初対面は大人しく?それとも明るく?
魔術技芸の授業が下級クラスと上級クラスに別れたロイドとルティ!
一体どうなる!?
「ねえ、あの人って……」
「ルティ君と一緒じゃないんだね」
「しっ!静かにしなよ!こっち睨んでくる……」
周りの声がうるさい。
前へ進もうとすると、勝手に人々は避け、道が開く。
いや、そもそも入学式以降から勝手に人には避けられていた。
でも、あの時は何とも思わなかった。こんなに周りを気にしてイライラするのは今だけだ。
何故だ?
「くそっ。何でルティとクラスが違うんだよ…!」
答えは簡単。相棒がいないから。
ロイドは一人、魔術技芸の教室へと移動する。
本来ならルティも一緒に行動するはずだった。
しかし、彼女は急遽下級クラスから上級クラスへと変更された。
だから、今隣りに彼女はいない。
イライラが募り少々手荒に椅子を引き席に座る。
周りのひそひそ声が気になって仕方がない。
そして、ふとロイドは気づく。
ルティと出会ってから今までずっと一緒に行動していたということを。
特にレイシオン学園に来てからは就寝以外ほとんど時間を共にしてた。
だけど、ルティは魔術技芸だけではあるが一足先に次のステージへと行ってしまった。
二人三脚でお互い歩んでいたのに、急に置いてけぼりにされたような感覚だった。
正直に言うと寂しい。
たった一つ授業が違うだけなのに、こんな気持ちが沈むとは思わなかった。
ガラッ。
椅子を引く音がした。誰かがロイドの隣りに座る。
顔を上げると、男子生徒が一人。
「あ、よろしく」
ロイドの強面の顔に怖がって誰も近づかないと思っていたから、不意の接近に驚く。
嬉しさと困惑が入り混じり、声をかけるがぶっきらぼうになってしまった。
男子生徒はロイドに少し会釈をし、教壇に目を向ける。
身長はロイドほどではないが、他の同学年と比べ高い方であった。
マッシュの黒髪と細め一重の黒目。ここらではなかなか見ない異国情緒溢れる顔をしていた。
珍しい顔。だからこそロイドは彼を知り合いと重ねてしまった。
「……レアン?」
身長、体格は違うが、顔立ちなど所々がレアンに似ていた。
いや、東の大陸の者たちは、皆同じような顔をしているだけなのだろうか?
男子生徒はロイドを見て、顔を横に振る。
「すまん、違ったか。いや、知り合いに似ていたからつい」
ロイドの言葉を聞いて男子生徒は開いていた魔道書をめくり、最後のところで手を止める。
ある一点を指差してロイドに見せる。
「リアン?じゃあ、レアンの兄弟とかなのか?」
そこに書いてあったのは男子生徒、リアンの名前。
リアンが頷くので、どうやらレアンの兄弟というのは正解らしい。
思わぬ共通の知り合いがいて喜ぶが、どうやらこれで会話は終わりらしい。リアンは興味が無くなったかのように魔道書を見始めた。
「じゃあ、魔術技芸の授業を始めるよー」
リアンに何か声をかけようか迷っているうちに、女教師が入って来て授業が始まってしまった。
授業中とか、その後に声をかければいいか。そう思い、意識を授業に向けた。
ーーーしかし、数分後、
そのことすら考える余裕が無いくらい、顔面蒼白になっているロイドがいた。
「何で貴方がいるの!?」「何でお前がいるんだ!?」
レアンと教室に入るや否や、ルティは両肩を掴まれ怒鳴られた。
右肩にはセレナの左手、左肩にはユーロンの右手。
「ルティ殿は入学式、武芸の授業で使用した魔術を評価されたため、魔術技芸は上級クラスに移動になったのであります」
「そういうことなんだ〜。よろしくね、二人共!」
ルティがいるのが未だに信じられない二人にレアンが説明した。
「確かに入学式では無詠唱魔法、アレクシアの馬鹿と喧嘩したときも魔法を使いこなせたわね…」
「オレ様は馬鹿じゃない!それにあれは喧嘩ではなく、準備運動だ!」
「若、今そこはツッコムところではないであります」
「くっ…!黙れ、レアン!とにかくオレ様は認めないからな!いくら武芸の能力はあっても、本当に魔術技芸の能力もあるかはまだ認めないからな!」
ビシィ!とユーロンはルティを指差して宣言する。
「うわぁ!ユーロン!武芸の能力は認めてくれたってことだよね!それに、まだ認めないってことはこれから認めてくれるって言うことだよね。いつ認めてくれるか楽しみだな〜」
ここ数回ユーロンを相手にして分かったことだが、ユーロンは根はいい少年だ。
芯が通った考えでぶれることはなく、素直に思っていることを口にする。自分の中で正義と悪をしっかりと分け、正義を貫いている。
しかし、残念なのは気に入らない相手に対しでかい態度と口調で対応してしまうこと。
いや、だからこそ面白いのではないか。
ルティはユーロンの素直になれないめんどくさい性格に気づいたからこそ、敵ではなくいじりの対象として接するようになった。
