同じ空に手を伸ばす君と
ブックマークありがとうございます!
少しでも早く、ルティとロイドの成長をお見せできるよう精進していきます!
バタンとドアを閉めるや否や、ロイドは倒れこむようにベッドに突っ伏した。
柔らかいクッションが優しく受けとめ、ロイドの疲れ切った心を癒す。
「大丈夫でありますか、ロイド殿?」
話しかけて来たのはルームメイトのレアン。彼は先に帰っていたらしく、心配そうにロイドに声をかける。
「レアンか。大丈夫………ではないな」
「どうしたでありますか?いったい夜遅くまでルティ殿と何をやっていたんでありますか」
日が暮れ、夜空に浮かぶ月は暗闇の世界を優しく照らしている。
ロイドが帰宅した時にはすでに食堂の時間も過ぎ、健全な学生であるならば、そろそろ就寝時間でもある。
「いや、結局、ルティとは魔術工芸の授業後から会ってない……」
「なんと!それは驚きであります!てっきり、またルティ殿の金魚の糞としてくっついて回っていたのだと思っていたであります」
「ほんとお前ら、俺のことなんだと思ってんだ」
「それにしても、ルティ殿もいないのにどうしたんでありますか?」
いつもルティと一緒にいるイメージを持っていたため、レアンはロイドが一人で何をしていたのかより一層わからなかった。
「レアン、魔術技芸の授業、ルティはどうだった?」
「どう、だったとは…?まあ、他の生徒にも負けず劣らず、授業についてきてたでありますよ。実戦が始まったらまた変わってくるとは思うでありますが」
「そう……か」
仰向けになって、ロイドは自分の手を天井へと伸ばす。
一度深呼吸し、伸ばしていた手に力を入れる。
何かを求めるように、何かを掴もうとするように見えるその手は、結局空気を握るだけ。
「俺、魔法使えなかった」
絞り出すような震えた声でロイドは呟いた。
「魔力性質も確認できなかったのでありますか?」
「ああ。周りはできたのに俺だけできなかった。授業の後も何度も試した。けど、できなかった」
だからこんなに遅くなったのか。
レアンは納得したのと同時に言葉を失う。
かける言葉が見つからない。レアンは魔法の才があったから、使えないという理由で悩んだことがない。
励ましたところでロイドを傷つけるだけになってしまうだろう。
「生命には必ず魔力を兼ね備えているんだったっけな…。じゃあ、魔法すら、魔力性質すら確認できない俺はなんなんだ」
「ロイド殿はちゃんとした人であります。誰しも魔力を持ってるのは本当でありますよ」
レアンは言う。ロイドにだって魔力があると。
「じゃあ、なんで魔力性質も分からなかったんだ?」
「実体化できるほどロイド殿は魔力を……」
「もってないのか」
誰しも魔力がある。だけど、その魔力量は個人差がある。
ロイドの魔力量は最低限すら超えていなかっただけということ。
「俺は魔法が使えないのかよ」
「そうとは限らないであります」
「慰めの言葉ならいらねーぞ」
「そうじゃないであります」
レアンは言う。
魔力は増やすこともできる、と。
「確かに魔法を使うのには元からの才能が大きく影響するであります。でも、才能だけが必要というわけではないであります」
遺伝、才能確かに魔力量を左右する。しかし、後天的に魔力が高まる者もいれば、鍛錬してできる者もいる。
「可能性はゼロではないであります。ロイド殿は他の者と比べて道が険しいだけであります」
「ゼロではない……か。ありがとう、レアン。やってやるさ」
そうしてロイドは拳をレアンに突き出す。
「なんでありますか?これは……」
「友情の証だ。互いの拳を軽くぶつけるんだ」
「ふっ、変な儀式でありますな。……でも、悪くないであります」
照れ笑いをしてレアンは拳をぶつけた。
今日は結局、授業後にロイドとは合わなかった。
ルティはベッドに横たわり一日を振り返る。
寂しさも少しはあったが、それ以上に新しい交友関係ができたことは素直に嬉しかった。
