第四十二話 怪我に効く薬膳と治癒師
俺たちは不審者との遭遇を経て、ギルドに到着した。
到着するとアルマさんが俺たちを見つけこちらに近づいてきた。
「見ましたよぉ。ラグナロクさんほんと最高でした」
「いやいやお恥ずかしい」
ラグナロクは私すごいでしょという自身ありげな表情だ。
先ほどの不審者を見たときの表情からいつもの顔に戻って安心した。
「ギルドマスターは今席を外してますが、お待ちになられますか?」
「いや、その目的で来たんじゃないんです。今日から決勝までの間の宿と、おいしい食事を探してまして」
するとアルマさんは俺たちを見てアリスに視線を止めたあと、なるほどという表情をしていた。
「では、おすすめの宿をご紹介しますね。多分もう満室ですが、私からの紹介状で通せるようにしておきます」
「いいんですか?そこまでしていただいて」
「いいんですよ。皆さんには助けてもらいましたし」
そういうアルマさんの自席には、金貨がパンパンに詰まって少し机にこぼれ出ている袋が置いてあった。
こいつ、ラグナロク一点買いで賭けてやがったな。
いいのかよギルド職員がそんなことして。
「はい。こちらです」
そういってアルマさんは俺に紹介状を手渡した。
「ありがとうございます。それと食事はどこかありますか?」
「その宿の食事がおすすめですよ。一階と地下が食事処で二階から上が宿になっています。今の皆さんなら地下がいいでしょう」
「そんなに食事に力を入れてるんですね」
「まぁこういう都市ですから」
ん?なんだか引っかかる言い方だな。
「一応確認ですが、アルマさん。変な所じゃないですよね?」
「変??いやいや、そんなことありませんよ。少し滋養強壮によいんです。そうそう。最上階には治癒師がいますので、アリス様の怪我も診てもらえるかと思いますよ」
ほんとかぁ?
まぁここで疑っても仕方ないな。
「わかりました。ありがとうございます」
そういって少しの疑いと、かなりの不安を胸に、いくばくかの希望をもって俺たちは紹介された宿に向かったのだが、結論から言おう。
嘘はつかれなかったし、素晴らしいものだったが、同じぐらいひどいものだった。
「いらっしゃーい」
元気な女将さんが出迎えてくれて、紹介状を見せるとすぐに部屋に通された。
荷物を置いたら地下に来るようにとのことだが、いきなり食事させるのか?
部屋に着いた俺たちは不安を吐き出し合った。
「なぁ。どう思う?」
「食事も強制的に地下にされましたね」
「地下がおすすめぐらいの感じで言われた気がしたんだが、これほとんど強制だと思うんだよな」
「ですね」
「ラグお腹空いた」
暢気だなぁもう。
「まぁここは気合い入れて地下に行くぞ」
「わかりました。なんでしょうこの不安感……」
「お腹空いたぁ」
俺たちは地下へと降りていく。
一段降りる度に、どことなく嫌ではないが不安が積み重なる感覚に襲われる。
着いた地下の食事処には、他の客はおろか、テーブルも一組しかなかった。
「貸し切り状態かよ」
「ここでご飯たべるの?」
ラグナロクは少し不思議そうに聞いてくる。
それもそのはず、どこからどう見ても悪魔の儀式をするんだろうなという照明。
錬金術でもするのだろうという薬草が詰まれた棚。
壁に書かれた魔法陣。
すると、声をかけられる。
「お待ちしておりました。ハジメ様ご一行ですね。料金については、宿泊費及び食事代をすでにアルマさんから頂いておりますのでご安心ください」
かなり俺らで儲けやがったな。
でも今はそれどころではない。
案内されるまま席に着き、ここではラグナロクも大人しく一人で席についていた。
ここまではよかったのだが、よくも悪くもここまでは通常パートという感じだった。
「ちょうど準備もできておりますのですぐお食事をお持ちいたします」
その声と同時に、どう見ても実験室だが厨房?なのだろうなという場所からウエイターと思しき数人が大量の食事?を運んでくる。
テーブルに並べられたそれは、明らかに人間が口にする見た目ではないのだ。
カエルが半分だけ姿を残したスープ。
のこぎりのような淵をした刃物、いや、葉物のサラダ。
米、に見えなくもないが見たこともない黒い粒が盛られたプレート。
これがメインですと言わんばかりのドラゴンの頭の丸焼き、ただし目玉は半壊で見た目はドラゴンゾンビ。
なるほど。
ゾンビ定食ですか。
「あのー……」
「どういたしました?」
「ここのゾンビ、いや料理は初めてなので、決まった食べ方があれば教えていただきたいのですが……」
「ゾンビ?特に決まりはございませんので、思うがままに召し上がっていただければと思います」
思うがままにゾンビ食えってか。
「こちら薬膳になっていますので、怪我や病気の治癒を高めてくれますよ」
「薬膳!?ゾンビじゃなくて!?」
あ、ヤベつい口が滑ってしまった。
「あははは。確かに見た目は驚きますよね。ですが味は問題ございませんので心行くまでご堪能ください」
なるほど。
ゲテモノ料理ですかい。
「そ、そうですかぁ」
ふと横を見ると、ラグナロクがサラダに手を付けていた。
「んっ」
ん!?
