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【完結】左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ
第二章 古代防衛機構編

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第九十二話 三博士の正体

 静寂が広間を包む。


 カイの問いに、三博士はすぐには答えなかった。


 やがて。


 バルタザールが小さく目を閉じる。


「良い質問じゃ」


 その声はどこか疲れていた。


「そして、お主らが知るべき最後の真実でもある」


 カイたちは黙って耳を傾ける。


 バルタザールはゆっくりと口を開いた。


「我々は既に人間ではない」


 広間に沈黙が落ちる。


 それは以前にも聞いた話だった。


 だが、今までよりも重みが違う。


「我々の肉体は遥か昔に滅びた」


 続けたのはメルキオールだった。


「今ここにあるのは管理者用アンドロイドの身体じゃ」


 カスパールも頷く。


「人格記憶のみを保存した器じゃな」


 マックスが腕を組む。


「そこまでは聞いた」


「それが何で自分たちで止められねえ理由になるんだ?」


 その問いに答えたのはバルタザールだった。


「簡単な話じゃ」


「我々自身が、既にセプテントリオの一部だからじゃよ」


 ユリオンが眉をひそめる。


「一部?」


「ああ」


 バルタザールは頷いた。


「我々は管理者として造られた」


「だが数千年の時を経て、今やシステムと切り離せぬ存在となっておる」


 メルキオールが補足する。


「セプテントリオは我々を管理者として認識しておらん」


「内部機構として認識しておる」


 リリアが小さく首を傾げる。


「それはどういう意味ですか?」


 カスパールが答える。


「人の身体で考えると分かりやすい」


「例えば腕が、自ら脳を破壊しようとしたらどうなる?」


 マックスが即答した。


「止められるに決まってるだろ」


「そういうことじゃ」


 カスパールは静かに頷く。


「システム停止は自己破壊と判断される」


「自動防衛機構が作動するのじゃ」


 広間に沈黙が落ちた。


 カイはゆっくりと理解する。


「つまり……」


「あなたたちがシステムを停止しようとすると、システム自身がそれを阻止する」


「その通りじゃ」


 バルタザールが頷いた。


「我々は何度も試した」


「だが、その度に失敗した」


 その言葉には長い年月の重みがあった。


 数千年。


 気の遠くなるような時間。


 その間ずっと、彼らは解決策を探していたのだろう。


「だから協力者が必要だった」


 カイが呟く。


「そうじゃ」


 バルタザールは静かに肯定した。


「だが、それも容易ではなかった」


 ユリオンが目を細める。


「何故だ?」


 答えたのはメルキオールだった。


「我々が明確に外部協力者を誘導した場合」


「それすら敵対行動と判定される可能性があった」


 リリアが息を呑む。


「そんな……」


「だから我々は直接説明できなかった」


 バルタザールが言う。


「必要最小限の介入しか許されなかったのじゃ」


 カイの脳裏に、あの黒衣の男の姿が浮かぶ。


 旧リューデン観測所。


 あの時。


 彼は確かに助けてくれた。


 だが多くは語らなかった。


「だからだったのですね」


 カイが呟く。


「あの時も」


「その後も」


 バルタザールは小さく頷いた。


「偶然を装い」


「緊急避難として介入する」


「それが限界だった」


 そこでユリオンが口を開く。


「待て」


「それなら何故、今はこうして話せる?」


 鋭い指摘だった。


「今のお前たちは、明らかにシステム停止へ向けて動いている」


「それでも妨害されないのか?」


 三博士は顔を見合わせた。


 そしてバルタザールが頷く。


「本来なら妨害されておる」


 その言葉に全員が息を呑む。


「だが状況が変わった」


「天枢」


 ユリオンが即座に反応する。


「旧オルフェア管理院か」


「その通りじゃ」


 バルタザールは頷いた。


「管理院は単なる統括施設ではない」


「セプテントリオ全体を監視する中枢でもあった」


 メルキオールが続ける。


「自動防衛機構の制御権限も、あそこに集中しておった」


「お主らが管理院の機能を停止したことで」


「防衛機構の監視能力は大幅に低下したのじゃ」


 カスパールも頷く。


「完全に無力化された訳ではない」


「だが今ならば、こうして話すことができる」


 カイは小さく息を吐いた。


 管理院での出来事を思い出す。


 あの時は成果がなかったように思えた。


 だが違った。


 あの施設を停止させたことにも意味があったのだ。


「ようやく全てが繋がったな」


 ユリオンが静かに呟く。


 三博士もまた、小さく頷いた。


 しばらく沈黙が続く。


 そして。


 ユリオンがもう一つの疑問を口にした。


「ならば制御鍵は何だ?」


 その瞬間。


 三博士が顔を見合わせた。


 そして。


 バルタザールが静かに微笑む。


「ようやくそこへ辿り着いたか」


 カイたちの表情が引き締まる。


「あの鍵は施設を起動するためのものではない」


 全員が目を見開いた。


「違うのですか?」


 カイが思わず尋ねる。


「違う」


 バルタザールは首を振る。


「あれは施設間連携を解除するための鍵じゃ」


 広間に沈黙が落ちた。


「連携解除……」


 ユリオンが呟く。


「そうじゃ」


 メルキオールが頷く。


「セプテントリオは七施設が相互接続された巨大なシステム」


「だが、そのままでは自動防衛機構が働く」


 カスパールが続ける。


「故に、まず連携を切り離さねばならん」


 カイは思い出す。


 これまで訪れた施設。


 監視塔。


 観測所。


 精製所。


 中継所。


 管理院。


 その全てで制御鍵を使用してきた。


「まさか……」


「そのまさかじゃ」


 バルタザールが言う。


「お主らは知らぬ間に準備を進めておった」


 静かな声だった。


「セプテントリオ停止のための準備をな」


 誰も言葉を発しなかった。


 これまでの旅路。


 全てが一本の線で繋がっていく。


 バルタザールはゆっくりと立ち上がる。


「そして」


 その声に全員の視線が集まる。


「残された手順も、あと僅かじゃ」


 広間の空気が張り詰める。


 いよいよ終わりが近い。


 だが。


 カイたちはまだ知らなかった。


 その先に待つ代償を。


 人類が支払うことになる本当の代価を。

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