第六十一話 私の名前は
変態はそのまま動じることなく自身の会話を進めていく。
「お館様よ。聞き漏れていたのだが、先ほど私の胸倉を掴んで振り回していたご婦人が、お館様のもう一人の奥方で合っておるか?」
変態は、異世界そのものというようなイケメンそのものという顔立ちから純和風な言葉で質問を投げかけてくる。
「まず、そのお館様ってのをやめてくれ。いつから俺はお前の主になったんだ?」
「つい先ほどだが?」
「俺の意思は?」
「あると言いたいところであるが、主が伴侶という相手であるからなぁ。そこは是非も無し」
腕を組んでドカッとベッドに座ったままその変態はここを動かぬという姿勢を貫いている。
「何が是非も無しだ!?一番大事なところだろうが!!」
この変態。
ただモノじゃないな。
俺の話を聞かないとか以前に自身の我を通してくる。
「して、話を戻すがお館様よ。そのご婦人がもう一人の奥方で合っておるか?」
「もういいよお館様で……。そうだけど、それがどうしたってんだ?」
「ふむ。お館様よ。お館様はだいぶねじ曲がった趣味をしておるのだな?」
「えっ!?俺、会って数分の変態にこんなにディスられるの!?」
「ハジメ、ディスって何?」
「ラグちゃんごめん。今それに答える元気ないわ」
ハジメの肩口でゆらゆらと頭を揺らすラグナロクが不思議そうにしている。
「申し訳ない。決して貶めようとする言葉ではないのである。いや、な。ご婦人。ラグちゃんと呼ばれておるから最初気づかなかったが、ご婦人、人間ではないな?」
その言葉を聞いて、俺の身体が反応してしまった。
それとはなく、ビクッとする俺の身体に俺自身が驚いたぐらいだ。
「隠してるわけじゃないけど、なんでわかった?」
ヴェルダンディのこともある。
ラグナロクが人ではないことを気づく時点で俺としては、変態から要注意人物に格上げだ。
ことは慎重に進めたい。
「なぁに簡単な事よ」
「簡単?」
すると、ドアが再度開き興奮冷めやらぬアリスが戻ってきた。
「ハジメ様!お父様への連絡を済ませてきました!今のところ返事は来ていませんが、今すぐに挙式をするようにとのことです!!!」
「待てアリス。言葉がめちゃくちゃだ。返事来てないのに何で指示が同時にでてんだよ。後半お前の願望だろうが……」
「バレました……?」
あれーっとという仕草をわざとらしくするアリスであったが、忘れないでほしい。
そもそもヴァルに俺たちが来ているのは、魔王側からの報復から逃げるためでしょうが……。
「おお!主も来たということは役者も揃ったな!では、なぜ私がご婦人の正体を見破ったか、お見せしよう!」
「お見せ?説明じゃなくてか??」
変態はベッドに座ったまま、組んでいる腕に力を入れると、少し眉間にシワを寄せた。
「むむむむむ。よいか?いくぞ!」
ひときわ強く力を入れると変態の姿は瞬く間に形を変えた。
「……剣、ですか?」
反応したのはアリスだった。
驚くべきことではあるが、その変態は姿を剣に変えたのだった。
『どうであるか?私の姿はそれはそれは美しいであろう?』
悔しいが否定はできなかった。
ラグナロクとは違った、聖属性を放つそれは元の変態の姿からは想像できない細身の刀身に、西洋風の鍔が映えるまさに聖剣と言った姿だった。
「しかもいきなり会話までできるってか。ラグちゃんだってついさっきできるようになった芸当を軽々と」
なるほど?
だからラグナロクが人間じゃないってわかったってか。
ラグナロクと同じ、剣が人の姿してるタイプってことね。
「ハジメ、勘違いしちゃだめだよ。ラグは人間が魔剣だけど、この変態はそもそも剣が人の姿をしていたからラグとは一緒にしないで」
勘違いするなとばかりに俺の頬をつまんでくる。
そこになにか違いはあるのだろうか?
