挿話 ある文官の手記
8月×日 曇り、小雨
この国に日が差さなくなってから、今日でちょうど三ヶ月が経った。
学者たちの主張する通り、今年は記録的な冷夏なのだろう。
どれほど高名な魔術師とて天気を操ることは不可能に等しいのだから、多少の憂鬱を感じこそすれ無駄な心配をする必要はない。
というのが、女王やこの国の中枢を担う者たちの意見である。
国民、とりわけ農業を生業とする者たちの間に不安が広がりつつあるのは、もはや否定しようのない事実だ。
「農作物の出荷量にはさして影響していない」等楽観的極まる主張を取り下げない連中は、実りの秋という言葉をご存知ないのだろうか。
本当の脅威はこれからだ、という、いち文官にも分かる事実からなぜ目を背けていられるのだろう。
だが、下っ端とはいえこの国の政に携わる者として、諦め投げ出すわけにはいかない。
農民や王宮魔術師たちと共に対策を練り、この国の平和を守るため務めを果たす。それが、私にできる唯一のことだ。
(ページの下部、今までより明らかに小さな文字で)
騎士団員から聞いた話によれば、「この冷夏を招いたのは、ライラ王女の怨念なのでは」という噂が城下町でまことしやかに囁かれているらしい。
殿下の十六歳の誕生日を最後に晴れなくなった、その事実が発端と見て間違いないだろう。
うっかり女王陛下の耳に入りでもしたら一大事なので、話している者を見かけ次第それとなく諌める方向で話がまとまった。
ただの偶然、だと思いたい。
手記と銘打っているとはいえ、短くてすみません……! 明日からも更新を続けていきますので、見守ってくだされば幸いです。宜しくお願い致します。
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