私の先生
外伝!!!!
私の先生は犬です。
あ、いえ、狼です。
天狼と呼ばれる、狼の中でも特殊な力を持った狼な先生は、とても無口で感情を外に出さないような、そんな狼でした。
そんな先生が私はとても大好きです。ふわふわもふもふな先生がとても大好きなのです。
でも先生は、先生の本来の名前を教えてはくれません。聞いても教えてくれません。だから私は先生を先生と呼ぶことに決めたのです。
「せんせー、これ美味しいですね」
「………」
「せんせーは食べないんですか?」
「………」
「聞いてます?先生」
隣にいる灰色の毛並みを持つ狼に私は問いかけるが、狼が口を開く様子はない。
今は特訓の合間のご飯休憩中だ。人間、お腹がすけば集中力も途切れるというもの。特訓に一番大事な集中力が欠けてしまえば、出来るものも出来なくなってしまう。
だからこうして犬先生がアブリルの町から買ってきたご飯を食べながらの休憩中なのだが……。
隣をちら、と見る。
灰色の狼、犬先生が隣に座り、遠くをじっと見据えている。手を伸ばせば届く距離にいる犬先生を私はじっと見る。
やっぱり
どっからどうみても、
犬だ。
頭をなでなでしたい、がばっと抱きついて、あのさわり心地の良さそうな毛並みに埋まれたい。
そう思うが出来ずにいた。犬先生は無闇やたらにべたべたされるのを嫌う。というか、犬扱いされるのを嫌う。
当たり前か、犬じゃないんだし。
先生には秘密が多い。
名前の件もそうだが、先生がアブリルから買ってきてくれるご飯。
人間の手で作られた、きちんと料理されたご飯。
狼の先生が、どうやって買ってきているのか?
あの姿のまま買いに行っているのだろうか?
そして、
もう一つ……。
空を見上げると、遠くから雨雲がこちらに近付いて来ているのがわかった。
「先生、雨が降りそうですね」
そう言う私に、犬先生はゆっくりと動きだして、寝床にしている穴蔵へと歩いて行く。私は先生の後ろ姿を見ながら、
何故雨が苦手なのだろうかと、不思議に思っていた。
「通り雨だったみたいですねー。5分も経たずにやんじゃった。先生、大丈夫ですか?」
犬先生は目をつむり身じろぎもなく返事もしなかったので、私は諦めて一人穴蔵を出る。
通り雨の過ぎ去った空は清々しいほどの晴れだった。
「先生は、どうして雨がそんなに苦手なんですか?」
一人ぼそっと呟く声は、犬先生には届かない。
犬先生が雨苦手だと気付いたのはいつだっただろうか。私が連れて来られたこの異世界は、雨がとてもよく降るらしい。日本にも『梅雨』という季節があるから、この世界の今の時期が『梅雨』みたいな雨が沢山降る季節なのか、と犬先生に問うた事がある。その返事は『否』だったが。
雨が降ると、犬先生は何も喋らなくなる。最初は機嫌でも悪いのか?体調でも悪いのか?と思っていたが、どうやらそうではないらしい。
雨が嫌いなのだ。
雨が嫌いで、苦手なのだ。
どうして嫌いなのか、
どうして苦手なのか。
犬先生は私にその理由を話してはくれない。
多分、この先も先生がそれを口にする事はないのだろうと思う。
それが寂しいのか、
悔しいのか、
悲しいのか。
それとも、
特に何とも感じていないのか。
先生と自分との距離を、いまだ掴みきれていないのは、
少し寂しい気がする。




