第六十四話 カミングアウト
俺が玉藻に治療を受けている中、ラグナロクとアリスは玉藻からの説教を喰らい続けていた。
俺はその時意識が飛んでいるから、残念なことに怒られてシュンとする二人を見れなかった。
「お、おお。花畑と川がみえたぞ……」
俺は目を覚ますとそこには二回りほど小さく見えるラグナロクとアリスが正座させられていた。
玉藻も、知らぬ間に幼女の姿からオトナモードになっていた。
「オトン!気づいたんやな!聞いたで。オカンとねーちゃんがオトンに悪さしたんやろ?っ!そこ!まだ足崩したらアカン!ちゃんとオトンにごめんなさいするんやろ!?」
いつから玉藻はこんな教育ママみたいな立ち位置になったんだと驚いている俺に、ラグナロクとアリスはシュンとしながら言った。
「ごめんね。ハジメ」
「ハジメ様、失礼しました」
二人がこんなんなってるの初めて見たぞ。
玉藻すげーな。
さっきまであんなにラグナロクに走らされまくってたのに。
「おまえんとこの家族ほんとスゲーな。で、あっちでカチャカチャうるさい音立ててる剣はなによ?あれ、呪いでもかかってる系のやつか?」
あ、そういえばアリスがエクスカリバー放り投げてたな。
「あれはだなぁ。そう。ちょっと説明が難しいのだけど……。よし、端的に言うぞ。あれは変態だ」
「はぁ?」
ドリトンは何言ってるんだという顔で俺を見てくる。
『お館様よ!それはひどいのではないか?私は男子からの罵りは私の好物ではないぞ!』
そう声が聞こえると、ボンッという音とともに、エクスカリバーはイケメンの元の人型に戻り俺のもとに走ってきた。
俺のところにそのまま来るのかと思いきや、流れる所作でアリスの前に四つん這いになった。
「さぁ主。こちらに」
言葉だけ聞けばエスコートしている騎士なのだが、やっていることは変態のそれだ。
アリスは、ここでそれはやめてくれと言わんばかりに顔を赤くしてうつむき、肩を震わせている。
ちなみにまだラグナロクもアリスも正座のままだ。
「おいちょっと待てハジメ。今ぬるっとカットインしてきたその変態。さっきまで剣だったよな?」
ドリトンが気づいてしまう。
「剣だったな。わかるだろ。そういうやつだよ」
「おまっ!とうとう男の魔剣にまで手ぇ出したのか!?」
「心外だ!撤回を要求する!俺が手を出したんじゃなくて、この変態がアリスに手を出してきたんだ!!」
俺は自身の尊厳を必死に守るが、アリスは私が!?という表情をしていた。
「そうである。私が主をわが主として仕えておるのだ。その点はき違えてもらっては困るぞ!それに私は魔剣ではなく聖剣である!!!」
「エク君は黙ってなさい……」
エクスカリバーは体を揺らして抗議しながらアリスの着席を今かと待ちわびている。
「気持ちわりぃ……。ちょっと俺生理的にこいつ無理だわ」
ドリトンがそういうが、安心してくれ、俺も無理だ。
だがここで不思議なことが起きる。
「あなた?この、すこし変わった騎士様はどちら様ですか?」
ドリトンの奥さんがホワッとした声でドリトンに尋ねる。
「ルナ……。ルナは目が腐るからこんな変態見てはいけません」
「マジで同感です。ルナさん。見ると毒しかありませんよ」
俺もドリトンもエクスカリバーに対しては塩どころか塩酸ぐらいの対応である。
だた、ルナは物怖じせずエクスカリバーに近づき、すっとしゃがむと声をかける。
「アリス様が困っていますよ?」
なんだか、優しいトーンの言葉に芯の強さのある声だった。
しかしおかしかったのはエクスカリバーだった。
「……」
おや?返事もしないぞ?
「おいエク君。無視ってのはねーだろ」
「アリス様に申し訳なくないのですか?」
「……」
尚もエクスカリバーは返答しないどころか、顔をアリスの方に向けて、ルナから顔をそむけた。
「おまえなぁ!!」
俺がそういうとエクスカリバーがポツリと。
「……怖いのだ」
よく見るとエクスカリバーは体が震えていた。
「ん?」
「だから、怖いのだ!!私は、私は、女性恐怖症なのだ……」
エクスカリバーから絶対出てこないであろう言葉だった。
全員が呆気にとられ目が点になる中、一人だけその言葉を怒りに変換した人物がいた。
「エク君!!!それは私が女性ではないと言っているのですか!?!?そこに直りなさい」
アリスは正座どころではなく、勢いよく立ち上がり烈火のごとくキレていた。
それもそうだ。
女性恐怖症をカミングアウトしたのに、アリスには懐くというのはそれは人間アリスを女性として見ていないと受け取られるわな。
「ち、違うのだ主!!聞いてくれ!!私には妻がいる!それはそれはキレイな女性なのだが、その、なんだ。怖いのだ妻が。常に私を監視し、私の使用したものを収集し、それを見ていたら、優しそうな女性を見ると恐怖を感じるようになってしまったのだ……」
あれ?
ここまで聞いても俺、あーやっぱり変態だとしか思わないぞ?
だって、優しそうな女性が怖いからドSな女性に性癖チェンジしたってことでしょ?
同じことを思ったようでドリトンが声を出した。
「だからって変態が変態であることに変わりねぇだろうが……」
仰る通り。
「エク君はしばらく使いません。反省してください」
アリスの乙女心はだいぶ傷つけられたようだ。
あれでも、ラグナロクと玉藻もラグナロクはまぁおいておいたとしても、玉藻は結構優しい女性側じゃない?
「エク君、なんでラグちゃんと玉藻は大丈夫なんだ?」
「だってご婦人と狐娘は人外であろうお館様!」
その言葉にもう二名が追加でキレる。
「あぁぁああ!?なにゆうてんねんオッサン!!」
「エク君、死にたくなっちゃった?」
あ、藪蛇だったかな。
「ハジメ、今のはお前が悪いわ。余計な事言っちゃってるもの」
ドリトンは肩をすくめてやれやれという仕草をしている。
「そうですね。ハジメ様の今のはちょっとよろしくないかもしれませんね」
ルナさんまで!
「いいよいいよ。隅で俺も反省しておくよ……」
俺は会場の隅で一人反省することとなってしまった。
その後エクスカリバーはラグナロクと玉藻のサンドバッグになり、ドリトンは豪快に巻き藁を切り倒しルナさんに褒められてデレデレとしている。
なんか俺、疎外感……。
俺はエクスカリバーをサンドバッグにする玉藻を見て、玉藻って攻撃手段無いのにどうしているんだろう?と思った。
今はただ防戦一方でエクスカリバーが袋叩きにされているだけだからいいけど、実際にはエクスカリバーにビンタするのが関の山。
これが戦闘になったら……。
攻撃手段を持たない玉藻はこの中で俺と同じくらい危うい存在なんじゃないか?
でもまぁ今はいっかと楽観的な思考で反省を継続するハジメだった。




