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好機到来

北斗提督の大型船は、その勢いのままに下流域へと矛先を向ける。するとやがて先程来、視界に入っていた船が、ようやく原寸大となって近くに見えて来た。


その船々からは大きなどよめきが起こり、こちらを眺めている。その姿がはっきりと視認出来る様になった時、その艦橋でこちらを見つめているのが、関羽総督である事がハッキリと判った。


「(*◕ 3 ◕)ღ 爺ぃ~爺ぃ~♪」


北斗ちゃんは大きく手を振りながら、声を掛ける。


「おぉ~♪(*`艸´)若君♡これはたまげたわい…お~い皆の衆!若君が視察に来て下すったぞ♪声を上げよ!」


関羽は兵の士気を上げるのは、今とばかりに大きな声で配下を鼓舞した。


傅士仁は気を利かせて関羽総督の船に並走してやり、二人が話しやすくしてやる。但し、大型船同士ではない為、多少間隔を開けてやる必要があるので、操船にはそれなりに気を遣う。


何かの拍子に接触した場合、たとえ相手が中型船と言えども、大型船の圧力には耐えきれないからである。


北斗ちゃんは胴巻きに雁字搦(がんじがら)めに縛られている為、端から観るとまるで護送されている罪人の如き有り様である。


これはさすがにやり過ぎであり、意識的に簀巻(すま)きにされているんじゃないかと、疑う節さえもある。


しかしながら、傅士仁としては一国の主に為るで在ろうお人を預かっている手前、手を抜く訳にもいかないのだった。


仕方なく、北斗ちゃんは船の(ヘリ)から、顔だけヒョコっと出して、関羽を見下ろす。彼が余りにもニコニコしているので、実態は関羽からは見えないのだった。



(・・;)首から下は分からないって事ですな…



「(((ღ(◕ 0 ◕*ღ)爺ぃ~♪避難状況はどうだい?順調に進んでいるかい?」


北斗ちゃんは自由になる両の手で必死に身振り手振りしながら、可能な限りの声を出して、問い掛ける。


彼は触れ合いに来た訳でも、ましてや視察に来た訳でも無い。その目的はあくまでも民の救出活動なのである。


「(*`艸´)おぅ♪若♡粗方(あらかた)完了しておりますぞ♪もうそろそろ引き揚げようかと思っておった所です!」


「ღ(◕ 0 ◕;)ニャニおぅ…マジで?何でそんな早く済んだのかニャ…」


「(;`艸´)そらぁ…こんな状況では既に退避も糞も無いですからな♪実際、儂でさえあんまり役には立っておらんのです!」


「((ღ(◕ 0 ◕;)ありり…こりゃいったい…」


北斗ちゃんは焦ってしまった…公安砦から遥々やって来たというのに、これでは何のために長駆して来たのか判らない。


彼はこの時点で確かにそう感じていたのだが、冷静に為って考えてみれば、こんな酷い状況の中でギリギリ命を救われるよりも、逃げる者からすれば、余裕を以て楽に助かる方が有り難いのである。


こういった事は、避難する立場の者の身に立って考えなければ、判らない事だし、劇的な救出劇など所詮、小説や映画の中でしか起こらないのである。



(・・;)小説家が堂々とそんな事言っていいんですかね(笑)…



「((ღ(◕ 0 ◕;)爺ぃ~本当の本当の本当にもう逃げ遅れた人は居ないのかい?」


「(*`艸´)えぇ…ほぼ間違いないかと!」


「((ღ(◕ 0 ◕;)どういう事?そんなナイスな避難勧告下したのはいったい誰なのよ?」


「(*`艸´)あぁ…伊籍殿ですよ♪先程も伝えた通り、儂も国境から撤退して、江陵城に戻った時には、もうとっくに避難勧告が出ており、民の殆どは城内に逃げ込んでいましたからね…」


「…それから出動して、上流から下流まで、皆で手分けして隈無く探しております!儂の船も三往復くらいして、取り残された奴らもしっかりとさらいましたが、もう居らぬかと!」


