第八十五話 旧フォルド中継所
旧ヴァルム精製所を後にした一行は、イリスが示した座標を頼りに北西へ向かっていた。
次なる目的地。
古代遺跡群の一つ。
その役割はまだ分からない。
だが、監視塔、観測所、精製所が一つの仕組みとして繋がっていた以上、ここもまた重要な施設であることは間違いなかった。
三日後。
一行は目的地へ到着した。
山肌に埋め込まれるように築かれた巨大施設。
崩れた外壁。
半ば埋没した通路。
それでもなお、その規模だけは圧倒的だった。
「でっけえな……」
マックスが思わず呟く。
その時だった。
イリスが足を止めた。
「周辺に多数の反応を確認」
「警戒を推奨します」
空気が変わる。
ヴァレリアが剣の柄に手を掛けた。
マックスも盾を構える。
直後。
茂みの奥から魔獣が飛び出した。
「来たぞ!」
マックスが前へ出る。
盾で魔獣の突進を受け止めると同時に、リリアの魔法が炸裂した。
爆炎が敵を吹き飛ばす。
ヴァレリアが駆ける。
一閃。
二閃。
鋭い斬撃が魔獣を次々と切り伏せていく。
「なんだ、案外いけるじゃねえか!」
マックスが笑う。
しかし。
「増加を確認」
イリスが告げた。
「反応数、増加中」
「は?」
マックスが振り返る。
森の奥からさらに魔獣が現れる。
一群。
二群。
三群。
まるで終わりがない。
「おいおい、冗談だろ……」
グレンが顔をしかめる。
戦闘は続いた。
倒しても。
倒しても。
新たな魔獣が現れる。
施設周辺そのものが巨大な巣になっているかのようだった。
十分。
二十分。
三十分。
時間だけが過ぎていく。
マックスの肩で息が荒くなる。
リリアの額には汗が浮かんでいた。
エルナも回復魔法を使い続けている。
「カイさん!」
リリアが叫ぶ。
「魔力が半分を切りました!」
「こちらもです!」
エルナが続く。
ヴァレリアも徐々に動きが重くなっていた。
敵の数が多すぎる。
このままでは押し切られる。
カイは周囲を見渡した。
そして即座に判断する。
「撤退します」
「マジか?」
「これ以上は危険です」
迷いはなかった。
「一度引きましょう」
誰も反論しない。
全員が限界を理解していたからだ。
だが。
「後方にも反応」
イリスが告げた。
一同の動きが止まる。
「……なんだと?」
退路側の森からも魔獣の群れが現れる。
さらに左右からも咆哮が響いた。
包囲。
完全な包囲だった。
「最悪だな……」
ヴァレリアが剣を構える。
マックスも盾を前へ出した。
その時だった。
群れの奥から大型種が姿を現す。
赤黒い体毛。
鋭い牙。
これまでの個体とは明らかに格が違う。
「来るぞ!」
大型魔獣が地面を蹴った。
一瞬で距離を詰める。
迎撃は間に合わない。
誰もがそう思った瞬間――
銀色の閃光が走った。
一閃。
大型魔獣の首が宙を舞う。
巨体が地面へ崩れ落ちた。
静寂。
そして。
「珍しく苦戦しているじゃないか」
穏やかな声が響いた。
「まあ、間に合って良かった」
カイが目を見開く。
「アルトリウス!」
魔獣の群れの向こう。
白銀の鎧を纏った青年が剣を払う。
その背後には四人。
ブロム。
ユリウス。
リーネ。
クラウディア。
中央ギルドAランクパーティ――銀牙。
「話は後だ!」
アルトリウスが剣を構える。
「まずは片付けるぞ!」
その瞬間。
戦場の空気が変わった。
ブロムの盾が魔獣を吹き飛ばす。
ユリウスの魔法が群れを焼き払う。
リーネが死角から急所を貫き。
クラウディアの支援魔法が前衛を強化する。
そして。
アルトリウスの剣が閃く度に大型種が倒れていった。
圧倒的だった。
十分後。
最後の一体が倒れる。
周囲に静寂が戻った。
「助かった……」
マックスが大きく息を吐く。
「本当にな」
ブロムが笑う。
ひと息ついたところで、アルトリウスが口を開いた。
「君たちの報告書を見てな」
「中央ギルドのレオンハルト局長から出征要請が来た」
カイは少しだけ考え、すぐに納得したように頷いた。
「ああ、セリーヌさんですね」
「セリーヌさん?」
アルトリウスが首を傾げる。
「ええ」
カイは答えた。
「私たちの状況は逐一辺境ギルドへ報告していました」
「恐らく彼女が、それらをまとめて中央ギルドへ報告書として提出してくれていたのでしょう」
「なるほど」
アルトリウスが頷く。
「レオンハルト局長は、その報告書を見て古文書庫を調査させたらしい」
そして背後の巨大施設へ視線を向ける。
「その結果、判明したことがある」
一同の視線が集まる。
「君たちが向かっている遺跡は――」
一拍。
「旧フォルド中継所と呼ばれている」
「中継所?」
マックスが首を傾げた。
「何を中継するんだ?」
「そこまでは分からない」
アルトリウスは首を振る。
「だが、他の施設名も判明している」
「旧アーカム貯蔵庫」
「旧オルフェア管理院」
「旧エデン封鎖区画」
一瞬の沈黙。
「待て」
マックスが真顔になる。
「最後のやつ、絶対ヤバいだろ」
「私もそう思う」
アルトリウスが苦笑した。
「だが詳細は不明だ」
カイは巨大施設を見上げる。
旧アルトス監視塔。
旧リューデン観測所。
旧ヴァルム精製所。
そして旧フォルド中継所。
点だった情報が、少しずつ線になり始めていた。
「まずは目の前だな」
カイが言う。
「ああ」
アルトリウスが頷く。
「我々も調査に協力しよう」
「頼む」
短いやり取りだった。
だが、それで十分だった。
こうしてカイとユリオンを中心とする調査隊は、新たな戦力を得た。
中央屈指のAランクパーティ――銀牙。
彼らの参戦によって、これまで最大の課題だった戦力不足は大きく改善される。
そして一行は、旧フォルド中継所へと足を踏み入れるのだった。




