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樊城を救え✧

江陵城ではさっそく魏の救援に向かう為の準備が始まった。船の状態の最低限の再点検を済ませると、支援物資の積み込みが始まる。ひとまずは食料と医薬品が主となる。


そして各方面には伝書鳩に依る通達が行われる。公安砦には呉の再攻勢に備える様に伝達が飛ぶ。そして南郡城には公安砦と同様の指示の他、避難民の移動がいつ始まっても良い様に、その準備状況の確認が為される。


南郡城からは直ぐに返信の伝書鳩が飛んで来る。鞏志(きょうし)からで、既にいつでも受け入れは可能と言う事である。そして張嶷からも『任せて下さい♪』とわざわざ返信が在ったのだった。


『"(❛ᴗ❛ و)張嶷の奴…張り切ってるな♡』


北斗ちゃんは鞏志や張嶷の万難を廃す慎重な姿勢に安堵していた。


田穂の報告では、呉の本国も今回の災害に依りかなりの打撃を負っている様だから、まさかそれを推してまで攻めて来る事は無かろうが、万が一の対策を高じて措かねば、安心して出発する事も出来なかったのである。


そして公安砦の費禕からも返信は届いている。こちらも心配はいらないとの事であった。


『(⊹^◡^)若♡頑張って♪』


『ღ(。-_-。)若♡任せて~な♪』


『(´°ᗜ°)アハハハ…大丈夫だね、こりゃあ少しくどかったかな?』


費禕も張翼も念のため、既に迎撃体制は取っているらしく、心配は無いとの事で在った。民を預かる手前、かなり神経質な程の体制強化を計っているらしい。


ここ江陵でも皆を集めての軍儀は既に開かれた後で、体制は既に決まっていた。伊籍殿と関平・周倉には江陵の死守が関羽総督から言い渡される。


そして魏に向かうのは、北斗ちゃんを始め、関羽総督・馬良・傅士仁・費観である。そして休息を挟んだ趙累も案内役として同伴する。さらには管邈(かんばく)も同乗が決まった。


彼は元はと言えば、魏の間諜であるし、元々魏国人であるから、魏の情勢に詳しく、地の利もある。ここぞとばかりに役立ちたいと自ら買って出たのである。勿論、その配下達もそれに従う様に同行を申し出ている。


北斗ちゃんはしばしの間、躊躇して考えあぐねたが、関羽総督はその粋を買った。結果的に、無理をしない事を条件に北斗ちゃんも同行を認めたのだった。


大型船の本艦は提督に若君である北斗ちゃん。船長は引き続き傅士仁が務める。そして管邈もここに同乗する。


大型船の次艦は費観が担う。ここには新たに抜擢された潘濬(はんしゅん)と言う者が乗る。




潘濬は元々は劉表の彼官であったが、劉備が荊州を抑えた時に、その有能さを買われて、荊州の従事と為った。ところが関羽総督が荊州の全権を任せられると、折り合いの悪さから遠ざけられた。


彼は直言の士で在り、法を何よりも重んじたので、人目も(はばか)らずに正論を宣い、法に照らし合わせての断罪を求めた。関羽も初めのうちこそ大目に見ていたが、やがて疎ましくなり、彼を遠ざけたのだった。


潘濬は結局、自ら退任を申し出て、荊州のさる庵に隠棲していたのだが、今回の災害にあって江陵城に避難していたのである。それに気がついた伊籍により説得され、北斗ちゃんに引き合わされたと言う訳である。


「(ꐦ•" ຼ•)(わたくし)、潘濬は一切の妥協は致しませぬ…喩え太子様が相手でも、(はばか)る事無く、直言致しますが、それでも宜しゅう御座いますか?」


「(°ᗜ°٥)何で?清廉潔白は大いに結構だよ!僕はどちらかと言うと、相手を(あざむ)(やから)をこそ憎む…」


「…正しいと想い、その信念を貫く者は称賛こそすれ、非難されるべきでは無いと想っている。但し、やり過ぎは駄目だぞ!何事も程度と言う物があるのだ…」


「…その線引きが難しければ、法をそれに充てる事だ。さすれば曖昧さは排除出来るし、皆も従うで在ろう♪それで如何かな?」


「(ꐦ•" ຼ•)…それでは君主が勝手に国の法を変えられる事に成り、国が乱れ民が苦しみます…如何な物かと?」


「(´°ᗜ°)あぁ…確かにね。ちと言い方が悪かったかな?僕の方針は国の根幹は民にこそ在ると思っている。民の幸福…即ち建国の理念でなければ成らない…」


「…けれどもそれは甘やかすと言う事では無い。皆が働き切磋琢磨して国を潤す。我々もそれに報いる。民だけに労苦を掛けるのでは決して無い。我々は民の奉仕者としての役割をしっかりと担う…」


