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有色魔術と無色魔術

魔術技芸、魔術工芸について一通り説明します!

 

 その日は魔術工芸と魔術技芸の初回授業だった。

 最初の魔術工芸は下級クラスであるため、基礎の説明から始まるとのこと。

 授業で使う教室にもいくつか魔法具があり、今朝フィニスに会ったお店の商品に似ているものもあった。


「あれ?そう言えば魔術工芸と魔術技芸の違いって何?」

 そんな魔法具を眺めつつ、ふと、ルティは疑問を口にした。

「今更それを聞くかよ」

「じゃあ、ロイドは分かるの?」

「………………」

「ほら!ロイドだって分かんないじゃん!」


 レイシオン学園は武芸、魔術技芸、魔術工芸を網羅した有数の学び場と聞いている。

 武芸は体術、武術を中心とした学問だと想像できる。しかし、残りの二つはどうだろうか?

 名前も似ているため、違いがいまいち分からない。


「魔術工芸は魔法具の仕組み、生成方法を学び、実際に魔法具を行使する授業。魔術技芸は魔法具を使わず、魔術のみを学び、己の魔術を鍛え、行使する授業じゃよ」


 その疑問を答えたのは第三者だった。

 声がした方、登壇側にルティとロイドが顔を向けると、教師であろう老人が魔法具をいじっていた。


「つまり、魔術の授業でも、魔法具を扱うのが魔術工芸で、扱わないのが魔術技芸ってことですか?」

「簡単に言うとそうじゃな!」


 ガコッ!と、大きな音を立て、老人が魔法具を分解していく。その魔法具の中から透明な豆粒ほどの玉が顔を出す。


「魔法具は魔法エネルギーにしている。そして、この魔法石がエネルギーの媒体になっているんじゃ」


 すると老人が手に取った魔法石から白い光が放たれる。


「生命一つ一つに大小あれど必ず魔力を持っている。そしてその魔力には色も……。だが、魔法石は生命ではない。それ故、色は無を示す白なのじゃっ!」


 目を見開いて老人は熱弁する。

 その勢いに若干引きつつも、ルティは今朝ユニが魔法具の一種であろう眼鏡を使っていたことを思い出す。

 あの時も確かに白い光を放っていた。


「エネルギーとなる魔法石、それを行使する物体、そして魔法石のエネルギーの性質、出力、魔法へと変えるための術式。この三つが揃って初めて生命でもない物体から、魔法という生命の神秘が発動されることをになったんじゃぁぁぁぁあ!!!」


 感動の涙なのだろうか?

 天に捧げるように分解された魔法具を持ち上げ、大粒の涙を頰からこぼす。


「ねえ、ロイド。あのジイさんどっかネジ外れてない?」

「奇遇だな、俺も同じことを考えていた」

「あのご老体が毎度授業で熱弁……と言うより暴走するのは一年魔術工芸下級クラスの名物らしいでありますよ」

「へえ〜そうなんだ。て言うか誰?このちんちくりん。ユーロンより小さくない?」

「ちんちくりんとは失礼であります!それに若は確かに小さいけれど、それを貶すのはぼくが許さないであります!」

「あーそう言えば、ルティはまだちゃんと会ったことなかったんだっけ。こいつは俺のルームメイトのレアンだ。ユーロンの従者でもあるらしいぞ」


 後ろの席に座っていたレアンを指差し、ロイドは紹介する。


「よろしくであります、ルティ殿。昨日の若との戦いは見事でありました」

「よろしく!てか、ユーロンの従者なのになんでレアンはここにいるの?」


 貴族で成績が優秀であろうユーロンはきっと上級クラスにいるはずだろう。しかし、側にいなければいけない従者が離れていてもいいのだろうか?


「それは耳がいたい質問であります。残念ながらぼくは貴族出身でもなく、魔術工芸が得意ではないので、若と同じ授業を受けられないのであります。ですが、代わりにもう一人従者が若に付き従っているであります」