『私をな。主に使ってほしいのだ』
はい。この流れでその言い方はダメです。
しかしアリスは意外にも嫌悪感なしに変態に近づいてその柄を握った。
「……アリス?」
「大丈夫、だと思います。それにこの剣は私の力になってくれると思うんです」
『さすが主!その通りなのだ!!是非とも私をこれから強引に振り回してその剛腕で痛めつけてほしいのだ!!!』
「アリス、やっぱり変態は変態だ。廃品回収に出してしまいなさい」
『お館様!それはさすがにひどすぎる!せめて、溶かして鋳つぶすぐらいにとどめていただきたい』
「尺度がおかしいんだよ!それにこのぐらいの痛みがちょうどいいみたいな言い方すんな!気持ち悪りぃッ」
そんな会話が進みつつも、アリスは変態の柄を握り軽やかにその刀身を振って見せた。
振られた刀身は、剣を振ったというより、鞭を振ったような音がしていた。
破裂音に近い音だった。
「軽い。まるで羽根のような軽さです」
『やはりな。私は持ち主と思える相手でなければ持ち上げられないのだよ』
なんだかなぁ。
ここまでの前振りが無かったら、スゲーなそれ!って言えるんだけど、惨状を見てしまったから素直に驚けない。
「むー……。」
「なぜにラグちゃんはちょっとご機嫌斜めなの……?」
「ラグにだってそれくらいできる」
あーっ。そこに対抗意識燃やしちゃう感じなんだ。
剣同士通じるものがあるってことか?
「ラグちゃんはラグちゃんで剣でも俺の代わりに戦ってくれるじゃん!きっとこの変態にはできないって!」
『剣が主人を動かすなどまだまだ未熟者よ。主人の望むところに望む力で刃を導いてこそである』
「お前!ラグちゃんを煽るな!!!」
「……悔しい」
ラグナロクはそういうと、自身を剣の姿に変えてハジメの手に自ら柄を握らせた。
分かるか?これ、今めっちゃシュールな光景だからな?
『おーそれがご婦人の剣の姿か!実に美しい!』
『当然。ハジメ!ちょっとラグの使い方練習しよう!』
「えっ!?今から!?ここで!?それはちょっと、厳しいんじゃないかなぁ……。あとでしような?あとで。二人で練習しよう、あとでな!」
さすがにそれは厳しいってと、俺は必死にラグナロクの柄を撫でて機嫌を取る。
なかなかむくれたラグナロクの機嫌取りは大変ではあるが、その実俺としてもラグナロクの使い方というのは興味がないではなかった。
しかし、大切な事に俺は気づく。
「そういやお前、名前なんて言うんだ?」
『私か?……。おーーー!これは失礼した。つい変態と呼ばれることに興奮していたら名乗るのを忘れておったわ!ハッハ!」
変態はどこまで行っても変態か。
変態はふわりと浮き上がりアリスの手を離れると、俺の目の前まで来た。
なるほど?
腐っても騎士ってか。
よくあるシーンなら、片膝ついてってやつだよな。
ガリガリ……。
「お前もガリつくんかよ!!!やめろ!ここはギルドの医務室だぞ!?」
そういっても変態は止まらなかった。
それはとても達筆、いや汚いだけだな。
ある種、趣しかない字体でつづられていた。
アリスがそこに近づき読み上げる。
「え、く、す、か、り、ば、ぁ」
急にアリスの読み上げが幼稚になる。
なんだその、幼稚園児の手紙を読んだ親みたいな読み方は。
ん?今、なんていった?
「おお?、おおお?エクスカリバー!?あのアーサー王の!?ヤダヤダ、こんな変態があの伝説の聖剣とか冗談じゃない!!俺の夢が崩れる!!お前!今すぐ改名しろ!!!」
『素晴らしい真名であろう?』
ふわふわと上がったり下がったりしながらエクスカリバーは自身の名前を誇らしそうにしていた。
『今は私一人であるが、私には実力を同じくするランスロットという仲間がおってな?それはそれは強く折れぬ、持ち主を殺さぬ素晴らしい剣でなぁ』
エクスカリバーは聞いてもいないことをペラペラと話し続ける。
その場にいる誰も耳を傾けてはいなかったが、思い出してほしい。
あの勇者が持っている聖剣がランスロットである。
「エクスカリバーさんですか。では、なんとお呼びしましょう?」
アリスは斜め上の悩みを抱え始めた。
そこではないのだよアリス。
『エクスカリバーだから、エーちゃ』
「待ってラグちゃん!それは多方面からバッシングが来るからやめて!!!ロックの神様になっちゃうから!!!」
『???』
「ではエク君でどうでしょう?」
アリスの声を聞いて、エクスカリバーはカシャカシャと興奮を抑えきれないとでも言いそうな動きをする。
『主!気に入った!今後そう呼んでいただきたい!お館様もご婦人もぜひエク君と私を呼んでくれ!』
なんでこうもハイテンションなのかね。
その後、変態もとい、エクスカリバーは長々と命名の喜びと、アリスへのねじ曲がった愛情を語り続けたのだった。