「…そうで無ければ民だって着いては来ないし、民の幸福にも繋がらないだろう?違うかい?上に立つ者こそ質素倹約し、民の手本と為らねば成らないだろう…」


「…民が認めて協力してくれれば、国の活力も増すし、民を欺き、私腹を肥やす者は断罪されなければ成らない。君がもし自分の事を清廉潔白だと想うのならば、君に法の改正を任せよう…」


「…それを雛型として、皆で話し合う事だな?勿論、僕も堂々とした意見を言わせて貰う。僕の方針は中央集権制では無い。皆で話し合う合議制に在る…」


「…それなら皆も納得するし、勝手気儘に法の改正も出来まい。何なら民の代表を合議に加えても良いぞ♪それが平等と言う物だ。但し、今は駄目だな…」


「…今は父上の御世だからね…僕は太子として直言するのみさ!まるで君の様にね♪僕の代に為ったら、君に法の改正を任せようじゃないか?君がまだその時にその気が在ればの話しだけどね?こんな所でどうかな?」


北斗ちゃんは澄ました顔で潘濬を見つめた。彼は目を見開いて驚愕の色を浮かべている。この若き太子から、こんな言葉の洪水が涌き出て止まらないとは想っても観なかったので在ろう。


「(ꐦ•" ຼ•)…宜しいでしょう。それが(まこと)で在れば、貴方に従いましょう♪」


「(((ღ(◕ 0 ◕*)じゃあ、これで決まりだね♪君はこれで僕の配下だ。意見はしっかりと聞くから、遠慮なくいつでも言ってくれて良い…」


「…但し、君の意見が必ずしも通るとは想わないでくれ!君が全知全能の神では無い限り、いつも正しいとは限らない…」


「…その場合はこちらも遠慮なく反論はさせて貰うからね!意見に対しては互いの意見で論じる。それが真の公平というものだ…いいね♡」


「(ꐦ•" ຼ•)…えぇ!それで結構♪しかしながら、貴方は可笑しな方ですな…貴方の様な物分かりの良い御方には、初めて御目に掛かりました…」


「(〃▽〃)そうかなぁ…そうでも無いけどね♪普通だよ!普通…」


『(ꐦ•" ຼ•)…自覚が無いのかな?この若さでこの思想と姿勢を示せるなんて尋常では無いぞ…伊籍殿がアレだけ買うのも納得出来る…』


『…しかもあの関羽総督の変わり様は何だ?他の配下も完全に懐いているし、堂々としている。不思議な魅力を持った方なのかも知れんな…』


潘濬はそう感じていたのだった。そして彼はこの若き太子の傍で、しばらくその一挙手一投足を眺め、その生き様を理解するべく努める事にしたのだった。




そんな訳で、大型船の次艦には費観と共に潘濬が同乗する事に為った。


三番艦の中型艦には総督の関羽将軍を始め、軍師の馬良・将軍の趙累が同乗する。


そしてその三隻には追随する中型艦艇がそれぞれに付き従う。作戦はこうだ。まず魏の主力が集まる(はん)城に全力で向かう。


まずはそこでの講和が条件と成るだろう。それが達せられれば、そのうちの重要人物を乗せた上で、襄陽城の救出を敢行するという手筈である。


懸念は(はん)城の都督である曹仁(そうじん)を説得出来るかに在る。ここは関羽総督の手腕にまずは期待したい所である。


何しろ関羽は、一時とはいえ曹操にその身を預けて居た事が在り、曹仁とも割りと親しかったと聴く。


彼にまず呼び掛けて貰い、それで駄目なら北斗ちゃんの出番という計画であった。


三隻を主軸とした江陵艦隊は、一路樊城を目指す。雨は未だに降り続き氾濫域の拡大は否めない。けれども皆、掛け替えの無い命の為にと気を引き締めて先を急いだ。


魏との(わだかま)りが解けるかも知れないこの好機到来に、皆それぞれが、興奮していたのである。




『(*`艸´)…はてさて。若君からは大役を仰せ遣ったな…声を掛けるのは良いとしても、あの忠誠心の塊の様な男が、果たして救出を潔しとするかな?』


関羽は曹仁の頑なな性格を良く知っているので、少々頭が痛かった。


曹仁は既に(よわい)50を越えているが、益々盛んで在り、軍に於いては規律を遵守し、配下や兵の信頼も厚い。字は子孝(しこう)。曹操の従兄弟で有り最も信頼する男である。


