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①飛龍との別れ



 その後、救助用の垂直離着陸機で回収された俺は、(ようや)く【飛龍・改二】へと戻って来た。そして帰還した俺を待っていたのは徹底的な物理的洗浄と、救助されるまで何をしていたか、と言う尋問だった。


 (……今なら、洗車機に入る車の気持ちが理解出来るな)


 遠隔操作のジェット噴水を当てられた後、強烈な圧縮空気のシャワーで隅々まで洗浄処理を受けながら、そんな事を考えていた俺だったが、続けて始められた尋問に辟易(へきえき)しながら答えつつ、しかし肝心な箇所は無理の無い程度に誤魔化した。まるで、スパイの存在に気付きながら知らないように答えている気がし、少しだけ良心が(とが)められる。


 「……判りました。以上で質問は終わりますが……良く無事に戻って来てくれました。貴重な情報を得られた事に感謝します」


 俺への質問を終えた佐々木艦長は、質問内容を記録したチップを端末から外してから少しだけ考えた後、口を開いた。


 「……やはり、飛龍から降りて地下要塞へ退避するべきなのかも、しれませんね……」


 俺はその言葉を聞き流しながら、掛けていた椅子から無言のまま立ち上がり、小さく会釈してから部屋を出た。




 「ま、引っ越しみたいなもんだよ」


 山のような荷物に囲まれてあれこれと手に取り、悩みながら【いるもの】と【いらないもの】と書かれた箱を交互に眺めては眉を寄せるカズンの姿を眺める俺は、彼女に向かって話し掛けた。



 時間的猶予が限られた中、急遽行われた会議で出た結論は【飛龍を放棄し地下要塞に合流】だった。未だ犠牲者は出ていないものの、物資的に限られた状況で戦闘を続ける事は得策ではなく、一刻も早く補給を円滑に行える環境が整った地下要塞へ移る方が必要との判断が下された。


 「……カズン、ひりゅー、好き。でも……ゴハン無くなるの、イヤだもん……」


 彼女らしい答えに俺は小さく頷きながら、計画の大まかな流れを思い返す。


 小さな手荷物と乗組員の移動は垂直離着陸機を使い、その護衛を戦闘機が受け持つ。そして人員が無事に移動出来た後、飛龍から資材等を運ぶ大型機を強硬着陸させて大きな資材や兵器を運び出し、無人のまま待機させる……。


 口で言えばたったそれだけの事だが、実際にやろうとすると……常に【飛竜種】の存在が悩みの種となる。垂直離着陸機に自衛武器は無く、単独での運用は危険でしかない。周辺警戒を繰り返しながら飛竜種を蹴散らし、隙を見て速やかに地下要塞へと移る必要がある。


 「……で、その荷物は後に回すのはいいが……」


 俺は手荷物として送る予定の、大きな段ボール箱をガムテープでぐるぐる巻きにするカズンの傍らに鎮座した、更に巨大な四個程の段ボール箱の山に視線を移して部屋の入り口を眺めてから、


 「……どうやって部屋から運び出すつもりなんだ?」


 と、そう言った瞬間、カズンは箱の大きさと扉の幅とを見比べてから悲しそうな目付きになり、


 「そーゆー事は、入れる前に言ってほしかった……」


 ベリベリとガムテープを剥がし、中身を別の段ボール箱へと移して荷造りを続ける。いや、俺はちゃんと言ったんだが……聞いていなかったお前が悪い。




 ガチャガチャとカバンの留め具を掛けて、【紫電】のタラップに足を載せたカズンがコックピットへと飛び乗る。


 「また戻って来るんだから、長距離偵察と同じ持ち物は要らないだろ?」


 「そうだけど、何が起きるか判らない!」


 自分の座席に身体を預けながら彼女が答えると、左右から伸びた固定用アームがカズンを固定する。がちりと拘束具が噛み合う音が響く中、俺は垂直離着陸機から先行する為、機体を滑走路へと進ませる。


 ……これで、暫くの間はお別れって訳か。


 俺の思考を知ってか知らずかは、判らない。しかしいつもより強めの加速を与えながら、射出器が【紫電】を勢い良く押し出した。


 ミシリ、と機体全体が軋む音を立てる程の急加速で【飛龍・改二】から放たれた機体は、薄暗い滑走路を抜けて大空へと解き放たれる。


 一瞬で眼も眩むような明るい大気中に飛び出した【紫電】は、可変翼をゆっくりと後退させながら加速重視の(やじり)のような形状へと変化。そのまま大出力を発揮する菱形に並んだ四発ジェットエンジンを唸らせ、一息で音速域を突破する。


 【 音速航行維持 姿勢制御・安定優先 】


 自動的に選択される航行モードを流し見しつつ、後方で発進した垂直離着陸機の動きから未来位置を推測する。問題無く飛行するのを確認した俺は、大きく旋回しながら地下要塞へと向かう進路へと先回りし、警戒用ドローンと機体周辺情報をリンクさせる。


 ……該当空域に、飛竜種の脅威は無し。


 今まで、一切の手出しをしてこなかった連中だが、攻め込むつもりが無かった訳ではないだろう。必ず何処かで機会を窺っている筈だ。


 そう結論付けながら、遅れて地上に……いや、地下要塞に向かって降下していく垂直離着陸機をレーダーで確認し、【紫電】に大きく弧を描がかせながら後方へと回り込み、追い抜き際に両翼を交互にバンクさせてから先行した。




 

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