ちょっと待て、何しても怪我一つしないラグちゃんの口元から血が……。
「ラグお腹いっぱい」
そういって一口でナイフとフォークをテーブルに置いたラグナロクだった。
「くっ。これが異世界の洗礼だってか。そうだよそうだよ。今までがよすぎたんだよ。よし。ここは心を決めてだ。アリス!たくさんお食べ!」
どうだ俺の善意を塗りたくった笑顔は。
「私だけですか!?!?」
「そりゃそうだ。これはきっとアルマさんがアリスの為に手配してくれたものだ。無駄にできないからな。それに俺はほら、怪我一つしてない」
「そんな、それはあんまりです。うっ……」
アリスも口元から血が流れている。
それでも律儀に食べ物かすら怪しいものを口に運び続けるアリスに俺は少し涙がこぼれそうだった。
「うっぷ……」
これほどまでに的確なうっぷははじめて聞いたよ。
アリスは見事完食したのだった。
だがその代償に初めて俺はアリスに睨まれたけどな。
そのあと部屋に戻ると、女将さんが部屋を訪ねてきた。
「アリス様いらっしゃいますか?」
「……はい」
完全に試合よりボロボロにされてるな。
「この上の階に治癒師がいますので、アルマさんが予約を入れてくれていますからこの後行ってみてください。それでは」
用件だけ伝えて去っていった。
アリスは先ほどの食事のこともあり、完全に怯えている。
「アリス、一応好意だし、顔出しておかないと」
「そう、ですよね」
こんなところでも律儀だなぁと思う。
それでもアリスの足取りは重く、ドアもなけなしの力で閉めましたというような、パタンという悲しい音がした。
なんだかんだいろいろあって疲れた俺はラグナロクと二人ベッドに横になると、気づいた時には寝落ちしてしまっていた。
「ハ……ジメ……さ、ま」
唸るような声で目が覚めた。
「う、うう?」
「ハジメ、さまぁぁぁああ」
あれ、なんかさっきよりボロボロのアリスが目の前にいた。
「アリス、何と言うか、老けた?」
「痛かったんです!!!見てくださいこれ!!!」
そういって差し出す左腕は驚くことに骨折が完全に治っていた。
だが、アリスの説明によると、本来回復魔法は痛みを伴わないらしいのだが、ここの治癒師の回復魔法は意識が飛びそうになるほどの痛みを伴ったと。
「逃げようとするたびに、動けなくされて。そのまま、何度も、何度も……」
それが数時間断続的に行われたと。
それでこんなにアリスは老け込んでしまったのか。
結果、怪我は完治したものの、なにか大切なものを失った気がするとのことだった。
唸って八つ当たりするアリスをなだめ、翌朝を迎えたが、女将さんに詳しく聞くと、薬膳は治癒師の痛みに耐えられるような痛覚鈍化の効果が含まれているとのことだった。
俺食わなくて正解じゃんか。
それ以降、アリスも俺もラグナロクも地下の食事処にはいかずに、一階の普通の食事処で食事することになったのだが、こっちは本当においしい料理しかなかった。
治癒師の激痛治療を勝手に予約したアルマさんに仕返しすると、全メニューを食べつくすと息巻いていた。
「これは人間の食事」
ラグちゃんも辛らつだが最高に適切な表現だ。
そうこうして熱中しているうちに、決勝戦当日となったのだった。