彼は荊州で関羽と対峙出来る唯一無二の男として、曹操から派遣された将軍であり、数々の武功から都亭候を拝命している。配下には龐徳(ほうとく)将軍と軍師の満寵(まんちょう)を従えている。


「( º言º)殿!大変です…関羽が大挙して攻めて来ました…」


満寵は直ぐにその動きを捉えて曹仁に報告する。


「; ー̀дー́ )ᵎᵎ…ふん!やはりな…関羽が攻めて来る事は判っておったわ♪奴らの目的は北伐に在るのだからな!小賢しい…返り討ちにしてくれるわ!」


「( º言º)仰る通りです!奴らに目に物を見せてやりましょう♪龐徳!いるか?」


「(°ㅂ°҂)…何でしょう?」


「( º言º)関羽が攻めて来たらしい…迎撃出来るか?」


「(°ㅂ°҂)…お安い御用です!あっしの作ったお手製の棺に沈めて見せましょう♪」


「( º言º)✧頼もしい事を言うのぅ…では軍船使用の許可を与える。見事、漢江の藻屑(もくず)にしたれい✧」


「✧(°ㅂ°҂)合点承知の助♪任したれい✧」


本来で在れば、城は水没し、城内の兵や民は塗炭の苦しみに喘いでいるのだから、ここは懸命な軍師で在れば、止める所である。


満寵も本来的には慎重で厳格な男では在るのだが、ここ最近の諜報活動に支障を来たし憤懣(ふんまん)が溜まっていたのかも知れない。


龐徳は元々北方の涼州で名を為した馬超の配下で在ったが、魏との徹底交戦を主張した(あるじ)と袂を別ち、今は魏に仕えていた。


彼は本来的には忠誠の塊の様な男であるがゆえに、馬超とのやむを得ぬ別れは彼を突き動かした。


龐徳は魏では新参者であるから、手柄を立ててその武威を示し、忠誠心を見せなければ成らなかったのだ。


彼は自ら棺を用意し、死ぬ覚悟で出撃する事にしたのである。


こうして龐徳は小型船を多数出して、迎え討つ!…筈だったのだが…。


「Σ(°ㅂ°҂ノ)ノ何じゃこりゃあ…」


接近してみて驚いたの何のって…龐徳が見た敵船団は巨大な山の様に見えた事だろう…彼が小舟の上に堂々とした体躯で立って居ても、その巨大船の足下にも及ばない。


それだけ傅士仁の造り上げた船はデカかったのである。彼は呆然と立ち尽くす。これでは攻めようにも攻めれないし、矢すら届かないだろう。


それどころか、下手をすれば踏み潰される。彼は困ってしまった。


するとその船の(へり)からヒョコっと顔を出したのは、誰在ろう北斗ちゃんである。


「|• •๑)”ㄘラッ…やぁ✧君は誰だい?樊城の方かな…助けに来てあげたよ♪案内してくれるかい?」


北斗ちゃんはまさかこんな小舟で攻め懸かって来ているとは思わない。そんな無謀な輩が居るなんて想いも依らず、"迎えに来た"と思ったのである。


巨大艦から見下ろす者に取っては至極、自然の反応であった。片やの龐徳の方はまた違った反応を見せた。


『(°ㅂ°٥҂)なっ…何だ!子供(ガキ)か?なぜ軍艦に子供(ガキ)が乗ってる…いったいどう為っているのだ??』


彼が驚くのも無理は無い。物見遊山では無いのだから…。これは互いの捉え方の違いによるものだろう。


北斗ちゃん達は、大船団を編成しなければ、大勢の者達をいっぺんに輸送出来ない、その観点から必然的に大型船を主力とした大編成を組まねばならない。


片やで、突然こんな大船団に迫られた魏国側では、関羽が攻めて来たと緊張感が走って、防衛体制を組んでも仕方が無いと言えよう。龐徳は未だ逡巡(しゅんじゅん)の中にある。