「((ღ(◕ 0 ◕;)そうか!それは御苦労様♪助かったよ!有り難うね♡でも伊籍殿は、何か神懸かってるね?何で判ったんだろう?」


「(*〃`艸´)=3 そらぁ…決まっておるでしょう?鳩ですよ!鳩♪若♡貴方が放った鳩の知らせですよ♪何の為に伝書鳩作戦考えたんです?考えたのも貴方でしょうが?」


『ღ(◕ 0 ◕ღ;)あっ!そうか…アレか?』


北斗ちゃんは森の中で傅士仁の退却を待つ間に、張翼の焦る姿を横目に観ながら、座り込んでゴニョゴニョと伝書鳩の用意をしていた。


そして張翼と共に伝書鳩を放った。その鳩が無事に公安砦にも江陵城にも帰巣して、緊急避難を伝えたのである。


『ღ(◕ 0 ◕ღ;)そう言えば…』



『(⊹^◡^)ええ♪勿論…こちらは南郡城と連携を密にしての避難勧告も済んでおり、公安一帯の救助も進行中です♪』



『ღ(◕ 0 ◕ღ;)…確か費禕も既に救助が進行中だって言ってたっけ?費禕のナイス判断かと思いきや、アレも僕の伝書鳩か?僕の判断て事なのね…』


『…待てよ?て事は伊籍の避難勧告も僕の判断て事じゃないか…(ღ◕ 3 ◕)=3 やれやれ!』


『…(;◕ 3 ◕)=3 (とど)のつまりは、自分の機転がこの未曾有(みぞう)の大惨事から民をちゃんと救ったって事に為るな…』


『…つまりは自分のナイス判断に自分が振り回されて、空回りしたって事になるか…まぁ結果オ~ライだからね♪良しとしよう (*꒪ö꒪)♡』


北斗ちゃんは妙に納得してしまった。迂回して戻って来た費観も残存者無しと報告して来た為に、結局、北斗ちゃん自身はスリルのあるギリギリの瞬間に民を拾い上げる事すら無く、このまま関羽総督の艦と費観の艦と共に江陵城に凱旋する事に成る。


これが大救出劇の結末で良いのかどうかという疑問は残るだろうが、事実そう言う事なんだから仕方がない。


こうして彼らは一致団結の成果により、民をひとりも死なせる事無く、江陵城内に保護出来たのだった。


彼らが計画通り、事を成し遂げた満足感で一杯だったのは言うまでも無い。


しかしながら、この計画立案から実行まで…全てを主導した筈の北斗ちゃんには、(いささ)かフラストレーションが溜まっていた。


それがなぜなのか、彼は頭の中ではハッキリと判っていても、その冒険心ゆえに懐疑的なままで在ったのだろう。




それからも雨は絶え間無く降り続き、彼らは江陵城で三日三晩閉じ込められながら、耐え忍んだ。民はさぞ窮屈な想いをしただろうが、命には代えられない。


それに大雨の中、南郡まで辿り着く事を想えば、城内は夜露を凌げるし、三食温かい食事もキチンと提供されたので、思いの外その待遇は良かったので在った。


特に医療部門の対応は好評で、せっかく三日間も滞在するのだから、この際長年酷使して来た身体をしっかりと診て貰い、悪いとこ治しちゃおうなんて、ちゃっかり者も居たりして大繁盛なのであった。


現代で言う所の、いわゆる人間ドックの様なもので在ろうか?


華佗先生は大勢の民に囲まれても、ひとりひとり懇切丁寧に対応してやり、的確な処方をしてくれる。


弎坐も今回の医療部門の責任者であるから張り切っており、ひとりひとりとちゃんと向き合い、話を聞いてやり、道中も含めて只ひたすらに黙々と(こさ)えてきた薬剤を惜しみ無く処方してやる。


二人を診ているとまるで写し鏡の様で微笑ましい。かつての先生と北斗ちゃんを観ている様であった。


管邈(かんばく)もいざ取り組み始めたら、医療の奥深さに興味が出てきたらしい。毎日が充実して、今後の愉しみが出来たと感謝の言葉が飛び出す程である。


彼がそれ程、精力的に取り組めたのは、瀕死の自分を助けてくれた医療その物に、元々感謝の念があったのもさる事ながら、北斗ちゃんを通じて感じた…人の(ぬく)もりや優しさを、その触れ合いを通じて感じられたからなのかも知れない。