「……ふん!そう簡単に認められると思うなよ!いくぞ、レアン!」
結局、ルティの言葉は否定せず、少し悔しそうに教壇近くの席に移動していった。
「それでは、ぼくも若のところへ行くので失礼するであります」
そう言ってレアンもユーロンを追って去っていった。
残されたのはルティとセレナ。
「セレナ魔術技芸のクラスでもよろしく!少しでも一緒の授業が増えて嬉しいな」
満面の笑みをルティはセレナに向ける。
「勘違いしないでよね、ルティ!私は貴方と仲良しごっこをするつもりはないの!そ、それに、貴方がやたら私に構うせいで、周りが私達のこと、こ、ここここ、恋人だと思っているらしいのよ……!」
目を逸らし、顔を真っ赤に染め上げるセレナを見て、ルティは思わずキュンとする。
「だってセレナが可愛いから構いたくなっちゃうんだもん。僕は恋人だと思われても全然気にしないよ?」
困ったようなはにかんだ笑顔。セレナの手をとり、ルティは自身の顔を、鼻がつくのでは?と思うくらいセレナの顔に近づける。
それはまるでおとぎ話に出てくる王子が、惚れ込んだ姫に愛を囁いているようで………
周りにいた男子生徒は呆然と見入り、女子生徒たちはそんなルティを見惚れる。
セレナもそんな女子生徒たちの一人になっていたが、すぐに正気を取り戻す。
いや、正気を取り戻したからこそ、今、ルティのその言葉が、瞳が自分に向けられているものだと自覚して、更に顔が熱くなる。
「〜〜!!!私は貴方の恋人にも仲良くなるつもりもないんだからねっ!!」
バッと手を振りほどいて、セレナは有無を言わせずルティから離れて行った。
「あ〜……。セレナ行っちゃった……」
「いや〜!さっすがルティの兄貴!あの亡国の姫、セレナ・レインを口説こうとするなんて惚れ惚れするわ〜」
「なんか、いつもセレナに怒鳴られている気がするんだよね」
「いやいや!あれは姫さんの照れ隠しや!間違いなく姫さんはツンデレや、ツンデレ!」
「つんでれ?」
「ツンデレやで!普段はツンツンしとるけど、たまにデレって優しくなったり、甘えてくる人のことや!ぐふふ!」
「ツンツンはしてるけど、セレナは優しくしてくれたり、甘えてきたことがないよ?」
「いやいや、これももう後一踏ん張りや。後ちょっとでデレるで、これは!」
「そうなのかなぁ?……ところで、君はだれ?」
そう言って、先程から会話をしていた相手の方へとルティは振り返る。
そこにいたのはニヤニヤと間抜けな顔をした変態男。もとい、同じ制服を見に包んだ男子生徒。
「よくぞ、聞いてくれた!自分の名前はバガル・パルノールや!」
ドンと胸を張り、バガルは妙な決めポーズを決めて名前を名乗る。
茶色髪に緑色の瞳。顔の彫りが深く、特徴的な太い眉。そして、ガタイの良い体。
あらためてバガルを見るとなかなかに男前である。ただ、それをぶち壊すほどの変態チックな言動ではあるが。
「へえー、バガルって言うんだ。よろしくね…」
「何や、ルティの兄貴?姫さんのときと比べると、自分に対する態度、めっちゃ冷めてへんか?」
「いや、君のテンションに戸惑っているていうのが本音かな?ていうか、何で僕に話しかけて来たの?」
「何でって!それは、これからルティの兄貴に寄ってくるであろう可愛い子ちゃん達と、自分も一緒にウフフアハハしたいに決まってるんやないか!……ではなく、一人になってしもたルティの兄貴が楽しく授業を受けられるように、自分が盛り上げようと思ったんや!」
「ええと……うん!とりあえず、一人になった僕のために話しかけてくれたってことでいいよね……!ありがとう」
初めてこんなタイプと接するため、困惑してしまうが、ひとまず好意だけは受け取っておく。欲望丸出しの理由はきっと空耳だろう。
「いや〜、ほんまはもっと早く話しかけたかったんやけどな。ルティの兄貴といっつも一緒におる厳つい顔の兄さんがおっそろしくて声をかけられへんかったんよ」
「あ〜、ロイドのことね」
確かにロイドのことをよく知らない人から見れば、あの強面男に声をかけるのは難しいだろう。
「にしても、何でルティの兄貴はあんなおっそろしい顔をした兄さんといつも一緒おるんや?」
他人に言われてルティは気づく。
そう言えば、フィリアン騎士団に来てロイドと出会ってからずっと一緒にいたことを。
今、ロイドと離れて別の誰かと何かを一緒に学んだり励んだりするのは初めてなのではないだろうか?
もちろん、フィリアン騎士団の時も同年代は何人もいた。この学園だってそうだ。
では、何故ロイドと一緒にいたのか?
答えは簡単だ。
「ロイドは僕の相棒だからだよ」
ニヤリと誇らしげにルティは笑った。
ご精読ありがとうございます!