『否、否…(°ㅂ°٥҂)あっしも耄碌(もうろく)したな…ありゃあ童顔て奴だろう!首から下は筋骨隆々に違いあるまいて…騙されんぞ!』


彼の常識の範囲では、子供が兵として従軍するなんて事はけっして無い。少々、考え方の観点がズレている様な気がしないでも無いが、あくまでも彼の頭の中の事だ。他人がとやかく言う事でも無かろう。


一方の北斗ちゃんは、来る前から色々と妄想を逞しくしていた。


『おお!救世主・北斗殿~万歳!!関羽将軍~万歳!!』


『(〃o〃)イヤン…照れるやん♪』


…てな感じである。


ところが、せっかく声を掛けた相手の将軍は、ジロッとこちらを見上げただけでポカンとしており、何のリアクションも無い。


『|*′-′)=3ㄘラッ 聞こえなかったのかしら?』


北斗ちゃんは"仕方無いなぁ"…ともう一度、声を掛けようとしたのだが、船はそんな事は知らんと言わんばかりに、ツーっと彼らの横をゆっくりと通り過ぎて行く。


「おいおい!( •̀_₍•́ )話しの途中だぞ!この船なんで動いてんのさ!」


彼は振り向くと、傅士仁に文句を言った。


「若!ε(´皿`;)こいつはただでさえ図体のデカい代物ですぜ!例え漕がなくても、自然と動きます。それにあのままだと、踏み潰す所でしたからな…こちらも必死でしたぞ!」


「ありゃりゃ…(º ロ º;)そらぁすみませんね…」


北斗ちゃんも想わず苦笑いである。


これはいわゆる慣性の法則というものである。推進力という物はそう簡単には止められないのだ。特にここは水の上だ。


波の流れにさえ、その影響を与えられる環境下である。そんな中で、互いに立ち話しに及ぶ事は土台無理な相談で在ろう。


傅士仁がまだ状況を最大限に把握して、無難に対応したと言った方が正しかったのである。どうしても話しがしたければ、(イカリ)を降ろす他あるまい。


そもそも当初の予定では、交渉窓口は関羽将軍と決まっており、北斗ちゃんはその次点と決まっていたのだから、これは彼の勇み足に他無らない。


傅士仁としては、予定通りの行動に沿って進めていたのだから、全く悪くないのだ。むしろ、無駄な惨事をその機転で回避したのだから、褒められこそすれ、叱責を受ける()われは無かったのである。


北斗ちゃんは顔をヒョコっと船の(へり)から出しながら、後方をおもむろに振り返る。龐徳はまだブツクサ呟いているらしく、それに気づいているのかさえ怪しい。


『(;º ロ º)あいつ何しに来たんだろう…いずれにしても、交渉相手には向かないかもね…』


北斗ちゃんはフフンとほくそ笑み、勝手な事を想い描く。これも彼の頭の中の事だから良いのであるが、その態度から身内にはだだ漏れである。


けれども良く良く見れば、彼は確かにまだ子供に毛の生えた程度の、可愛らしいお坊ちゃんなのだから、水兵さん達からすれば、微笑ましい光景に写るのみであった。


大型船は巧く擦り抜けたと思われたが、そのデカさが仇となる。確かに押し潰す事は避けられたものの、そのデカさゆえに、打ち返す波も巨大であった。


特に考え事をしていた龐徳は、小船の揺れと傾きに耐えられずに、足を取られてそのままバランスを崩し、河の中に放り出される。


他の小舟も大型船の通り過ぎる波の打ち返しに巻き込まれて、船底が波間から頭を出してプカプカと浮く有り様である。


皆、必死になって、自分の船に集まり、その縁に掴まった。龐徳は河面に顔を出すと、赤鬼の如くその顔を真赤にして怒鳴りつける。


「(ꐦ ‾᷄꒫‾᷅ )(くそ)子供(ガキ)が!!やりやがったな!」


別に北斗ちゃんが悪い訳では無いが、話し掛けたが運の尽きと言う奴である。怒りっぽい人には為るべく関わりを持たない方が良いという典型的な例である。


そんな時にドボン!という音と共に、中型船がその目の前で停まった。その船上から姿を現わした男は猛々しく笑った。

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