北斗ちゃんを始め、関羽総督・傅士仁将軍・費観将軍・周倉将軍・馬良軍師などは、そんな中でも簑と菅傘の出立(いでた)ちで交代交替に城内やその周辺の見廻りを行う。


避難した人々の中には自由に動き廻れない人も居るし、日頃交流の無い者同士のいざこざが起こるかも知れないので、その観察や調停なども兼ねていた。


「お兄ちゃ~ん(*^-゜)v♡」


北斗ちゃんは見廻りを粗方(あらかた)終えて、丞相府の自室に戻る道すがら可愛い声に呼び止められた。不意にその声に振り向き、目を凝らすとそれはかつて診療に来ていたあの女の子であった。


女の子はお母さんのお腹に抱きついたまま、こちらをニコニコしながら見つめている。母親も頭をペコりと下げる。相変わらずお母さん子の様で、甘えん坊である。


北斗ちゃんも相槌を返しながら歩み寄り、女の子の傍まで来ると、その頭を優しく撫でてやる。女の子は照れているが、とても嬉しそうだ。❥❥⸜(ू•◡•)໒꒱


「ʓ৸ʓ৸♪(❛ᴗ❛ و)و˚˙元気にしてたかい?もうすっかり傷は治ったのかな?」


「ヾ(@>▽<@)ノ♡うん♪お兄ちゃんのお陰だよ♡観て観て~もう傷無いでしょう?」


「どれどれ…"(❛ᴗ❛ و)و˚˙あ!本当だ♪綺麗に治ったね♡本当に良かったね♪僕も安心したよ♡」


「(*ᴗˬᴗ)⁾⁾その節は有り難う御座います…」


母親もお礼の言葉を述べる。


「(◍˃ᗜ˂◍)ノ✿ありがとう✿」


女の子も嬉しそうに照れている。


「(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑なぁに✧傷を治すのは医者の務め☆彡患者さんの喜ぶ顔が報酬みたいな物ですからね♪元気になった姿を観れたらそれだけで嬉しいんですよ~♪」


北斗ちゃんは自然とそんな言葉が口をついた。母親は感謝の意を込めて再び頭を下げる。(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


北斗ちゃんは再び女の子の頭を優しく撫でてやりながら、「困った事があったら、お兄ちゃんに言うんだよ♡」そう言って優しく微笑んだ。❥❥⸜(ू•◡•)໒꒱ʓ৸ʓ৸♪(❛ᴗ❛ و)و˚˙


二人は再び北斗ちゃんに頭を下げる。母親の真似をして可愛らしく頭を下げる女の子の笑顔がとても印象に残った。(ू•◡•)⁾⁾


日々良い行いをしていると、人々が感謝を示してくれる。そんな優しい気持ちにさせられるひとときとなって、北斗ちゃんはとても嬉しかった。


彼は笑顔で母娘に手を振り、別れを告げるとおもむろにその場を去る。心なしかその歩みは軽く、心は湧き躍る。それはまさに張り詰めた心や根を詰めた疲れを忘れさせてくれるひとときと為ったのである。




そんなある日の事、雨の降り続く中を推して一人の男が江陵城にやって来る。彼の名は趙累と言った。そう関羽総督の配下で、荊州軍務No.2のあの男である。


趙累は忠義無類の廉直(れんちょく)の士と評される男で有り、関羽総督も彼には絶対的な信を置いていたので、この突然の訪問はかなり切羽詰まった事態の変化を感じさせた。


彼は魏国に潜入しての諜報活動を担っている間諜部隊の長である。そんな彼がこんなタイミングで江陵にやって来るとはどんな事態が起こったのだろうか?


