芸、魔術技芸、魔術工芸から始まるのに、ルーティミリアン君は武芸と魔術技芸が一緒になって始まるってことですか?」

「そう言うことだ。だから、片方だけを意識してやるとズレが生じる」


 これも多様性として受け入れなければならないのだが、残念なことにレイシオン学園ではまだその柔軟性がない。


「そこまで分かってくれたんなら十分すよ、ジョシュ先生」

「しかし、本当に勿体無い。ルーティミリアンは才能がある。けど、それが評価されない。できない」

 そんな差に歯痒さを感じる。


「ジョシュ先生は、新入生闘技祭どうする?」

 ダレン、ジョシュ共に二人は上級クラスを担当している。そのため新入生闘技祭では推薦者を選ばなくてはいけない。


「まだ考えている」

「えっ!?ルーティミリアン君を推薦しないんですか!?私、応援したいのに!」

「一人は決めている。残りの一枠にルーティミリアンが相応しいかどうかはこれからだ。彼は飲み込みが早い。けど、魔術のみを見た場合、他にも候補がいる」


 そう、今年は一年生の段階で優秀な生徒が多い。

 生徒会や、他学問の教師が誰を選ぶかはまだ分からない。しかし、選ぶのに一苦労するだろう。


「セレナ・レイン、ユーロン・アレクシア……。この二人は確定だろう。そして、これから他の候補者が……」


 そこでふと気づく。亡国の姫、誇り高きアレクシア家の子息。この二人がいるだけでも、政治的にも問題が起こりそうなのに、ジョシュが思いつく他の候補者もなかなかの個性派ぞろい。

 個それぞれは基本問題ないが、闘技祭で戦うとなった場合、家柄や性格的な面で何か起きるかもしれない。


「ダレン、お前は今年の新入生闘技祭どうなると思う?」


 ジョシュはのんびりとご飯を食べ始めたダレンに話をふる。

 呑気そうにご飯を食べるダレンはそのまま気の抜けた口調で自分の予想を口にする。


「今年の新入生闘技祭?無事に終わるわけないですね。だって今年の新入生はある意味変人ばかりじゃないですか〜」


 教師陣にとって今年の新入生は優秀だ。だがそれは問題を起こす起こさないとは別問題。


 大小規模はどうであれ、彼らが何かをしでかすのは間違いないだろう。


 起立規則を重んじるジョシュは、規格外のことをするであろう新入生達を思い出し、ため息をついた。




ご精読ありがとうございました!

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