ロイドには申し訳ないが、ロイドといなかったおかげで今日は多くの生徒に話しかけられた。
ロイドは見た目は恐ろしいから、彼のことをよく知らない者たちにとってただの不良にしか見えないのだろう。
それに新しい知識も増えた。
『我が身は自由な鳥の羽。風に揺られ、空を旅する。優雅に、速く、我が名はーーーー鳥の羽ばたき』
ルティは詠う。空を旋回するイメージをする。
緑色の光が全身を包む。それはまるで優しい聖母の息吹のようで、そっとルティを持ち上げる。
起き上がった体は、いや、宙に浮いた体は背中に羽が生えたかのように重力を逆らう。
「やっぱり相手に攻撃だけじゃなくて、自分にも使えるんだ…」
魔法はイメージである。
魔術技芸で聞いた情報を思い出す。でも、複雑になればなるほどイメージは曖昧で危ういものとなる。
それを補うのが術式であり、詠唱だ。
思い描くイメージを魔力を込めた言葉で、言霊で具現化する。
魔力は奇跡を形にする。
ルティが記憶に残っている中で、初めて魔法に触れたのはシャルーナの医療魔術だった。
彼女は言った。自分のイメージと言葉と魔力がたまたま合っていただけだと。
次に魔術が他に影響を与えるものと知ったのはシャルーナの医療室にある魔術書だった。
それから森で木の葉を浮き立たせては遊ぶようになった。
大きな変化はフレア教との一件。境地に立たされた時、思い浮かんだイメージは明瞭で、気づいたら詠っていた。
自然とイメージが言葉にできるようになっていた。
イメージが強ければ強いほど言霊に魔力が篭る。
より複雑で、強力な魔術ができる。
そして、今日、ルティは初めて魔術を教えてもらった。
魔術は魔力をイメージに変えるだけ。媒体は言葉。
他に影響を与えるだけでない。イメージだ。イメージさえすれば、自己にも影響が与えることができる。
ルティの想像力が広がる。
空砲のように一直線に噴射するのではない。飛ぶこともできる。
部屋の中にいるのも惜しくなり、ルティは窓から夜空に飛び込んだ。
まあるい月が下界を照らし、いくつもの色の星々は宝石のごとく美しくきらめく。
冷んやりとした風では止められないほど、高揚感でルティの胸が高鳴る。
満天に輝く星々は手を伸ばせば掴めそう。
「確か、ロイドはあの部屋だっけ?」
今日はあまり一緒にいなかったから、会いたくなった。
彼がこれを見たら大慌てするだろうか?
いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、ルティはロイドがいる部屋を目指して飛ぶ。
「ロイドー!!」
いた。
目つきの悪い。けど、人情深い、不器用で、優しい彼が。
「ルティ!!!!?」
最初は何が起こったのか理解できずキョトンとしていたが、声がした方、窓を見て気づいた。
ああ、驚いている。驚いている。
目を大きく開け、口をぽかーんとした間抜けな顔を見て満足する。
そのままルティは窓に近づく。
「何やってんだおまえは!?」
「へへっ!すごいでしょ!」
そうして、窓から部屋に入ろうとするが、
「あれっ……?」
くらっと強い眠気がルティを襲った。
魔力切れ。
全身の力が抜け、意識が落ちる。
それは魔術を使えなくなることを意味しているわけで、
「こんのっ!」
部屋に届かず下に落ちていくルティを、ロイドは窓から飛び出し抱きかかえ、一緒に落ちていった。
「ロイド殿!ルティ殿!」
その突然の出来事をロイドと同じ部屋から見ていたレアンは、急いで窓に駆け込む。
だが、すでに彼らは下の雑木林に消えていって、どさっと地面に落ちた音だけが響き渡った。
その後、起きていた寮監と複数の学徒たちが捜索をし、ルティ達を見つけた。
怪我はなかった。草木が受け止め、クッションとなった。
ただその時、もうすでに彼らは眠りに落ち、微笑ましいくらい健やかな寝息をたて、一緒に寝ていた。
……すぐに起こされ、こってり怒られたのは言うまでもない。
ご精読ありがとうございました!