皆一様に、その感心は趙累の一挙手一投足に注がれた。彼は相当な疲労を推してやって来た様で、その表情は観るからに疲れ切っていて、今にも気絶しそうである。


北斗ちゃんは一旦、身体を休める様に諭したが、彼は頑として聴かなかった。ひとまず報告をさせて欲しいと譲らなかったのである。


その気迫に推される様に、関羽は若君を抑えて、彼の意志を尊重して報告を行わせた。優しさは時には罪である。


彼がどれだけの想いでここまで辿り着いたのかを、捺して知るべし…これは武将としての気概を大事にする(おとこ)同士だからこその配慮であった。


「(*`艸´)趙累!儂が許す♪報告せよ!」


「∑(_*´=ω=)…有難い!報告が済んだら必ず身体を休めると誓いますので、太子に置かれましてもご心配無き様に願います…」


「ε="(❛ᴗ❛ ;)判った!申せ♪僕もちと性急に過ぎた!貴方の労苦には報いたい…すまないな♡」


「(。´-д-)。何の♪身体を心配下さる事は配下に取っては嬉しき事…貴方様が間違っておられる訳では在りませぬ!…」


「…只、事は急を要しますので、まずは話を聴いて頂き、この機を上手く掴むか、逃すか、或いは慎重を期すかを皆様で御検討下さいます様に☆彡」


趙累はそう念を押すと話し始めた。


「(。´-д-)。今、漢江の北側では大変な事態と成っております♪今回の漢江の氾濫は予期せぬ未曾有の被害をもたらしましたが、我々の南側河畔一帯よりも、魏国の北側河畔一帯の方が被害が甚大です!…」


「…本来で在れば、(はん)城や襄陽城を主体とした魏国軍が周辺の民を救うところが、それが叶わず、民は自力で逃げた者もおりますが、周辺で暮らす者達は流された者も多数存在します…」


「…我々の部隊が逃がしてやった者も一部居りますが、焼け石に水くらいの有り様です!と言いますのも、元々、(はん)城や襄陽城はどちらかと言いますと、低地に位置し…」


「…此度(こたび)の氾濫で完全に水没して、身動きが取れぬ様です。それでも城内の民を守ろうと、本国に救援を送ったり備蓄を供出したりと足掻いては要る物の元々準備不足で途方に暮れておる様です…」


「…奴らの事は別にしても、民に非は在りませぬ!何とか助けてやれませんかね?私はどうも観ておれぬのです!ですから今回、危険を冒して遥々やって来た次第…但し、判断は委ねまする。私にはその権限が無いのですから…」


趙累の報告はそこで終わった。彼は言い終えた事で満足したのか、そこで事切れて気絶してしまった。


「(°ᗜ°٥)おい!大丈夫か…医者だ!医者を呼べ!…って僕も医者だったな…」


北斗ちゃんはすぐに脈を確認すると、少しホッとした。気絶しているだけの様である。恐らく極度の疲労から意識を失ったもので在ろう。彼は直ぐに兵達に手伝わせて、趙累を運ばせると、絶対安静とした。


「(*`艸´)…にしても如何致しましょう?」


以前の関羽総督で在れば、好機到来とばかりにやおら動き出すで在ろうが、今の彼には、その意思は無く、むしろ民の事を心配している。彼は直ぐにでも救援に向かいたいが、若君の判断をまず仰ぐ事にしたのであった。


「(˶• ֊ •˶)プッ…爺ぃ~らしく無いぞ♪無論、僕は救援に向かう♡皆もそれで良いだろう?」


北斗ちゃんは然も当然とばかりに揺るぎ無い姿勢を示した。彼はそう言って皆を見渡すと、互い違いに他の者達もコクりと頷く。


事はそれで決まったと言って良い。皆、この際、敵だ味方だと小賢しい事を宣う者はここには居なかったのである。


こうして急遽、彼らは動き出す事に為った。雨はまだ完全に上がった訳では無く、降り続いている。そんな中、危険を冒して出帆するのは、彼らにとっても命懸けであった。


それでも皆、その意志は固く、心の内には闘志を秘めていた。人の命に国境も垣根も無い!北斗ちゃんの築き上げたその姿勢は、皆の心にもいつしか自然と芽生えていたのである。

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