「そうなんだ。他の授業もそのもう一人の子がユーロンと一緒に?」

「いや、ぼくは武芸と魔術技芸は上級クラスで、下級クラスの一般授業は免除されているであります」


 つまりレアンは魔術技芸だけユーロンとは別の授業。名を知らないもう一人の従者がその穴をカバーしているのだろう。


「じゃあ、レアンも魔法使えるんだ!」

「そうであります。ぼくもルティ殿と同じ風魔術が使えるであります」

「へえ!僕と同じなんだ!」

「前から思ってたんだが、風魔術とかの他にどういった魔術があるんだ?」


 既に魔術が使えるルティはある程度知識があるようだが、ロイドにはない。そもそも剣しかやっていなかったロイドは魔術を初めて見たのもつい最近だ。


「さっきご老体が言っていたように、ぼくたち生命には少なからず魔力があり、その魔力には性質がある。性質は色を持っていて、性質が無いのが白であります」

 レアンは老人が叫び持っている魔法石に目を向き、説明する。


「性質、色は六種類、炎は赤、雷は黄色、水は青、土は茶色、氷は水色、風は緑であります」

 そう言って、レアンは手に魔力を込め、緑色の光を発生させる。


「みんな、例えばロイドとかもどれかしらの性質があるってこと?」

「そうであります。ロイド殿の魔力性質は分からないでありますが、魔力を込めれば分かるであります」


 ルティとレアン、二人の視線がロイドへと向かう。

 ロイドはどの魔力性質か気になるのだろう。

 正直、ロイドも自分がどの性質なのか興味があった。


「どうやって魔力を込めるんだ?」

「込めるって、そりゃ、力をうわー!って集めたいところに集めるんだよ!」

「ぼくは意識を集中しているであります」


 どうにも抽象的なアドバイス。

 とりあえず、ロイドも手に力を入れてやってみる。


「ロイド、すっごく厳つい顔になってるよ」

「まるで般若のようであります」

「般若?」

「ぼくの出身地の魔物の名前であります」

「おいこら、俺は人間だ」


 手をバキバキと音を立て、眉間にしわを寄せながらやっているのだ。ロイドの強面の顔がより一層恐ろしさを増すのは仕方のないことだろう。

 結局魔力なんてものが現れる片鱗も見せず、周りにいた他の生徒が涙目になったり距離を置きはじめたので、魔力を込めようとするのは諦めた。


「まあ、きっと次の魔術技芸下級クラスで魔力を込める方法は教えてもらうはずであります」

「あはは!どんまい、ロイド」


 屈辱だ。ロイドは腹を抱えて笑うルティを睨むが、あいにくルティはロイドの強面に慣れているのでなんともない。周りにいた生徒がビビるだけだ。


「今の通り、俺は魔法なんてうまく使えたことがないけれど、コンロとかの調理魔法具とか使えたことあるぞ?」


 フィリアン騎士団にいた時、たまに自炊することがあった。確かにその時に使った調理器具は魔法具。それ以外にも日常的に魔法具と思われるものは使っていた気がする。


「魔法具は魔法石のみのエネルギーで発動されるものと、使用者の魔力と魔法石で発動される二種類があるのであります。電灯やコンロなどといった生活用品は基本魔法石のみで、杖や魔法剣などは比較的使用者の魔力で発動されるであります」


「ロイドが魔法を使えなくても、魔法石の魔法具は問題無く使えるんだ」

「そうであります。でも、魔法が使えるのに越したことはないでありますが」

「まあ、それも次の魔術技芸で教えてもらえるはずでしょ。いや〜楽しみだね〜ロイド!」

「俺は全然楽しみじゃないけどな」


 その時、鐘の音が聞こえてきた。

 授業が終わったのだろう。


「じゃあ、次の教室に移動しよっか。レアンは上級クラスだから教室違うよね?」

「そうであります」


 そうしてルティ、ロイド、レアンは席を立ちそれぞれのクラスに移ろうと支度を始める。


 しかし、

「ルーティミリアン・ハルツォーネ!ルーティミリアン・ハルツォーネはどこじゃ!?」


 魔術工芸の教師である老人がルティの名を叫んだ。


 何かまたやらかしたのかとロイドとレアンはルティを見る。だけど、今回ばかりはルティにも身に覚えがない。


「は、はい!僕はここにいます!」

「お、おお!ここにいたか!すまん、魔術技芸の教師陣からの言伝を忘れておった」

「言伝?」


 ゴホンと、老人は咳をついてからルティに言う。


「ルーティミリアン・ハルツォーネ!そなたは入学式、武芸の初回授業での魔術行使でその実力を認められた!よって、魔術技芸の下級クラスから上級クラスへとランクアップされた!」


「…………へ?」


 こうして、ルティは魔術技芸上級クラスを受けることが決定した。

ご精読ありがとうございます!


ちなみに魔法と魔術のちがいは、魔法が呼び方が新しくて、魔術が古い呼び方なだけです!

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